第08話「激突! 太陽の王子《アポロ》VS 夜闇の戦少女《ニュクス》!! (Part,3)」


 蓮汰郎は戦慄した。

 何が起こったのか。暗闇の中で竦む。

「暗いッ……なんなの、これッ!?」

 鴇上叉奈が刃を地につけた途端に何かを発動した。気が付けば、あたり一面が底も奥も見えない暗黒へ。

「何も、見えないッ……!」

 体は自由に動く。だが、電気のついていない広間に閉じ込められたような気分、何処から攻撃が来るかも分からない恐怖が心を不快にさせる。

(ははっ! やっぱり使ってきたか、あの陰気女め! 完膚なきまでに俺を叩きのめしたいと見えるぞ。その容赦のなさは昔から相変わらずだ!!)

「アポロ! 何が起こったの!? 鴇上さんは何を、」

(意識を集中しろ! さもないと----)


 “一撃でやられるぞ”


「……!!」

 アポロが何か呟いたわけでも喋ったわけでもない。彼が放とうとした言葉の続きを何故か蓮汰郎は自然と理解できてしまった。

「この気配ッ、何かが、近づいている!? これはっ----」

「【終黒閃アルテァ・ダウ】」

 空気も温度も視界も何もかも奪われた。だが、ただ一つ残っている感覚を頼りに気づくことが出来た。

「横からッ!?」

 真横を見ると眼前、 そこには鎌を構えた叉奈の姿……!!

 鎌全体に張り付く黒い炎のような揺らめき。エネルギーを武器である鎌へ集中させているのが分かる。

「うおわああぁあっ!?」

 急に現れた叉奈の奇襲を間一髪で回避!

「……避けられた、か」

 攻撃を外した叉奈は再び姿を消した。

 まるで闇そのものを隠れ蓑にするかのよう溶け込み消えていったのだ。またも、無の時間が蓮汰郎に訪れる。

「突然現れて消えたッ!?」

(油断するなよ蓮汰郎! 集中を怠るな! 特に後ろとかなッ!)

「次は後ろッ!?」

 アポロの警告が間に合ったおかげか。或いは危機的状況故に極限にまで研ぎ澄まされた集中力のおかげか。蓮汰郎はまたも察することが出来たのである。

「【終黒閃アルテァ・ダウ】」

 後ろだ。今度は後ろから現れ鎌を振り下ろす!

「回避っ……!」

 蓮汰郎は前方に飛び込み前転! 体を振り回す中で一瞬だけ確認できた叉奈の気配、そして暗闇に慣れたが故にうっすらと見える姿。視認出来た。

「また、避けられた……?」

 しかし叉奈は再び鎌を手に暗闇の中に消えていった。


(アポロ。アレは何? 僕はなにをされているの?)

 口は開かない。心の中で内なるアポロとコミュニケーションを試みる蓮汰郎。

(【暗極領域ブラック・フォール】。奴の固有結界能力のようなものだ。あたり一面を無限の夜闇で包み込み、終わりのない恐怖に陥れる……)

 自由に動けても、周りは漆黒一面の景色。

 叉奈はその暗闇に溶け込み行動することが出来る。敵が何処から来るか分からない恐怖に陥れる固有結界。それが暗極領域だ。

 意識が少しでも逸れれば、その隙を狙われ両断される。一瞬の油断も許されない。

(脱出は出来る?)

(ほぼ不可能だ。どれだけ走っても夜闇そのものがお前の位置を元に戻すし、遠距離攻撃を放っても外へ辿り着く前で闇に分解される)

 脱出は不可能。蓮汰郎は相手のフィールドに運び込まれてしまったのだ。

 この能力を発動するアルカを詳しく知るアポロが言うのなら間違いないと思われる。

(じゃあどうするの?)

(落ち着け蓮汰郎。さっきも言ったが、お前は意識を絶対に逸らすな)

 下手に動くな。パニックにだけは陥るなとアポロからの警告。

(脱出が出来ないわけじゃない。奴の意識をかき乱してやれば自然と結界も解除されるさ。この闇は無限を自称しているがそうじゃない)

 攻略法はある。 アポロの言葉が蓮汰郎の心をより急かさせる。

(いいかよく聞け。この夜闇がお前に何かするわけじゃない。ただ閉じ込めるだけだ。お前を仕留めるためには発動主本人が姿を現さないといけない。はっ、わざわざ夜闇の中に姿を隠しているのに、出てこないといけないなんて不憫なものだぜ)

 そこで思い出す。叉奈の気配はこの結界発動時に姿諸共完全に消えてなくなった。

しかし蓮汰郎に攻撃を仕掛ける際には姿を現し、その一瞬気配も感じ取れた。

(そこでだ、蓮汰郎。俺がカウンター用にパワーを与えてやる。だからお前は次の攻撃をに弾け。そんでひっくり返させろ。その間抜けな姿を晒した一瞬に攻撃を叩き込んでゲームセットだ)

(……分かった。必ず成功させるよ)

(そうこなくっちゃな)

 蓮汰郎は身構え、何処から現れてくるかも分からない叉奈に備える。

(俺は奴の事を知っているんだからな。お前に知られる前にと奴も仕留めにかかってくるはずだ……三度目、次で三度目だ。向こうも勝負を決めに来るぞ)

 次がおそらく最後の勝負……!

