猫の行方と恋の行方
後藤権左ェ門
猫の行方と恋の行方
「アキラくん、今日も超超超かっこよかったの! ねぇ、ハル聞いてる?」
愛猫ハルは、もう何度も聞いたわ、とでも言いたそうに丸まってそっぽを向いている。
「も〜、ちゃんと聞いてよ〜、ハル様〜」
わたくしナツは愛猫のハルに頼んで、アキラくんとお近付きになろうと考えていた。
高校に入学してすぐ、かっこいいと話題になったアキラくん。
恋に憧れていた私ももれなく恋に落ちました。
かっこいいだけじゃなく、背も高いし、やさしいし、スポーツもできちゃう。
まるで王子様みたいな存在。
スゴ過ぎて、私みたいな普通の子は近付くことすら簡単じゃない。
「だからハル、手伝って!」
私は作戦を決行する。
次の日、授業が終わると帰宅部の私は急いで帰る。
通うのが面倒くさくて、地元の高校を選んだから走ってすぐだ。
それからハルを連れて、また学校に向かう。
校門の近くに隠れてアキラくんの帰りを待つ。
「アキラくん遅いなー。ねー、ハル」
「ふにゃぁぁ」
ハルがあくびをするから、私も眠くなってきちゃう。
あ! 来た!
やっぱりアキラくんかっこいいなぁ……
「ハル、任せたよ」
お願い! ハル!
私は願いを込めてハルを送り出す。
そう! そのまま真っすぐ!
やった! アキラくんのところにいけた!
「にゃ〜」
鳴きながら、さらに近付くハル。
後ずさるアキラくん。
あれ? なんだかアキラくんの様子おかしくない?
「こ、こないでくれぇ! 俺は猫アレルギーなんだぁぁぁぁぁ!!!!」
えー! 私のバカバカ! なんでそんなこともリサーチしてなかったの!
まさかアキラくんにこんな弱点があったなんて……
作戦失敗と王子様の狼狽えぶりに落ち込み、うつむく。
「はぁ……ハル、そろそろ帰……」
あれ? ハルがいない。
少し目を離した隙にどこ行った?
校門の中へ目を向けると、眼鏡をかけた冴えない男子とハルが接近している。
あ、ちょ! ハル、そっちに行っちゃダメ!
私の願いも虚しく、ハルは男子生徒のところへ一直線。
「キミ、どこから来たの?」
猫に話しかけるなんて、彼は絶対猫好きだ。
早くハルを救出して帰らなければ!
「ご、ごめん。それ、ウチの猫なの……」
「そうなんですね。はい、どうぞ」
ハルを抱っこして私に渡してくれようとしたが、暴れたハルの猫パンチが彼を襲う。
その衝撃で眼鏡が飛んだ。
私は慌てて彼の顔を覗き込む。
「ご、ごめん! だいじょ……う……ぶ?」
か、かわいい///
眼鏡を外した顔めちゃくちゃかわいい///
「僕の方こそごめんなさい。キミも急に知らない人に触られてビックリしたよね」
ドキッ
ハルに向けるやさしい眼差しに心が跳ねる。
多分この学校で私だけしか知らない顔。
眼鏡に隠れて見えてなかった長いまつ毛。
少し潤んで輝く、吸い込まれそうにきれいな瞳。
薄い桜色の弧を描いた唇。
「わ、私、ナツ。よかったら一緒に帰らない?」
ここから恋が始まるのかどうか、それは猫だけが知っている……にゃ。
猫の行方と恋の行方 後藤権左ェ門 @gogomon
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