第14話「その名はアポロ!(その1)」


『……久しぶりだな、ニュクス』

『久方ぶりだな、アポロ王子』

 身長さこそあれど、その身分の高さを気にしない慣れた態度で挨拶を交わしていた。

「「……やっぱりお知り合い?」」

 蓮汰郎と叉奈は同時に首を傾げ問いかける。

『あぁ、お前達で言う神話時代。そこで過ごしていた頃の友人だ。デカいだけが取り柄の女に見えるが、これでも実力はある方だ』

『アポロ。こいつは神話時代、この星を束ねていた王・ゼウスの息子の一人だ。見ての通り我儘で好き勝手やっている面倒な坊主だよ』

 何だろうか。お互いに友人であることを否定はしていないが軽くディスっているようにも見える。

 お互い舐めているというか、お互い小馬鹿にしているというか……

「王・ゼウスの息子……」

 ゼウス。その言葉に叉奈の反応は大きく変わった。


 王・ゼウス。それは地球の歴史において知らない者はいない神話時代の王。

 この星の支配者、そして管理者として存在し……多くの民と生命・地球の未来を守り続けてきた【崇拝すべし偉大なる絶対王】。


「それ、嘘じゃなくて本当だったんだ!?」

『おい蓮汰郎ッ! それどういう意味だッ!? 俺が妄想で王族を名乗っていたと思っていたのか! 侵害だぞッ!』

 彼が王・ゼウスの息子であることは本人に聞かされてこそいたが、実力はあれどその見た目と態度。

 歴史上に記されていた英雄ゼウスとは全くと言っていいほど程遠い性格。少年の背伸びではないかと蓮汰郎は思っていたようだ。関係者の発言により、それは嘘ではないことが証明された。


『疑うのも無理もない。彼は王を継承したとはいえまだ雛鳥だ。幼い身柄な上に態度や教育に多少の問題がある。性格も威厳も王から遠ざかっているんだ、気にする必要はない』

『生意気だぞニュクスゥッ!! 偉大なる王ゼウス直属の護衛であるために多少の無礼講が許されているのは知っているが気に食わんッ!! 雛であるのは事実だが仮にも俺は王だぞ? 当時の時代であったなら、お前の首を吹っ飛ばすのも容易かったことを忘れるな』

『これはこれは失礼を。どうか無礼をお許しください、

『そこになおれッ! いますぐ俺の立場を分からせてやるッ!!』

 何だろうか。ニュクスが幼い子供のワガママを宥める保護者にしか見えない。

 このニュクスという神人は神話時代に王ゼウスのボディガードを務めていたようである。その際にまだ王ではなかったアポロとも交流はあったらしく、当時から口喧嘩は絶えない仲だったようだ。

 喧嘩するほど仲が良いとは言う。気にすることはないだろうッ。

『まだ私に勝てぬようなら王として未熟の証拠。結果で示せ、太陽の王子』

『いいだろう……蓮汰郎、次はコイツを締め上げる。いいな?』

 教室も近づき互いに喧嘩も中途半端なまま二人は姿を消した。

「……何か友達というよりは」

「先生と生徒、みたいだったね」

 喧嘩の光景に思わず笑いだしそうになった二人もまた、教室に到着してすぐ席に着いた。


「「「「「……??」」」」」

 教室に入ってすぐ、双方は不自然な視線を向けられることになる。

「「「「「なんで仲良くしてんの??」」」」」

 男子女子。双方にとってヒーローである人物に素朴な疑問が投げかけられる。


「「仲良くしたら駄目なの???」」

 蓮汰郎と叉奈。二人とも何の躊躇もない返答であった。



         ・

         ・

         ・


 数時間後。既に授業は二時限目までが終了した。

 といっても最初の授業なので大半が説明会であった。教科書と参考書を受け取り、今後どのような勉強をしていくのか? 生徒達は教師の説明を昼寝で聞き流す者もいれば、真面目に聞き続ける者もいた。

『女に話しかけられて気分が良かったか? 蓮汰郎?』

 トイレの洗面所で軽く顔を洗う蓮汰郎。アポロが面白半分で彼の前へ現れる。

『ニュクスの事は心底気に入らないが俺もあの交約主の女は気に入った。従順で清楚で、あの女なら俺の世話係に迎えてやってもいい』

「アポロッ! そんな目で女性を見たら駄目ッ!」

 女性を良い使いッ走りにしてやろうかというセリフ。事と場合では雑巾のような物扱いの発言に聞いて取れるアポロの独り言にすかさず叫弾した。

『んでどうなんだ。あの女の事、気に入ったのかよ?』

「それはまぁ、その……うん。とても優しくて、フレンドリーに接してくれて。気分が良いのかって言われたら返事はイエスだよ」

 相手は意識を共有しているアポロだ。嘘をついたところで誤魔化せるはずもない。

 蓮汰郎は馬鹿正直に答えた。『可愛い女の子と会話が出来て心底嬉しかったです!』と。

『惚れたな? 今のお前の顔、完全に恋に落ちた男の顔だぞソレは。お前の場合女々しさがあるから乙女の顔のようにも見えるがね』

「ちょっ、アポロォッ!?」

 ド直球に指摘されたために蓮汰郎は焦った。惚れたまで行くかは分からないが気になっているのは事実。故にリアクションも顕著に表れる。

『アタックするなら手伝ってやるし、女の手ほどきの仕方も手取り足取り教えてやる。安心しろ、屍は拾っておいてやるよ』

「フラれること前提ッ!? ……っというか、アポロから女性への振る舞い方を聞いたところで何の参考にもならないような気が……?」

『燃やすぞ、貴様』

 軽い口喧嘩も終わり三時限目へ向かう事にする。蓮汰郎は怒るアポロを無理やり自分の体の中に引っ込ませトイレを後にしようとした。



「おい、お前が噂の男性プラウダーか?」

 その最中、いつの間にか後方には複数の人影。

「ちょいと話があるんだがいいかい……へっへ」

 蓮汰郎を取り囲むのは、お世辞にも印象が良いとは言えない男子生徒の群れであった。

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