第14話

図書館から借りている本を全て読み終わりやることも特になくなった悠希はゲームをすることにした。

パソコンでやるような複雑なものではなく、誰でも簡単に操作ができるテレビゲームだ。

数あるゲームの中から悠希が選んだのはレースもの。

決められたマップを最初に三周すればゴールという簡単なものだ。

もちろん、お助けアイテムがあり、相手にぶつけたり、相手からの攻撃を守ったりすることができる。


久しぶりのゲームに悠希が熱中していると、汐音が風呂から上がったらしく、ソファの後ろに気配を感じた。

視線を感じて、ちょうど一段落したところで顔を上げると、テレビの画面を食い入るように見つめる汐音が視界に入ってきた。

「柏木もやってみるか?」

声をかけると汐音が悠希の隣に腰を下ろした。

ゲームをやってみたいということだろう。

そう判断して、コントローラーをもう一台取り出し、汐音に手渡す。

「どうやって操作するのかしら?」

「やったことないのか?」

「ゲーム自体初めてよ」


悠希が自分が持っているコントローラーを触れながら教えると、汐音が真剣な表情でそれを聞く。

ある程度、基本的な操作を教え終わったところで汐音とゲームをすることになった。

二人でプレイするため、テレビ画面が各々の視点に分かれる。


このレースゲームは12人のプレイヤーによって行われる。

オンラインゲームではないため残りの10体のキャラクターはNPCだ。

汐音が11位スタート、悠希が12位スタートでゲームは始まった。


3,2,1,のカウントダウン直後、汐音が選んだキャラクターが逆走し始めた。

「ちょっと!そっちじゃないわよ」

と珍しく慌てる汐音に思わず、クスリと笑いが漏れた。


悠希が一位でゴールをしたところで汐音の様子を見ると、汐音はまだ、操作にてこづっていた。

バックしてコースを逆走したり、その場を円を描きながら走ったり、とにかく汐音の操作はめちゃくちゃだった。

思わず、声を上げて笑ってしまった悠希を汐音がじっと睨んでくる。

「笑ってないで助けてくれるかしら、矢城君」

と恥ずかしさに頬をほんのり紅潮させた汐音からヘルプが飛んだので、悠希は汐音の横から、汐音の手に触れて画面の操作を手伝った。

当然、二人の距離は近くなるわけで、ほんのりと香る甘い匂いに悠希は胸が高鳴るのを感じた。

操作中、視線を感じて、汐音の方を見ると、つぶらな黒の瞳が悠希をじっと見つめていた。

「何だ?」

「いえ、矢城君の顔をこんなに近くで見たの初めてだと思っただけよ」

そういって汐音が悠希の前髪に触れる。

当然、コントローラーを持っている悠希は何もできず、いつも視界を半分ほど隠している前髪が持ち上げられる。

「意外と矢城君ってかっこいい……」

悠希の横顔を見つめていた汐音が小さく呟いたが、ゲームの画面に集中していた悠希には聞こえなかった。



三周目に入る頃には汐音もある程度操作の仕方を学んだらしく、普通に操作することができていた。


操作の仕方を完全に掴んだ汐音が「もう一試合やりましょう」と言ったので、二試合目をすることになった。

二試合目はお互い順調なスタートを決めた。

スタートで加速し、お互い一桁に順位を上げる。

少し先を行く汐音のキャラがカーブに差し掛かったところで汐音の身体が傾いた。

どうやら、汐音はゲームに同期するタイプらしい。

カーブに差し掛かるたび、コントローラーを持つ汐音の身体が揺れて、一番大きなカーブに差し掛かったところで身を乗り出してキャラを操作していた汐音の頭がすぽんと悠希の太腿に収まった。

「柏木、身体は動かさなくても操作できるぞ」

「そのくらいわかってるのだけど」

そう言いつつも、身体を動かすのは止められないらしく、汐音は何度も悠希の方に倒れ込んできた。

そのたびに風呂上がりの汐音からシャンプーの甘い匂いが漂って悠希はほんのり胸が高鳴るのがわかった。


意外と負けず嫌いだった汐音が一位を取ったところでようやく二人はゲームを終えた。


「楽しかったか」

「ええ、ゲームがこんなに面白いとは思わなかったわ」

「それはよかった」

「矢城君、またやりましょう、できれば次は他のゲームで」

「ああ」

満足そうな表情を浮かべる、汐音にそう返して、軽く背筋を伸ばす。

長時間、ゲームをして固まった体をほぐすためだ。


時刻は21時を回っている。

二時間ほど汐音とゲームを一緒にしていたらしい。


「いけない、夕食まだ作ってなかったわ」

「別に俺はカップ麺でもいいぞ」

「そういうわけにもいかないでしょう」

そう言って汐音がキッチンの方にいそいそと歩いて行った。


夕食を今から作ると汐音が譲らないので、悠希は汐音が準備している間に風呂に入ることにした。

冷えてしまった風呂を温めなおし、風呂から上がる頃には汐音の料理が既に完成していた。

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