8話 朝日が昇る

 ――とある吸血鬼は言った。

 ――この世界は美しいと。しかし、それでいて残酷だと。


 夜明けの時間。アリアは教会の中央に生えている大きな樹に腰を下ろしていた。

 季節感覚が無いからといっても朝は寒いものだ。


「あれから二週間か……。二人とも、元気にしているかしら」


 草木の匂い、土の匂い。それを感じながら、そんなことを想っていた。目をつむり、深呼吸をする。次に目を開ければ、朝日が昇る。

 沢山の事がいっぺんに起こった。

 それをアリアはひとつひとつ確認しながら記憶を整理していく。


「…………よし」


 パチリと目を開く。すでに朝日は昇っていた。

 また『今日』が始まる。これからもそれが『毎日』続くことだろう。

 気の遠くなるほどの、長い時間を生きてきた。生きていく中で沢山時代が変わった。愛する人も失った。世界が逆転した。右腕もなくした。呪いもかけられた。沢山、嫌なことも苦しいこともあった。――だが、この朝日だけは何も変わらない。

 変わらないものもある。

 アリアはそういった『変わらないもの』を、大切にしようと、心を決めた。


「さあて。今日も、街は賑やかね~」


 ん~、と大きく伸びをする。すると、


「アリア~? どこに行ったんですか? もうそろそろ起きる時間ですよ~」


 シオンの呼ぶ声がする。その声を聴くと、アリアは微笑んだ。


「くすくす。さあ、シオンを驚かしに行こうかしら!」


 そう言って、枝の上に立つと、そのまま地面へと飛び降りた。

 このあと、アリアの思惑おもわく通りにシオンが驚いたのは――言うまでもないだろう。

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