 叉奈の奇襲が決まるか、或いは蓮汰郎のカウンターが成立するか。

 無言と静止がより暗闇の恐怖を掻き立たせる。


(研ぎ澄ませ。姿を現す瞬間を見逃すな……!)

 次が最後。ともなれば緊張もより強まっていく。

 上か、左右か、前後か。蓮汰郎はアポロからの指示通り一ミリたりとも無駄な動きをせずに隙を作らない。待つ。叉奈本人が現れるのを静かに待つ。

 緊張が殺気を錯覚させる。余計な感情は受け流し本来感じるべきものを極限にまで研ぎ澄まし耐え凌ぐ。


 十秒経過……緊張がより深まっていく。

 二十秒経過……意識がそっぽを向きそうになるが何とか耐える。

 三十秒経過……頭がパンクしそうになる。


 -----四十秒、経過。

 -----蓮汰郎は額を伝う冷たい汗を片手で拭う。


「【終黒閃アルテァ・ダウ】!!」

 その一瞬。南東の方角から叉奈の姿!

「ッ!!!」

 蓮汰郎は慌ててその攻撃を回避した!

  次の攻撃は確実に弾き返さないといけない! しかし、蓮汰郎はその攻撃を受け止めずに回避してしまったのだ!

 何たる失敗! 何たるミス! 最後の勝負に油断を見せてしまった!!


「……気配を感じるッ!!」

 ----否ッ! 断じて否ッ!!

「本物はァアアッ! そっちだぁああああーーーーッ!」

 蓮汰郎は!! 

 燃え上がる拳! 暗闇に飛び散る火の粉!

 蓮汰郎は姿を現した叉奈に対してではなく……その真後ろ。敵とは反対方向に拳を叩き込んだのだ!




「見つかったっ!? 嘘っ……!?」

 叉奈だ! 振り向いた蓮汰郎の視線の先には叉奈がいる!

 カウンター用のエネルギーはアポロの言う通り蓄えられている! これだけの力、カウンターの姿勢であったこともあり力勝負で負けることなどないッ!


 叩き込む……渾身の一撃を!!


「くぅ、ぁあああっ……!?」

 吹き飛ばされる叉奈。

「これで闇が晴れる!!」

 同時あたりに展開されていた暗闇も塵となって消えていく!。最初に攻撃したも結界と共に消滅し、蓮汰郎は無限の牢獄から脱出することが出来た。

(……というか聞いてないんだけど。幻影も作れるって)

(悪い、すっかり忘れていた……誇っていいぞ。あの結界を打ち破れる奴はそうはいない。まぁ、俺と組んでるのなら余裕で抜けて貰わないと困るけどな)

 反省の色も感じられないアポロの笑い声が脳裏で響く。

(これで終わりだ! 最後の一撃を叩き込め!)

 地面を転がる叉奈……絶好のチャンスがやってきた!

「【炎王灼侭ブロード・フレア】最大火力ッ!」

 手のひらを天に掲げると、空には雲間を避けた太陽が見える。

 エネルギーが集中する!。手の平で形成されていくファイアボールはより大きく、更に大きく! 瞬く間に大きくッ!!

 それは自身の体の三倍以上の大きさ! 巨大な拳へと姿を変えていく!!

「いっけええええーーーッ!」

 この一撃をぶつければ終わりゲームセットだ。

「……ビックリした」

 倒れていた叉奈は地面にそっと手を添える。





「でも、残念ながら

 ----闇だ。

「えっ、」

 蓮汰郎の足元に異変。

 炎のように揺らめき、影のように形を成した闇塊が植物のように地面から現れると、あっという間に蓮汰郎を炎の弾丸諸共飲み込んだ。


 完成したのは漆黒のミラーボール。

 どっしりと固体化された黒い球体の牢獄に蓮汰郎は閉じ込められる。


「【堕黒楼】アルテァ・ガラブ

 -----大爆発。

 漆黒の球体は粉微塵に。マグマのように熱い炎と共に吹き飛んだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<<解説>>


●【暗極領域】ブラック・フォール

 鴇上叉奈(ニュクス)が使用する固有結界能力。

 あたり一面に夜闇を放ち、相手を瞬く間に飲み込む。

 飲み込まれた相手は自由こそあるものの”何も見えない恐怖”の中を彷徨う事になる。発動主は夜闇の中、姿気配を隠すことが出来る。

 夜闇そのものは標的に何かできるわけではない。仕留める際には直接叩きにいかなければならない弱点があるという。


 ……だが、夜闇で自身の幻影を作れるとのこと。要注意。

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