5話 決着

「今、なんて――」


 聞き直す必要などなかった。シオンにもその言葉は届いていた。

 ベルベルク。それはシリウス――アリア――をおとしいれた元凶げんきょう


 その昔、彼から聞いたことがある。その剣で斬られたものはことごとく塵と化すのだと。何があっても再生不可能なのだと。

 それが望みだったのではないか? 消えたいと何度も願った。シオンの中で、死ぬことに対しての欲が葛藤かっとうを起こしていた。


「ベルベルク――起動」


 しかし、そんなことを考えている暇などなかった。攻撃は常にどこからくるか分からない。油断してしまっていた。シオンはすぐに影膜をかいし、カーネストとの距離を取ろうと後ろへ飛ぶ。だが、遅かった。

 カーネストはベルベルクを担ぐように持ち、振り回す勢いで影膜を切り伏せた。豪風と轟音が一帯を静寂へと追いやる。


「これが、聖剣の威力……!」


 その圧倒的な破壊力を目の前にして、シオンは正直ビビった。その瞬間、彼の気は緩み、武装もけてしまった。


「しまっ――」

「……!」


 カーネストの表情はまるで獣を狩るものだった。大きく口角を上げ、とても楽しそうに笑っている。内心、ぞっとした。こんなにも狩ることを楽しむ「人間ばけもの」がいるのかと。


「いったい、どっちが化け物なんだか……!」


 この距離では避けきれない。あぁ、長いような短いような人生だったなと走馬灯が彼の脳内をぎる。その一方で反抗しようと、震えた手でもう一度デスサイズを出そうと試みる。しかし、出てこない。それは目の前の力が強大だから。それを自覚してしまったから、力にストップがかかってしまったのだ。


「そんな!」


(ごめん、シリウス……!)


 覚悟を決めて目をつむる。そのタイミングを見計らっていたのか、彼が目をつむった瞬間にカーネストは聖剣を振り下ろした。

 だが、その攻撃は寸でのところで止められる。


「……っっ、ぐふっ」


 カーネストは盛大に血を吹き出した。なぜそのような状況になったのか、彼自身もすぐには分からなかっただろう。


「――自分の力に溺れるからだぜ、殿


 それはシリウスだった。

 シリウスの『月光花げっこうか』がカーネストの胸を貫いていた。見事に、的確に、間違いなどなく。明らかにそれは心臓を貫いている。

 家族を守るためだった。仕方のない事だった。

 確実に仕留めたと思ったので、シリウスは一気に胸に突き刺した『月光花』を抜く。血が周囲に飛び散った。それと同時にカーネストの体も崩れる。

 使用者の力が消えたからだろうか、ベルベルクはそらへと消えていった。


「シ、シリウス……!」

「怪我は無いか、シオン?」

「はい。それよりもその姿は?」

「ん? あぁ、マリーに。……どうせまた一時的な物だろう。少々、名残惜なごりおしいがな」

「そう、ですか」


 シオンは少し残念そうに肩身を落とした。


「まぁ、いいじゃないか。お前はもう少し熱くなり過ぎないよう気を付けなければな」

「……はい」


 戦いの全てが完結したと思ったのも束の間だった。シリウスの後ろから、鈍いうめき声が聞こえた。その正体は見ずとも分かる。今しがた倒れた、カーネストだった。


「カーネスト。もう動くな。死ぬぞ」

「げほっ……。吸血鬼の分際で、戯言ざれごとを……。私には、まだ、やるべきことが……がはっ」


 今にも消えようとしている命を目の前にしてシオンは何も言えなくなった。自分で何もできなかった悔しさがつのる。


に聞きたい。私の腕は、どこだ?」

「…………誰、が……言うものか……」

「ほう……」


 シリウスはうっすらと目を細め、怒りのこもった視線をカーネストに向けた。


「では今すぐ死ね。貴様に用などない」


 そう言ってシリウスは月光花を上へかざした。その刀を首の上へと持っていき、あとは振り下ろすだけだった。


「さらばだ、人間」


 シリウスは勢いよく刀を振り下ろした。

 だが、間一髪のところで、それは失敗に終わる。


 攻撃を止めたのは――だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る