11話 幸せな夢を見た

 そこで、目が覚める。

 どこか、まだ夢物語を見ているようで、頭がふわふわとしている。視界は揺らめいている。


(あれ……? シオンは……)


 見渡せる範囲で、確認する。いつもならば、少しの怪我でもするものなら血相を変えて部屋に監禁する勢いで私を心配するのに。今、彼の存在はこの部屋にはない。いや、気配を殺しているがそばにいた。その彼の姿を確認すると、私は話しかける。


「……シオン、どうして、そこにいるの……?」


 彼が消しているのは気配じゃない。これは、殺気だ。どうにかして落ち着かせよう。私は動かない手を精一杯、伸ばす。


「アリア? あ、起きたんですね。良かった」


 顔は見せてくれない。反省しているのだろう。不甲斐ふがいない自分を。


「……」

「アリア?」

「――夢を」

「え?」

「夢を見ていたの。昔の、まだ、の、昔の夢……」

「……うん」


 シオンは、そう小さく返事をするとそばにあった椅子に座った。そして、私の小さい手を握る。暖かい、その体温を、温もりを、私はしっかりと感じていた。


(あ……。やっと顔、見せてくれた……)


「どうしたの……?」

「なんでもありません。ただ、今、ここに存在していることを、確認したくて……」

「……弱虫は……健在ね」

「弱虫じゃありません。僕は、あなたのものですから」


 話が食い違っている。彼は今、とても混乱しているのだろう。握られた手が震えている。


「シオン……私は大丈夫だから。少し、眠いの」

「はい。お休みなさい……アリア」


 そうして、私はまた、夢を見る。

 次は――どんな夢だろうか。

 幸せな夢だと、良いな。君もそう思うだろう? ――ローズ?

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