第31話 魔力と操作

「では改めて魔力について説明する」

「お願いします」

「さっき軽く話したが、神聖魔法と七大魔法が同じ魔力から発現しているのは理解したな?」

「はい」

「では目をつむって手を出せ。手の平は上に向け意識を集中しろ」

「は、はい、こうですか?」


 手に何かが触れる感触がする、さっき魔石を手渡された時の様な包まれる感触だ。


『良いですか先輩、お釣りの受け渡しのタイミングで親密度がわかるんです、相手の気持ちが分かる貴重な時間です』


 メイドカフェの店員と結婚した後輩の言葉をまた思い出してしまった、嫌なタイミングだ。特に何もないはずなのに変に意識してしまう、全くバカバカしい。俺も後輩の様に大卒後の23歳で父親になっていたら、Aくらいの娘がいてもおかしく無い年齢なんだぞ。

 

「よし、そのまま感じていろ、詠唱を開始する」

「は、はい、お願いします」


 芸能人なら25歳程の年の差婚なんか珍しくないが一般人の俺には…、ええい!俺は生涯独身を決めていたじゃないか、邪念よ消えろ!!


「魔力の流れが見えるはずだ。主よ――」


 目を瞑っているというのにAが詠唱を始めると流星群の様にチカチカと何がが横切っているのが見える気がする。丁度差し出した手の平辺りだろうか、妙な感覚だ。


「勤勉なる子に一時の安らぎを与え不屈の精神で邁進まいしんする加護を与えん、勇敢ブレイブ


 光の粒が渦を巻き上げたと思ったら光線のようなものが上に放たれた。手の平はうっすら熱を帯びている気がする。


「うわっ!?」


 光線が上から落ちてきて黒の世界が一瞬白く染まり人型の光が現れる。


「こ、これは!?」

「目を開けていいぞ。それで、見えたか?今のは精神補助の魔法を私にかけた」


 目を開くと人型の光に収まるようにAがいた。何だか目が最初にあった時みたいにギラギラしてるような気がする。


「流星のような不思議な物を感じましたが、それより精神補助ってなんですか?!」

「良かったな、魔法の素質があるぞ。勇敢ブレイブは主に精神を落ち着かせ恐怖を感じにくくなる魔法だ、敵の攻撃を目を開けて対処したりする時などに有効だな。ただし力量の無い者に使うと根拠の無い自信から相手の力を読み間違えて死にやすくなるという魔法でもある」

「素質ありますか!って!いやいや!?何でそんな諸刃の剣みたいな魔法を今かけるんですか!?」

「何だ?私は普段からかけているぞ?今朝はちょっとかけ忘れていたが」


 な、なにぃ!?かけ忘れていた!?と言う事は、俺が今朝から違和感を感じていたAの態度は勇敢ブレイブの効果が切れていたからなのか?

 化粧前のすっぴん姿を見てたようなもんだとしたら、すっぴんのままいてもらいたいような…。

 

「そ、そうなんですね、勇敢ブレイブに影響されてない普段の師匠マスターをもっと見ていたかったな〜、な、なんて」


 Aの様子を伺いながら、おそるおそる提案してみる。


「何だそれは、変な奴だ。普段の私なら勇敢ブレイブを常時かけているぞ?常用しても問題ない魔法だからな。話がそれた、話をすすめるぞ」

「お、お願いします」


 間違いない、これは完全に俺が知っているいつものAに戻っている気がする…まじか。


「それでだ、素質が無い者は魔法の修得は不可能 だ。今の魔力の流れが見えたなら練習次第でBBも魔法を修得できるだろう」

「それは!ありがとうございます!頑張ります!」

「あぁ、任せておけ。私の初めての奉公人なんだ。しっかり鍛えてやる」

「お、お手やわらかに」

「何を言っている?お前の手は私よりも柔らかいじゃないか、硬い男らしい手にしてやる」


 Aのギラギラしていた目が一瞬だけ泳いだ気がしたが、訓練を想像して日和った俺の気のせいかもしれない。


「では続けるぞ、魔力は強い精神力に反応しやすい。人智を超えた奇跡を発現させる力だが、この力を発現するにはまず神の道標みちしるべが必要だ」

「神の道標みちしるべ?」

「こうして手を繋ぎ、修得者が未修得者へ魔力の流れを体感させる事だ。魔法を覚える為に誰もが通る道だ」

「それは一人では魔法を修得できないという事でしょうか?」

「そうだ、まず修得者が魔法を使い、魔力の流れを見せて覚えさせる事が必要になるんだ。仮に魔力操作が出来るからといって、魔法を新たに作り出すなどという事は出来ない」

「なんだかイメージと違いました、もっと自由なものかと」

「自由にしても良いが、魔力操作の結果が何をもたらすのか分らないものは驚異でしかないぞ?下手をすれば死ぬことになる」

「死ぬのは困りますね…」

「もともと魔法は神の力だったと言う話しだからな。伝えられている魔法を使えるというだけでも感謝すべきだろう」

「神聖魔法と七大魔法、それぞれ何て言う神様の力なんですか?」

「どちらもベルフェ様の力だ」

「ベルフェ様!?」


 あのベルフェ様が魔法を伝えた?

 神隠しの時に彼女から介抱されたが、腕に2箇所の傷跡が残っていた事からてっきり俺は状態固定を利用して無理やりくっつけたのかと思っていたんだが。


 シトロから重症と言われた肌の傷さえAの治癒で傷跡が残っていないのに、本当に魔法で介抱されたのだろうか?


「何も不思議な事はないぞ?続けるぞ?」

「は、はい、すみません。お願いします」

「人は豊かな暮らしを求め、魔法を使うために神に魔力操作の教えを願った。そして神から人に、人から人に魔力の教えが広がった。これを伝道と呼ぶ」

「伝道ですか。なんというか、よくこんな方法で失われずに伝わってきましたね」

「そうだな、私は伝えきれずに忘れ去られた魔法もあると思うぞ。魔力操作が難しい魔法は伝えられる相手も限られるからな」


 何だか後継者不足の伝統工芸でも見ている気分になってきた、実際はそこまでではないとは思うが。


「それで、肝心の魔石の話だが。BBに素質があったから使い方を早速教えようと思う」

「宜しくお願いします!」

「良し、また手に集中しろ」

「はい!」


 ん…説明を受けている間、ずっと手を繋いでいた事に今更気付いた…。

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