第09話「激突! 太陽の王子《アポロ》VS 夜闇の戦少女《ニュクス》!! (Part,4)」


 エネルギー砲によるパワー勝負。剣を形成しての近接戦。

 固有結界内での死闘。その果て、優位に立っていたのは蓮汰郎。


 圧倒的不利だと思われていた蓮汰郎は、叉奈を相手に善戦していた。


 ----かと思われた、が。

 トドメを放つよりも先に……蓮汰郎は再び闇に飲み込まれた。


「勝負あったな」

 この間、僅か1分49秒。

「防御用の魔法を敵に使う事で自爆させたか……面白い機転だ」

 他の生徒達からすれば一瞬のように思えて濃密に長く感じる時間だった。

「鴇上叉奈。見込まれた通り優秀だよ……そして海東蓮汰郎、お前もよくやった方だ。経験が少ない割には、な」

 三本目のタバコが小指の爪程度の長さに。教師ジャネッツはタバコを息で吐き捨てる。ニコチンまみれの煙と共、飛んだタバコはコロッセオの地に転がった。


「……っ」

 燃えるフィールド。消し飛んだ黒い牢獄の中から現れる蓮汰郎の戦闘装束は解除され、元の姿に戻っていた。

 焦げ傷が体中を覆い、炎で制服もボロボロになっている。

 固体化した闇の牢獄の中、自身の攻撃に飲み込まれた彼は致命傷を負ったのだ。

 蓮汰郎は意識を失っている。支えるものも何もない蓮汰郎は力なく前のめりに倒れるのみ。

「よいしょ、っと」

 立ち上がっていた叉奈は蓮汰郎を受け止めた。

 心も体も燃え続けていた蓮汰郎の肉体は鉄のように熱い。しかし叉奈はそんな彼から離れることもせず、そっと肌身で受け入れていた。

「……大丈夫。気を失っているだけ」

 蓮汰郎の体から熱が引いていくのが分かる。

 死んだわけではない。心臓は今も鼓動を続けているし、しっかりと息もしている。

 命に危機がない事を知ると、叉奈は蓮汰郎の無事にホッと息を吐く。

「オリエンテーションはこれにて終わりだ」

 ベンチから立ち上がった教師ジャネッツは燃え盛るフィールドの地を何のためらいもなく進む。涼しい顔を浮かべ、叉奈の下へと向かってきた。

「鴇上。海東をこちらへ。医務室に運んでやる」

「……お願いします」

 叉奈は蓮汰郎の身を教師ジャネッツへと預けた。教師ジャネッツは姿勢を低くすると蓮汰郎を背負いあげる。おんぶだ。

「磨くべき場所は多々あるが、現段階でもこれだけ出来るなら期待できる」

 鴇上叉奈の成績。書類に表記されたのは飾りのデータではないことをその目で実感し褒めたたえる。

 これならば学年トップも夢ではないとの賞賛。戦士としてこれほどの栄誉はない。

「そして海東蓮汰郎」

 教師の背中で寝息をたて眠っているボロボロの蓮汰郎にも視線が向けられる。

「お前をこの目で見て……今日一震えたよ」

 それは賞賛だったのか嘲笑だったのか分からない。

「今年のルーキーからは目が離せないな……ハハハハハッ!!」

 教師ジャネッツは心の底から笑いがこみ上げた。


 -----これからとんでもない何かが始まるような気がする。

 確信も何もない憶測。激動の季節の予感に心を震わせていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・    


 -----蓮汰郎と叉奈の模擬戦が終わり、数時間後の事だ。


「入学式は終わったか」

 同時刻、オデュセウス号の一室に七人の生徒が集っていた。

「今年、男子生徒のプラウダーは何人配属された?」

「数はざっと数えて31人。そして」

 その中の一人、眼鏡の女生徒は険しい表情で質問に返答する。

「その中に【王候補】は三人います」

「三人、か」

 集いし七人は巨大な円状のテーブルを囲う。

 女王の玉座とも思わしき席に腰掛ける一人の女子生徒は溜息を漏らしていた。獅子のように雄々しく揺れる長髪にそっと手を添えながら。

「だけど問題はねぇんだろ?」

「学園内にいるのなら問題はない。王の資格があろうと彼らは、私達の首輪に繋がれているのだから……へくしゅ! ごめんなさい! 」

「蟻であることに変わりはない。こんな蟲風情を恐れる必要が何処にある」

「左様。全て掃うのみ」

 生徒達が一斉に口を開いた。

 テーブルの中央に置かれた一枚の書類の写真……海東蓮汰郎を眺めての一言。

 暗雲の空気を押し掃うかのように。まるで笑い飛ばすかのような一蹴だった。

「……例の新入生同士をぶつけるという君の提案。アレどうなったんだい?」

「男子生徒は敗北しました。鴇上叉奈……彼女は優秀です。成績次第ではいつか、我々と同じ座に君臨するのも夢ではないでしょう」

 新入生同士の戦い。もしかしなくてもそれは数時間前に行われたデュエル。

「ふーん。実を言うとね、私もその模擬戦は見ていたんだけどさ……やるんじゃないのかい? 男子生徒の方も」

 ただし一人だけ。七人の中では極まって小柄な少女が呟く。

「鍛え方が良いのか、才能があるのか。私は評価するけどね」

 海東蓮汰郎の戦いを評価する者もいた。


「それが非常に問題なんですけどね」

 そんな彼への評価に、冷め切った返答が戻ってくる。

「どうであれ、この模擬戦は充分なアピールとなった。これだけの脅威が学園艇の舞台に降り立った……今頃、数百数千の勇士にマークされたはずだ」

 あの戦いは教師の気まぐれによって始まった事ではない。

(勝っても負けても地獄行きのチケットか……無慈悲だね。本当に)

 これは全てなのである。

 小柄な少女は残り六人の不敵な笑みに悩ましく息を漏らす。

「これ以上、脅威を増やすわけには行かない」

 七人の生徒は立ち上がり部屋を後にする。

「我々は世界の為に、コレからも我々の意思でその脅威と戦い続ける」

 旗。学園の勲章マークが刻まれた軍旗が生徒達の背にある。

(世界の為、ね)

 それぞれを正義を背に、脅威に対する今後の方針を表していく。

「この世に、男の王を誕生させてはならない」

 灰色髪の女生徒が、写真を睨みつける。

 写真は黒い炎に包まれ、消えていく。


(やがて、この世界に未知の脅威が訪れる。女王様はそう仰られた)

 六人の女子生徒。集いしの宣戦布告。

(世界は変わる時。勇敢なる雄々しき男の勇者達。美しき正義と共に進み続ける女の戦士達。今こそ手を取り合い戦う時、か)

 そんな中、一人だけ小柄な少女生徒は無関心に窓の外の空を眺めた。


(本当に、そんな未来が訪れてくれるのかな-----)




    ≪入樂編 完≫



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<<解説>>

●【堕黒楼】アルテァ・ガラブ

 鴇上叉奈(ニュクス)が放つ防御魔法。

 夜闇を固体化させ、自身の身の周りに球体のバリアとして展開させる。バリアは大半の魔法攻撃を弾く性質がある。

 敵に放つことでその自由を奪う檻としても扱うことが出来る。

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