第4話 神の寵愛
ぼやける眼を開くと青い空が広がっている。
雲一つない青い空はグラデーションのように美しく、時折吹く風は春のように穏やかだった。
「あー、またか」
どうやら俺は仰向けで目覚めたようだ。
ベルフェの治療解除によって痛覚が回復したのか、強烈な痛みを感じたあたりまでは覚えている。
今は背中と後頭部からゴツゴツした痛みを受けている。
日本ならコンクリートやアスファルトの平坦な道でこんな痛みはない。
これがどこかの公園で、酔いつぶれたあと目覚めた日本の朝とかならまだ平和なんだが。
異空間からゴールに戻って来てしまった事を背中で悟った。
気持ちの良い青い空が急に
「しかしまぁ、今回も別れの挨拶無しか…」
悪態をつきながらこの先どうしたものかと再び目を閉じる。
⁺神技 状態固定
⁺神技 解毒
頭の中でスキルが付与された事を認識した。
ベルフェの使っていた神技がなぜか伝授されたようだ。
時の流れが違っても10年という長い時間、おそらく神技をかけ続けて治してくれたのだろう、本当に頭があがらない。
「また出会える様に頑張るか…」
とりあえず、ベルフェの介抱による影響で俺もスキルを会得したのだと都合良く解釈をする、まだ使い方はさっぱりわからないが気分を変えて一歩踏み出す気持ちにはなれた。
「よっこらせ」
気合の言葉を放ち、オッサン
神々しいベルフェ像がすぐそこにあった。俺が被せていた背広ではなく、金色の細かい刺繍が施された修道士のローブが着せられている。
「10年のうちに何があったんだ」
前回俺が死にかけた円形広場ならこの像の向かいに出口があるはず、すぐさま視線を向ける。
】人、人、人、馬、人、馬、人人人人、人、人【
出口の先に見える光景に唖然とした。
なんだこれは。本当に10年で何があったんだ。
巨石の入口から像の間までには石畳が設置されている。
更に革靴と相性の悪い青草は全く見当たらない。
これほどこの広場が手入れされているとなると、世界が復興してきているとしか思えない。
これは、期待が持てる!!
ベルフェの話によると勇者転送は俺以外に6人。
おそらく俺が神隠しにあっていた10年間で始まりの街アークをここまで復興させたのだろう。俺の心配していた勇者同士の仲違いは多分なかったのだ、協力しあってここまで復興したに違いない。
名前も性別も年齢もわからないが、異世界における先輩達に本当に感謝だ。
一度死にかけた世界だが、この光景を見て気分は軽くなった。他の勇者達に出会えるのが楽しみにさえ思えてくる。出口へ向かって一歩踏み出した途端、足が絡んでたたらを踏んだ。
身体が重い。
そう言えば俺の今の状態はどうなっているんだ?
周りにばかり気を取られて確認できていなかった。
まず、吹き飛ばされた左腕の確認だ。左腕を見ると肩口あたりからシャツが綺麗に切断されている。最初からそんなテザインだったような切口だ。
また、ベルフェによる腕を繋げた跡だと思われる傷跡がある。女性の小指ほどの傷跡が切断面を一周するように残っている。それも2箇所。肩から肘の間、肘から手首の間。肘を曲げ後ろ手で背中を守っていたので、傷から察するに曲げた腕を一刀両断された事になる。しかも腕も体も吹き飛ばされた。
俺は一体何に狙われたんだ、最初に受けた毒で既に致命傷だったのに確実に殺そうとしたのか?吹き飛ばされたのが斬撃と突風?魔法の類だろうか?情報が少なすぎて判断できない。
傷跡は自然治癒したような傷跡だ、魔法で綺麗に治るイメージだったのだがそういうものではないらしい。腕が繋がって命も助けられたのだ、これ以上求めるべきではないだろう。
殺されかけた敵の強さがこの世界において上位の強さであって欲しい。平均的な強さがこれでは命がいくつあっても足りない。
ええい、脅威は去ったのだ、前向きにいこう。
現実逃避で先に進む、進むしかないのだ。
次に服装と持ち物だが、死にかけていた時の姿のままだった。
シャツは赤緑茶と激しく汚れている、恐らく顔も汚れたままだろう。
そして持ち物は何もない、腕と一緒に吹き飛ばされた鞄は神隠しで一緒に転送されなかったようだ。汚れたシャツ、ベルト、ズボン、革靴。それが俺の全てだった。
裸一貫で世直し、まさか38歳からこんな事になるとは。予定はなかったが結婚資金や老後の為にと資産運用で貯めてた金が無駄になった。
俺の仕事ばかりのこれまでの人生はなんだったのか、どういう基準で勇者に選ばれたのか本当に知りたい。
それにどうやら腕は繋がっているが体力の回復はしてないようだ。流しすぎた血のせいなのか、毒による後遺症なのかは分からないが、さっきから身体が重くて仕方がない。
あー、駄目だ。
悪い事ばかり考えてしまう、腹が減っているのかもしれない。
もっと前向きにいこう。とりあえず飯を食おう!金は無いが、なんとかなるさ。
「神様、お世話になりました。
なんとか頑張ってみます、次に会えたら胸揉みますから、心してくださいよ」
別れの挨拶を済ませ、おぼつかない足取りで歩み始める。
神の性質が無意識のうちに影響してくる世界へ。
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