第11話「『はじめまして。』の季節(その1)」
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学園艇オデュセウス号!
入学式が終わり最初のオリエンテーション。激動の模擬戦が終わってから翌日の朝、生徒達は自身が所属する教室へと集っていた!
「改めて自己紹介だ。私はジャネッツ・セルリアン。これから赤ん坊も同然なお前達を教育することになった。ついて来られる奴だけついて来いだなんて甘い事は言わん。全員無理にでも付いてきてもらう……この艇に乗るのはそういう事だ。意地でも生き残ってみせろ」
蓮汰郎が属するクラスの教師は一年を担当する者達の中でも一番の鬼軍曹と言われているらしい。
「さて、次はお前達の番だ。出席番号順に名乗って貰おうか」
遅刻は当然厳禁、実技演習もスパルタ、一切のミスであろうと容赦のない指摘と罵倒と説教の嵐! ジャネッツ・セルリアンの噂は入学前から有名であった。
ゲームで言うリセットマラソンとやらが出来るのなら是非叶えてほしいと心から願う者ばかりであった。
「よし、次は、」
こんな教師という事もあって、遅刻者は現地点当然ゼロ。
「うわぁあああーーッ! 失礼しましたーーーッ!!」
---ただ一人。特例により欠席扱いされていた少年・海東蓮汰郎を除いて。
昨日の模擬戦が終わってすぐ、蓮汰郎はジャネッツの手によって艇の医療施設へと運ばれた。プラウダーの力の使い過ぎ、そして桁外れのダメージ。完全な回復には普通なら数日はかかると医者から報告されていたのだが。
「……ちょうど来たか。海東、次はお前の番だ」
思ったよりも早い回復。教師ジャネッツは彼を罵倒することもなく、むしろ出迎える姿勢であった。
しっかりとこの学園の生徒として学業に務まろうと真面目な姿勢! その姿に免じて許したのだ!
「え!? 僕の番って何が……あっ!」
黒板にはデカデカ“自己紹介”と書かれていた。状況を整理しようと教室中を見渡していた蓮汰郎は思わず声を上げて顔色を悪くする。
「え、えっと自己紹介ってあの自己紹介……ハイッ! 海東蓮汰郎と申します! 出身は日本ッ! 年齢は皆と同じ一六歳! 趣味は朝のジョギング!」
慌てて片手を横腹に添え、敬礼の姿勢を取る!
ここは軍隊ではないためにそのような姿勢は無用であるのだが、目の前にいる教師ジャネッツの気迫からか彼は自然とその姿勢を取っていたッ!
「皆と一緒に強くなれるよう頑張ります! どうか、よろしくお願いしますッ!」
昨日の試合前と同じでまたも綺麗な九〇度角度の礼。
勢いも抱負も問題なしの百点満点の自己紹介。蓮汰郎は突然のミッションを何の欠点もなくやり遂げた。
----だが教室の空気は無言と失笑の空気で染まっていた。
突然現れた蓮汰郎に驚いた者、物珍しいと見つめる者、嘲笑する者。それは各自別々で特に男女でその違いは大きく見られた。
「え、えっと……僕、何か変な事言いました……?」
今の自己紹介に何か大きなミスでもあったのか。拍手も何も返ってこない空気の中で蓮汰郎はまたも涙目で震えだしていた。
『気にするな蓮汰郎。太陽王である俺の顔に泥を塗らない良い自己紹介だったぞ。ナヨナヨとした姿勢だけは減点だったがな』
震える蓮汰郎を見兼ねて、何者かの声が聞こえてくる。
『どいつもこいつも頭が高い。俺達にも運にも見向きされなかった愚民たちの嫉妬と侮りだ。笑えてくるな!』
光だ。突然蓮汰郎の目前に赤い光が現れたかと思うと、その光の殻を破り中から現れたのは……昨日、闘技場にて蓮汰郎の近くに現れた謎の王子様。
『滑稽滑稽! 身の程知らずのパレードだなァ?』
低すぎる身長。見た目不相応の傲慢さと気高さを放ち、奴は再び姿を現した。
(太陽王、アポロか)
生徒達はまたも唖然としていた。教師ジャネッツは興味本位にその小さな背中を見つめている。
アレは見間違いだったのか。それとも夢だったのか。否、太陽王の戦士は実在する。アルカの民、ゼウスの子を名乗るこの少年の存在が何よりの証拠!
『気にするなよ、蓮汰郎。ここにいる奴らのほとんどがこの太陽王の俺とお前にかないもしないカスばかりだ! 強くもない癖に吠えるだけが取り柄の弱虫と嗤ってやれ』
その一言を最後、太陽王を名乗る少年は再び光と共にその場から立ち去ってしまう。現れた時と同じ光を纏い、粒子となって消え去って。
「「「「「「「は?」」」」」」
----生徒達、大激怒ッ!!!
視線は一斉に一人取り残された蓮汰郎へと向けられる! 歯ぎしり、舌打ち、そして殺意と朝から刺激的なプレゼント!!
『ヒャッハハハハハッ! 口だけの輩はよく吠える! 最高に面白い光景だと思わないか蓮汰郎! ヒヒヒヒッ……』
「ちょっとアポロ!? 変なこと言うだけ言って戻らないでよ! 僕は皆の事そう思ってないし、仲良くなって友達になりたいって思ってるしで……ぁあああッ! もうーーーーッ!!」
頭を抱えて叫ぼうがアポロが現れる様子はない!
「どうして余計な事ばかり言うのさぁああーーーーッ!!!」
恥じらいから浮かべていた涙目は面倒ごとの苦痛への涙目へと変貌。
これが海東蓮汰郎の最初の自己紹介。
幸先悪いにも程がある。スタートダッシュ完全に大失敗。
最悪のファーストインプレッションで蓮汰郎は再び泣いた。
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