2話 和解と胸騒ぎ
「着いたわ」
アリアによって連れて行かれた場所は小さな教会だった。
そう、数日前マリーが襲撃した、アリアたちの教会。
「なんでここに」
「さあ、入りなさい。歓迎するわ」
「な……。そんなの、無理に決まってるじゃない」
「? なぜ?」
「だって、私は――!」
私は――あなたに許されないことを多くしてきたのだから。
マリーは一度、その言葉を飲み込んだが、飲み込み切れずそのまま吐き出してしまう。この言葉を吐き出してしまえば楽になる、その代わりにマリーはアリアに対して後ろめたい気持ちを引きずることになると自覚していた。
「私は……許されないことを沢山してきたの。だからここに入ることが、できない」
「……そんなこと言ったかしら?」
「え?」
「私が、いつ、そんなことを言ったのかと、聞いてるのだけれど?」
「それは……」
言われていない、はず……。いくら記憶を
生き写しのローズの形見。そんな彼女を、アリアは大切にしないわけがなかった。
「ま、あの時の事を
「……おばあさまは、どんな人だったの」
「――きれいで、可愛くて、純粋で。それでいて
「…………!」
アリアは今が少女体であることを忘れ、ひとりの男として惚れた女性の話をした。
その言葉を聞いて、マリーは少なくとも救われた。小さい頃に母から聞かされていた、「あの大地震の日、おばあさまは本当に好きな人に自分から会いに行ったのよ」という言葉を不意に思い出す。あぁ、この人は自分の意志を貫いて、強かに死んでいったのだなと、感じたのだ。また目頭が熱くなる。だがここで泣いてはいけない。泣いてしまったら、弱い自分をこの憎いはずの吸血鬼に見せてしまう。弱みを握られる。そう思った。
「泣くのを我慢する必要はないわ。どーんと泣きなさい!」
バッとアリアが両腕を頑張って大きく広げる。
その光景は実に可愛らしいものだった(それを感じているのはシオンのみであった)。
「だ、だからといって今、あなたに抱きつくことはできない!」
「可愛くないな~。まあ、まだその距離があるということね。ふむ」
「あの、自己完結しないでくれないかしら」
「そういうところも、ローズそっくり」
そう言うと柔らかい笑顔でアリアが微笑む。その顔に少しだけキュンとしたマリーは、ハッとして自分の顔を軽く両手で叩いた。
*
カーネストは疑問だった。
あの男、リトリア=アリアロキがなぜ、『ラスト・ブラッド』のことを――いや、国の重要機密を知っていたのか。
そして、『ラスト・ブラッド』との関係。
さらには……数十年前から変わらない若い容姿。
それが彼自身の能力の呪いならば納得が少しはいくだろう。だが、その気は見当たらない。むしろ、彼が教会と相反する存在である方が納得がいくのだ。
そのためにここ何年も探りを入れてきた。
(結局、その成果は未だ見つかっていないが)
教会本部の
カーネストは『吸血鬼』について調べていた。
「『吸血鬼は純血種と
不明。
おそらく、リトリアは吸血鬼で、それも混血種の方だろう。カーネストはそう睨んでいた。
「……なぜ、記述が途切れているんだ。……。……もう一度、あの教会に行く必要があるな」
そう言ってカーネストは図書館を出た。
その場に置かれた吸血鬼の書。図書室の窓が開いていたため、風が入ってきてしまう。その風に吹かれ、ページが開かれていく。
――
*
リトリアは妙な感覚にとらわれていた。
それはいったい何なのか。自分でもわからない。ただ、「変な感じだ」という感覚が襲う。
「胸騒ぎ、かな。……これから不吉なことでも起こるのだろうか……」
そう思いながら窓越しに外を眺める。ふと、見覚えのある人物の影がリトリアの視線を動かした。カーネストである。
「あの人……一体どこへ……」
嫌な予感がした。何をそんなに急いでいるだと、脳に電流が走る。伝令する。あのまま行かせてはならないと。行かせてしまったら何か大変なことが起こってしまうのではないかと。
リトリアの思考の中には一つの事しか思い浮かばなかった。
「シリウスが――危ない……?」
途端、体が勝手に動き出した。向かう先は――
「もう二度と、あの子からは何も奪わせない。……待っていてシリウス。必ず取り戻して見せるから――!」
その声は誰もいない部屋で響き渡った。
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