3話 白銀の剣

 非力だと、誰かがなげいた。

 無力だと、誰かが呟いた。


 *


「……おばあさま、幸せだったのね……うぅ……!」

「だからさっきから言ってるでしょう? 何回説明させる気なのよ……?」

「まあまあアリア。こうやって和解できたのだし、よかったではないですか」

「それも、そうね」


 アリアたちは教会の中にある庭にてお茶をしていた。シフォンケーキにミルクティー、スコーンにジャム。並んでいるのはすべてアリアが作ったものであり、シオンは一つとして作っていない。シオンの作ったものは爆発的に不味まずいからである。そんなものをもう一度食べる気にはなれなかった。


「それにしてもこれ、美味しい。全部あなたが作ったの?」

「てか、そろそろ『あなた』って言うの止めてくれないかしら? 名前で呼んでくれると嬉しいのだけれど?」

「そ、それは……」


 今更、名前呼びだなんて、できるわけがない。マリーの中には恥ずかしさと負けたくないという気持ちが交じり合っていた。胸がそわそわする。今、顔が真っ赤になっていることだろう。そう思うと、なんだか気まずくてマリーは咄嗟とっさに俯いた。


「……ふむ。まあ、そんな簡単には言ってくれないわね」


 などと、本気で悲しげな表情をした。


「あ、う、……リウス」

「ん?」

「シ、シリ、ウス……、」


 急にアリアがその場に立つ。続いて何かを感じ取ったかのようにシオンもその場に立った。その表情は実にけわしく、まるで、敵を射抜いぬくかのような眼光だった。


「え」


 急の事で、マリーはその状況に追いつけていない。


「シオン」

「分かっています。マリーちゃん、僕から離れないでください」

「え? あの」

「――来る」


 その瞬間、教会に張っている結界――アリアが強固に張っている――に轟音ごうおんとどろいた。


「きゃぁっ」

「くっ、飛んだ馬鹿力だな!」


 結界はその形を何とか保っているといった状況だった。すぐに強固なものにしようとアリアは結界を作り直そうとする。だが、遅かった。

 作り直す暇もなく、続いて二撃目が結界を破壊する。


「くっ」


 パリパリパリと、結界が崩壊していく。目の前にいたのは――カーネストだった。その手には教会魔装きょうかいまそうであろう一本の剣を持っていた。白銀のそれは、赤い血に染まっていた。むせ返るほどの血の臭い……。いったい、どれだけの犠牲を出して、この結界を破壊したのだろうか。アリアはそれだけが気掛かりだった。


「カーネスト大佐……!? なんでここにっ」


 マリーが叫ぶ。


「……吸血鬼。『ラスト・ブラッド』。消滅。少女。青年。」


 しかし……それは届かない。


「大佐……?」

「ユースティア。リトリア。シリウス。……」

「……? 一体彼は何を言っているんでしょうか?」


 不気味に思ったシオンがアリアに話しかける。しかし、アリアからの反応はない。


「アリア? どうかしたのです、」


 その言葉は途中で途切れる。なぜならアリアが驚愕きょうがくしていたから。

やっとのことで言葉にできたのは、かぼそく聞き逃してしまうくらいの声量だった。


「…………アイツ、は、私の腕を、あの時、斬り落とした……」


(今、思い出した……。確かにあの時、アイツはあそこにいた……!)


 その言葉を、シオンが聞き逃す、がなかった。

 シオンの表情が穏やかなものから一気に怒りに変わった。


 ――今度こそ、後れは取らない……‼ と、シオンが一気に地面を踏み込み、走り出した。


「シオンさん――!」


 マリーは何か恐怖のようなものを感じて、シオンを止めようと白衣のそでを掴もうとした。しかし、それはできなかった。

 シオンはデスサイズを出し、すぐさまカーネストに襲い掛かる。右方向からのスウィング。理性が吹っ飛んでいた。その表情は冷静ではなかった。


「待ちなさい! シオン!」


 アリアの言葉も今や届くこと叶わない。怒りにすべてを任せている。そんな攻撃だった。

 シオンはその鎌を勢い良くカーネストの首めがけ振る。だが、白銀の剣によってその攻撃は防がれる。反動によりシオンは少し吹っ飛ぶ。


「がっ!」

「お前には用はない。あるのはそこにいる吸血鬼だけだ」

「――っ、黙れ! 貴様が、シリウスの右腕を……!」


 もう一度飛びかかる。今度はヒラリとかわされ、剣の柄で首を叩かれる。普通の人なら気絶するくらいの強さで。が、シオンには効かない。

 シオンはすぐに体制を正し、次の攻撃を仕掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る