第34話
「えっ、じゃあ、悠希がプレゼントを贈りたい相手って誰だろ?」
真剣に悠希がプレゼントを贈りたい相手を諒真が考え始めたところで、長くなりそうだと判断して諒真に声をかける。
「伏見、それでプレゼントの件なんだが」
「あー、どうだったな悠希がプレゼントを贈る相手は後で考えることにして……因みに相手を教えてくれるなんてことは」
「ないな」
「だよな、悠希だもんな」
はあっと息を吐いて切り替えたように諒真が表情を整える。
どうやら悠希がプレゼントを贈る相手のことは置いておいて、悠希の質問に真剣に答えてくれるつもりになったらしい。
ここで、無理に聞いてこないあたりが悠希が諒真と友達としての関係を築けている理由だろう。
「コホン、それで、悠希がプレゼントを贈りたい相手っていうのはどういう間柄なんだ」
「色々お世話になっている友達だ」
「それで女性なんだよな」
「ああ」
本気で相手が気になると諒真の顔に書いてあったが、その欲望は飲み込んでくれたらしい。
「それで何か記念の日にでもプレゼントを贈るってことか」
「まあ、そうだな」
「一応、俺の考えを言うには言うが、あくまで参考程度にしてくれよ、俺も美月以外にプレゼントあげた経験なんてないしな」
「ああ、助かる」
「付き合ってるんならアクセサリーとかが無難なんだが、友達とかにあげる分だと、消耗品が良いと俺は思うぞ」
「消耗品か」
「リップクリームとかシャンプーとか石鹸とかそういうのが無難だなたぶんあと、年下とか可愛いもの好きとかだったら人形なんかも人気だなテディベアとか」
消耗品にぬいぐるみか。
諒真のおかげで選択肢が縮まったな。
相談せずにプレゼントを決めようとしたら、選択肢が多すぎてきめきれなかっただろうからありがたい。
後は汐音の誕生日が分かればいいんだが、ここで諒真に聞いたら、相手をばらすようなものだしな。
汐音にはサプライズ形式で驚かせてみたいという気持ちもあるし汐音に直接聞くのも憚られる。
となると、残る相談相手は美月しかいないな。
感の良い美月の事だから相談したらばれそうではあるが。
この際、仕方ないか。
「じゃあな」
教室に着いたので悠希が声をかけると「うまくいったら教えろよ」と諒真から返事が来た。
当然、悠希は聞こえなかった振りをしたが。
汐音の方も悠希のことを恋愛対象としてみていないだろうし、別にうまくいくも何もないのだが、どうせなら喜んでほしいという気持ちは悠希にもある。
日頃、お世話になっている分には恩を返したい。
何をあげたら喜ぶだろうかと考えているうちにいつの間にか朝のホームルームが終わったらしく、美月が話しかけてくる。
「悠希、おっは~」
「ああ」
頭の悪そうな挨拶にどう返答すればいいか迷って適当に返事をすると、美月が頬をわずかにふくらませた。
「そこはおはようさんでしょ」
どこがおはようさんなのか分からないが美月に聞きたいこともあって悠希は美月にノリを合わせることにした。
というか最近、諒真の挨拶もいつもそれだが、もしかして高校で流行っている挨拶なのだろうか。
「雪平、おはようさん」
悠希が挨拶を返すと、美月がキョトンとした表情を浮かべた。
まさか悠希がのってくるなんてそんな表情。
「大丈夫?悠希、もしかして熱でもある?保健室連れ添ってあげようか?」
挙句に熱まで疑われる始末。
本気で心配し始めた美月に悠希は少しだけムッとしたような表情を浮かべた。
額に伸びてきた美月の手をぺしりとはたき落として汐音の誕生日について尋ねる。
「別に熱はない、それより雪平、お前柏木さんの誕生日っていつかわかるか」
「しおねっちの誕生日?何で悠希がそんなの聞きたがるの?」
美月が不思議がるのも当然だろう。
教室においてすら悠希はほとんど汐音と接点がない。
そんな相手がいきなり学校の天使様の誕生日を知りたいなどと言ったら誰でも怪しむだろう。
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