ただ先輩と料理を作りたかった……

御厨カイト

ただ先輩と料理を作りたかった……


「……先輩、料理できない人だったんですね。」



僕の目の前にはプスンプスンと音を出していそうな真っ黒な何かが入っている鍋。


そして、まるでトマトかのように真っ赤になった顔を手で隠し、俯いている先輩。

さっきから恥ずかしいのかずっと顔を隠していた先輩だが、僕のその言葉を聞いてこちらをパッと向く。



「うぅぅ、だから言ったじゃないか!私は料理が出来ないのだと!」


「えっ、聞いてないですよ。」


「言おうとしたのに君が遮ったんじゃないか!」



……どうしてこんな状況になったのか。


時を少し戻そう。







********







「先輩!ちょっと料理作るの手伝ってくれませんか!」


「……い、いきなりどうしたんだい?そんな藪から棒に。」


「正直今説明している暇も無いんで、調理質の方に行って調理しながら説明します!なのでちょっと来てください。」


「そんな横暴な……、というか何で私なんだ。」


「先輩が暇そうなのが見えたんで。」


「暇そうって……君は私が何をしているのか分からないのか?」


「本読んでるだけじゃないですか。……えっ、本読んでるという事は暇ってことじゃないんですか?」


「君という奴は……、その理屈だと図書室で本を読んでいる人は皆暇人ということに――」


「あぁ、今は言い争いをしている暇は無いんですよ。マジで猫の手も借りたい状況なので、ちょっと先輩手伝ってください。」


「て、手伝うのは別に良いのだが、料理を作ることは私は――」


「先輩の言い分もあっちで聞くんで、取り敢えず先輩行きますよ!」


「あ、おい、ちょ、ちょっと待ってくれ……」



そんな訳で先輩を調理室へと連れてきて、今回作る料理のメニューを渡し、さっそく調理に取り掛かってもらう。

その間、僕は別の作業を進めていくのだが、少しして先輩の方に振る掛かってみるとこんな状況になっていたって訳。







「それにしても、こんなに沢山の豚汁を作ろうとして、一体何をしようとしているんだ?」


「今度、校内でマラソン大会があるじゃないですか。その時にやっぱりまだ寒いんで、終わった後に体が温まるように皆に食べてもらおうって事になったんですよ。」


「ふむ、なるほど。……うん?何故それで君が作っているんだい?PTAとかに任せれば良いじゃないか。」


「それがですね。PTAの皆さんは丁度その日バレー大会なんですよ。それで今はそのための練習をしているので出来ないという感じです。僕が選ばれたのは……何ででしょう。家庭科部だからですかね。」


「そんな適当な……。いいのか君はそんな理由でこんな役目を負う事になって。」


「別に良いですよ。料理を作ることは凄く好きなので。」


「……そうか。まぁ、本人がそう言うのなら別に良いか。」



少し手持ち無沙汰で立っている先輩がそう納得する。



「…何で先輩そんなに暇そうなんですか。」


「いや、だって料理のできない私にやることは無いじゃないか。現に私がやっていた鍋をかき混ぜる仕事は君がやっているし。でも呼ばれたからには一応居ようかなと。」


「変なところで律儀なんですから、先輩は。それなら急に呼んでしまった僕にも責任があるので、そうですね……じゃあ、ここら辺の野菜を切ってもらいましょうかね。」


「分かった。」


「あぁ、細切りでお願いしますね……って細切りは分かりますよね、先輩?」


「流石にそれは馬鹿にし過ぎだ……。」



早速野菜を切り始める先輩。


ふぅ、流石の先輩でも切るだけだもんな。

そう思いながら、俺は鍋をかき混ぜ続けるのだった。













「……あの、先輩。細切りって言いましたよね?」



様子を見ようと振り返った僕の目の前にはまるで物差しのように太く広く切られたニンジン。。


そして、まるでトマトかのように真っ赤になった顔を手で隠し、俯いている先輩パート2。



「これ……どう考えても細切りじゃないですよね。もうこんなん太切りですよ。」


「……まさか私もこんなに出来ないとは思ってなかった。」


「ふぅー、一先ずもう先輩の仕事はありませんね。急に、そして強引に誘ってしまいすいませんでした。」


「やめて!そんなに丁寧に断らないで!尚更傷つく!」


「まぁ、もう仕事は任せられないのは事実なので……ありがとうございました。」


「……本当にすいませんでした。いや、ちょっと待って。強引に誘われたのに、何で私が謝っているんだろうな。……まぁ、いいか。」



そう若干しょんぼりしながら調理室を去っていく先輩。

……流石に申し訳ないから、今度ケーキでも奢ろ。




それしても……これどうしようかな?

まさか猫の手を借りた結果がこんな事になるなんてね。



……ふぅー、やるか。

そうして、僕は豚汁作りの続きをしていくのだった。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただ先輩と料理を作りたかった…… 御厨カイト @mikuriya777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説