「わたあめの」
「わたあめの」
「……の?」
「袋に私、
「なにその川柳」
今日も
「や、最近見ないよね、イラストの描かれたわたあめの袋」
「えー、そうかなぁ。単純にお祭り行ってないだけじゃないの?」
「なにおう。私の何を知っているー」
「知らないけど。私の知らない所で行ってるんなら知らないけどさぁ」
だとしたら少し寂しい話だ。とはいえ、お祭りに行ってるのであれば絵の描かれたわたあめの袋を見ているだろうし、どうせ行ってないのだろう。
「わたあめなー……」
「なんかあるの?わたあめ」
「んー、話膨らまんなぁって」
「えぇ、わたあめの話がしたくて切り出したんじゃないの?」
「わたあめって別に語ることないし」
そんなことはないと思う。全然ある。自分で作るとなるとなかなかむずかしいよねとか、お祭り名物めっちゃ大きいの作るおじちゃんとか、都会ではカラフルで映えるわたあめが売っているらしいとか、いろいろ思い浮かぶ。
「わたあめみずあめりんごあめ」
「あめシリーズ?」
「
「サメじゃん。あめだけど」
「フカヒレ」
「サメじゃん、完全にあめなくなったじゃん」
「
「ハレじゃん、あめなくなったってそういう意味じゃないよ」
「
「あめじゃん……」
「最初から一貫してあめの話だったでしょ」
「一貫して……?」
そうだっただろうか。
「五月病……」
「今3月だけど」
「や、や、ご存知ないならおしえてあげましょう。今はねー、新しい環境に適応できず不調をきたすことも五月病というのだよ」
なんだその顔は。知らないなら仕方ない教えてあげましょう、の顔をするな。知ってるが???最初の「や、や、」という入りも絶妙に腹立たしい。
「えー、理音の環境変わってないでしょ、別に。クラス替えとかは来月だし」
「げ、やーなこと思い出さしてくれんじゃん。そか、クラス替え……なー……」
私もクラス替えのことを考えるのは憂鬱だが、我らが通う学校は田舎にあり(つまりは我らが暮らすこの地が田舎ということに他ならないが)、私たちの学年は2クラスしかない。単純に考えれば1/2の確率で同じクラスになる。
「大丈夫でしょ」
「甘いねぇ、わたあめのように」
「えー、そうかなぁ?きっとなんとかなるよ。……多分」
「ふわふわしてるねぇ、わたあめのように」
「私たちなんだかんだここまでずっと同じクラスだったわけだしさ」
「ヒューヒュー、熱いねぇ。溶けちゃうよ、わたあめのように」
さっきからそれはなんなんだ。
「まぁでも確かに絶対の保証はないか。じゃあ、心残りのないようになんか今から思い出でも作っとく?」
「ん、じゃあ……、ベタベタする?わたあめのように」
「えっ……。なんかヤダ……」
「はー?割り箸刺したろかー?わたあめのように」
「いやすぎる……」
厳密にはわたあめって割り箸で巻きとってるのであって刺してるわけじゃないな、とあとから気づいた。
「んー、思い出ねー。……じゃ、今の私たちを記念に残しとこうよ。はい、ピース、チーズ、ビーフ」
「三段構え」
カシャ
「んむ。よき」
「こんな道端で撮った写真によいもなんもないと思うけどね」
「で、この写真をわたあめの袋に印刷して売りさばく」
「やめて」
「んぉう。印刷、1000枚からかー……」
スマホでサッと調べて顔をしかめる理音。ガチで調べてるの?どこまで本気なのか。1000枚もいらない。
「そんないる?1枚か2枚でいいでしょ」
「や、1枚も要らないけど……。ソーちゃん、乗り気だねぇ」
「私だって要らないけどさ!」
はめられた。
「でもきっと、さっき撮ったこの写真も、夏のいい思い出になるよ。わたあめのように」
「……今、3月だけどね」
最初が肝心なんだって 七瀬の文 @7terabite
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