2話 混血種の兄
「父が母に対して暴力をふるうようになったのは他の男が……というか本当の婚約者の長が父から母を取り返そうとした日からです。母は……本当に強かで美しい
「あの、何を言って、っていうか話がぶっ飛んでいる気がするんですが!?」
「母は
それは、遠回しに自分たちが美しいと言っているんですか!? シオンはどんどん複雑な気持ちになってきた。止めるタイミングを見失ってしまった。嫌そうな表情を浮かべながらもリトリアの話を静かに聞いていた。
「……あ、すみません。何の話でしたっけ」
「あなたが純血種じゃなくて混血種だって話ですよ。愛人だの不倫だのと、なんだか気になるワードを沢山並べていましたね」
「別に聞かれても困るものじゃないですし、なんなら話し続けますけど?」
「もういいです、お腹一杯なんで!」
「そうですか……残念です」
くすくすと、彼は
「ただ者じゃない……」
「え? 何か言いました?」
「何でもないです。気にしないでください」
「……? そうですか。……はぁ、美味しかった。
「そうですか。それはよかったです」
「はいっ」
すごく無邪気な表情で、まっすぐ、シオンを見る。こういう所を見ると、やはりこの男はシリウスと兄弟なのだなと、血は争えないんだなと、そう感じた。
「それではこれで、私は失礼しますね……――あ」
「?」
リトリアは何かを思い出したようで、くるりと
「シリウスによろしく言っておいてくださいね」
そう言い残すと彼は、微笑んで街の闇の中へと姿を消して行った。
*
――『シリウスによろしく』……ねぇ。
シオンは複雑な気持ちになった。敵の
シオンはシリウスのためだけに生きているし、シリウスの脅威となる存在が目の前に現れるものなら、例えシリウスの実兄であれど殺すことができるだろう。
「さてと。僕も帰るかな……。あれ?」
レシートがない。一体どこに……。と、キョロキョロとテーブルの周りを見渡す。しかしレシートのような紙切れはどこにも見当たらない。仕方なく、近くにいた店員に声を掛ける。
「すみません、会計をしたいのですが」
「はい、あ、あのテーブル席の方ですか?」
「あ、はい。そうです」
「それなら先ほど済まされていますね。お連れ様ではなかったのですか?」
「え?」
まさか。敵である、しかし恩人の家族である彼が
ますます、彼が何をしたいのか、わからなくなったシオンであった。
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