第28話 スキルの教え
食堂に着くとEが食事の準備をしていた。手際よく動く姿から彼女が料理に熟知している事が分かる。
「何か手伝える事はありますか?」
「そうですね、調理スキルレベルと習得している料理を教えてくれますか?」
「スキル…レベル?
良くわかりませんが、自炊していたので一通りのお手伝いができると思います」
「あぁ…、BBさんは異国の方でしたね」
「はい」
「ではスキルについて何もご存知ないのですか?」
「申し訳ないです、良ければ教えて頂けますか?」
「我らの聖女様は『スキルの教え』を広めています」
「スキルの教え?」
「スキルを知ることで生活水準を上げ幸せになろうというものです」
「そこまで便利なのですか?」
「便利です、この教えもあって当教会には多くの信徒が集っています」
「一般人でも気軽に使用できるものなのですか?」
「スキルには多くの種類があるので一概には言えませんが、
例えとして【調理スキル】について説明しましょう。
Lv2は『魚解体』
Lv3は『獣解体』
という感じで習得されます。
【Lv1】の者に魚料理や肉料理を任せるなら『解体されている材料』が必要になりますので作れる料理が限定されます。
【Lv3】なら材料の状態に縛られる事なく任せられます。
また【料理スキル】として『パン』『シチュー』『サラダ』などの習得を確認できれば安心して調理を任せられます」
「それはその、自己申告なんですか?
例えば俺は魚解体はできると思うんですが、スキルがあるかは不明です」
「スキルの有無は『
「なるほど、雇われるなら『免許』が必須と」
「そうです。『免許更新』も兼ねて礼拝に来られる信徒も多いですよ」
「その…、話を聞いていて気になったのですが奉公人は信徒には含まれないのですか?」
「含まれません、奉公人はあくまで神官に仕える者ですから」
「なるほど…だから特に布教される事なく奉公人になれたわけか」
「あの、失礼ですが教会の事を良くわからずに奉公人になったのですか?」
「いやぁ…はい、恥ずかしながら。とにかく武力の修行と安定した生活が必要だったので奉公人に志願したんです」
「そうだったのですね、では教会についての説明を受け信徒になることを希望されますか?信徒になれば『神眼』と『免許』の発行が受けれるようになります。お
「恥ずかしながら薪の調達で全財産使ってしまいまして、今は手持ちが全くありません。後日お願いしたく思います」
それにしても『スキルの教え』か、驚いたな。
一般人がスキルを『免許』として使用する程にスキルの認識は広がっているのか。
まぁ、神の性質【怠惰】で世界言語が一つしか無いベルフェ様の世界なんだ。便利なものなら歓迎されるだろう。
『免許』欲しさに『神眼』で簡単にスキル管理されてしまうあたりも分かりやすく【怠惰】な世界な気がする。自分のスキルが分かるのは確かにありがたいが、都合が悪いスキルを持っていたとしてもバレるのだ。日本人なら個人情報を抜き取られ管理されているみたいな感覚になって拒否する人もいるのではないか?
俺の場合、神の恩寵により手に入れたスキルを果たして教会に知られても良いものか悩んでいる。
「質問なのですが、スキルには魔法みたいに特殊で強力なものもあるのですか?」
「特別な力を発揮できるスキルも勿論ありますよ。分かりやすいものをお見せしましょう」
そう言うとEは説明しながら料理で動かしていた手を止め、深く一呼吸しながら近づいてきた。
ゆっくりとした動きで俺の胸に手が触れるか触れないかというあたりで、嫌な予感がした。
「…
「な」
Eは軽く俺を押した。
「んでぇぇぇぇ!!!」
「このように使用者の『気力』を消費して特別な力に転換するスキルを『技』と言います。これは軽い動作で大きな力を伝える『
食堂から廊下に吹き飛ばされている俺を気にする事なく、Eはたんたんと説明をする。
「げほ、げほ、げほ、暴力シスター…」
「身をもって体験するのが一番分かりやすいのです、
『神の慈悲を与えん、
「うぅ…ご説明ありがとうございます…」
この治せば良かろうという認識の世界観は奉公人への態度からなのか、俺個人への態度なのか判断が悩まれる。ただ、良くない認識が根付いているのは確かだろう。
「聖女様の偉大さの一端がこれでわかりましたか?」
「はい、痛いほど」
「よろしい、ではスキル未習得のようですから席に座って待っていて下さい」
「すみません、よろしくお願いします」
スキルについて聞けたのは想定外の収穫だな。『気力』『魔力』という概念の確認もできた。これまで使い方が分からなかったので放置してきた俺のスキルも教会からスキルについて学べば割と早く使いこなせる様になるのではないか。
「待たせ…お待たせ」
「A姉様、丁度できあがったところです」
考え事をしているとAが普段着に着替えてやってきた。何か様子がおかしいような。
「BB、Eの料理は美味しいから覚悟する事だ」
「覚悟とは…」
「Eが調理スキルマスターという事もあるが、私が食べた事がある食事でEより美味しい料理を作れる者はいなかったよ」
「A姉様、そんな風に思ってくれてたんですね」
Eは感動したような素振りでAを見つめている。
「そんな素晴らしい食事に俺が同席して良かったんですか?」
「ああ、私の初めての奉公人だからな」
「そうですか?それならお言葉に甘えて」
「A姉様、お待たせしました。すぐに食べれる物をと思い、フレンチトーストを用意しました」
「ふ、フレンチトースト!?」
確かフレンチトーストはサンドイッチと同じで人の名前が由来だった気がする。何故異世界にフレンチトーストが?
「Eの得意料理の一つで聖女様直伝の料理だ、甘くて美味しいぞ」
「あ、甘い!?」
Aと俺の前にズッシリとしたフレンチトーストが差し出された。おそらく粉砂糖と思われるものが粉雪の様に美しくかかっていて、普通に日本の洒落たカフェで提供されそうな美味そうな一品だ。
………いやいやいや!!
聖女様直伝のフレンチトーストだと!?この馴染みのあるフレンチトーストは異世界にそもそも存在したのか?
まさか、聖女様が先輩勇者なのか?少なくとも先輩勇者と何らかの関係があるのではないか?
「紅茶を用意してきますので、どうぞお召し上がり下さい」
「いただきます」
「い、いただきます!」
と、とりあえずまずは食べてみよう。宿屋自慢のシチューみたいに肩透かしを食らうかもしれん。
木製のフォークで大きめに切り分け、口一杯に頬張った。
!?
モグモグモグモグ!!
「う、うまい!!カリッとした表面にふわふわもちもち食感…
「ふふ、これがフレンチトーストだ」
Aの穏やかな笑顔を初めて見た瞬間だった。
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