3話 魔装弾

 マリーは早朝から、アリアたちのいる教会を見張っていた。

 いや、正確にはいた。

 自分では感情の制御が出来ないようで、握る拳は血がにじんでいた。


「自分の罪を忘れ、人間として生きているとは……。許せない……!」


 彼女は本部から持ってきた自身の武器をリュックから取り出す。それは折り畳み式の二丁拳銃だった。

 彼女の所属している『異界保護監察庁教会本部第五機関』は、いわば国から魔族関連の依頼を引き受け実行する本部直属の独立部隊だ。

 この部隊こそ彼女にとってはまさに天職であり、マリーはこの仕事において素晴らしい成績を事あるごとに出していったプロ中のプロだった。

 彼女が扱うのは、教会本部で使用許可が下りている唯一の武器である『教会魔装きょうかいまそう』だ。

 教会魔装というのは、武器そのものに魔法が組み込まれている国家武器であり、一般の武器の軽く十倍は強い威力を誇る。国家武器と呼ばれるのも、使用する人間がその力に飲まれないようにするために国が規定した項目を、教会の試験等で果たさなければ使うことも許されないというところに理由があった。

 しかし、何にも必ず欠点もある。

 一般のライフルなどの武器とは違って、教会魔装は自分の使用者について理解をしている。つまり武器が『意思』そのものを持っているのだ。ゆえに危険な代物しろものなのだが、彼女はてきぱきと器用に二丁拳銃をセットしていく。


《起動スイッチを押してください。》


 拳銃の音声の指示に従い、彼女はスイッチを押す。電源が入り、目の前に操作用のデジタル画面が現れた。

 マリーはそれを慣れた手つきで操作していく。右へ右へと画面をスライドさせていき、あるリストを開く。『弾丸』の残弾ざんだんリストだ。

 弾丸にはいくつからのモードがあり、それぞれ、敵(ここでは魔族の意味だ)の能力に応じて変えることができる。そして、マリーはとあるモードを選択する。


《モード:破壊者ブレイカー――起動します。》


 キュィイーン……、という機械音が体中に響き渡る。

 破壊者モードはある種、力の無い弾丸だ。

 ではなぜ。『破壊』なのか、という疑問が生じるだろう。

 破壊するのは人間ではない。人間、もしくは魔族のつくった結界だ。結界の魔力を無効化し、消滅させる。それがこのモードの力である。

 拳銃に力を込め、弾丸を装填そうてんする。ガチャリという音とともに二丁拳銃がヒートしていくのが分かる。そしてマリーは標的である教会の結界へ二丁拳銃の先を向けた。


標的ターゲットを・ロック》


 指示が、降りた。マリーの肩に無意識に力が入る。


魔装弾まそうだん、装填」


 引き金を引く指が強張こわばる。そして、慎重に狙いを定める。

 そう。すべてはに。

 マリーはただ、それだけのためにアリアを憎んでいた。彼女にとってはそれだけではないのだ。しかし、いざ人ひとりを殺そうと思うと、気が引け、嫌な気分になることだろう。

 マリーは心の中で何度も気持ちを確認した。後悔なんてないのだ。これが、自分の使命なのだと、意思を確認した。


「目標確認……!」


 引き金が勢い良く引かれた。

 瞬間、爆音が街中に響き渡った。

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