第07話「激突! 太陽の王子《アポロ》VS 夜闇の戦少女《ニュクス》!! (Part,2)」


 衝突。光が晴れた後、焦煙がこみ上げる。


「「……ッ!!」」

 一瞬の瞬き、二人の戦士が煙幕の中から現れる。

「……炎王灼侭ブロード・フレアを、防ぎきった!!」

 身を燃やす炎をより滾らせる蓮汰郎。

「火の玉を突破出来なかった……この波動。飾りじゃないわけね」

 体に纏う闇をより澱ませる叉奈。

「「次は……どう来るっ……!?」」

 最初の力比べは相打ちに終わり、無傷の二人は互いに睨み合ったままだ。


「す、すげぇ……!」

「これが、神人レベルのプラウダー同士の戦い……!!」

 生徒達はその戦いを前、胸の高鳴りを止められないでいた。


(あの女、可憐なだけではなく強いとまで来たな。相当なのと交約してるぞ……この太陽王に歯向かえる奴。一体どんな愚か者だ? 俺以外が太陽を掴もうとするっていうのかよ、反吐が出るってもんだ)

「うん、戦って分かるよ……それだけじゃない。鴇上さん、まだ本気を出していない。それであれだけの出力を魔法を放ってくるなんて!!」

 様子を見ているのか。或いは気遣って手加減しているのか。まだまだ本気ではない敵を前、蓮汰郎は冷や汗を垂らす。

(本調子じゃないのはお前も同じだろうが。エンジン、熱くなってきたところだ)

「自信満々だね。アポロ?」

(当たり前だ)

 とてつもない敵と対峙していると口にしたのはアポロ本人だ。

 当のアポロ本人は戸惑う事も情操することもなく愉快そうに笑ったままだが。

(アイツは確かに強いが! 結局はこの太陽王アポロの敵じゃない。俺は太陽に最も近い神なんだ! 太陽を見上げることしかできない過少な愚民なぞに遅れなど取るはずがない! 楽勝だ! それに俺はだな、)

「待って! アポロ構えて!!」

 身構える蓮汰郎。

(チッ……王が気分良いときにッ! 空気も読めないとまで来たってのか!!)

「喋ると舌噛むよっ!」

 その途端、アポロは口を塞いだ。あれから先どのような決めセリフでも吐くつもりだったのか。阻害されたアポロは何処か不機嫌だったのは言うまでもない。


「-----。」

 叉奈は何かを小声で唱えている。

 瞬間……叉奈の目前の空間が歪み、現れた漆黒の澱みの中から武器が現れる。

「武器を取り出した……?」

 それは巨大な鎌。死神が持つに相応しい首狩りの鎌。炎のような黒い揺らめきを纏った凶器が今、蓮汰郎へと向けられる。

(面白い! 近接戦闘でやろうってのか! いいだろう蓮汰郎……文字通りの真剣勝負ってやつだ!)

「わかってる……具現ッ!【炎王裂諷バルド・ヴァニング】ッッ!」

 右手を天に掲げる蓮汰郎! その手に集結するのは再び炎のエネルギー! 炎の中から現れたのは“剣”。武器、 接近戦、 これこそまさに文字通りの真剣勝負。

「やぁあああッ!」「はぁあああーーーッ!!」

 鎌と剣、叉奈と蓮汰郎はステージの中央へ急接近。

  灼熱に燃え滾る刃と、あらゆる生命を刈り取る漆黒の刃がぶつかり合う。

『ハハハァアッ!』

「……ッ!?」

 今まで礼儀正しかった蓮汰郎の口調と態度が一変。生意気なワガママ王子アポロに似た口調と面構えへ変貌し、おされる叉奈を嘲笑う。

(急に人が変わったように……この感覚っ!?)

『万物を溶かし、そして斬り捨てる! それが炎王裂諷バルド・ヴァニングなんだよ! そんなチャチな刃などでこの俺、』ちょっとアポロ! 勝手に変わらないでよッ! ビックリするじゃん!?」

 と思いきや、次は真逆に慌てた表情を浮かべ出す蓮汰郎。アポロのような雰囲気は一瞬で消え去り、いつもの蓮汰郎へと急変する。

(また変わった!?)

「って、うわわわっ!?」

 突然の空気の入れ替わり。蓮汰郎の姿勢が大きく崩れ始める。 踏ん張りの姿勢もよく整っていなかった蓮汰郎は叉奈との力比べに敗北。押し飛ばされる。

「いてて……『おい蓮汰郎ッ! 俺にもやらせろッ! 俺の尊大さをしっかりと見せつけるチャンスなんだ!! 譲れッ!』

(まただ……また入れ替わった)

「戦うのは構わないよ! ただ急に変わるとビックリするから一声かけてって言ったの! 僕だってまだそれだけの余裕はないんだから!!」

 またアポロのよう粗暴に喚き散らかしたかと思うと、次は再び覇気のない怒鳴り声をあげる。それを交互に繰り返す。何度も何度も。

 この様子だけ見ていると完全な一人芝居。見ていて悲しくなる一人コント。


「な、なんだアレ……?」

「喧嘩してるよな、アレ」

「一人で喧嘩……?」

 その光景を生徒達は冷めた目で眺めている。

「いや違う。アレは……」

 一部の生徒は理解している。あの間抜けな光景の異常さ。その恐ろしさを。




『……相変わらずだな、アポロ』

 二人の喧嘩(?)へと割り込んでくる大人しめの声。

『あまり他所様に迷惑をかけるなと偉大なるより教えを受けたのではないのか?』

 その声は紛れもなく鴇上叉奈である。

 しかし何故だろうか。これまた礼儀正しい叉奈らしくない上からの態度。蓮汰郎を小馬鹿にしているような態度である。喋り方も、声も以前より低くなっている。

(……蓮汰郎、変われ)

「待ってよ。まだ話は、」

『いいから変われッ!!』

 一言返事。蓮汰郎の体が“またも切り替わる”。ガクン、首が揺れる。

 おそらくだが……また蓮汰郎からアポロに変わった合図だ。

『ハッハッハ! その力、そして戦い方。この目で見て、この身で受けて、この空気を吸ってもしやと思ったが……やっぱりお前だったか! なぁ!?』

 態度が急変した叉奈に対し、蓮汰郎アポロは親し気に彼女へ話しかけている。これまた嘲笑するかのような表情だった。

『息災だったか?』

『私はお前が元気そうで安心した。変わってなくて残念でもあったがな』 

『はっ。俺は俺だ』

 特に機嫌を悪くすることもない。むしろ嘲笑し返し諭すかのような物言いの叉奈。蓮汰郎もまた不機嫌になることなく返答。

『お前には幾らか世話になったが勝負は勝負だ。容赦なく焼き尽くしてやる』

『それはこちらのセリフだ。いつもらしく、お前を大人しくさせてやる』

 途端、頭から何かが無理矢理出て行ったかのように首がガクンと揺れる二人。頭痛で頭を抱えた直後、蓮汰郎と叉奈は


「「知り合いなの?」」

 二人同時、その体の中へと再び身を潜めた相棒へと問う。


(ああ、ちょっとな)

 アポロは特に大それた関係ではないと蓮汰郎に返した。

(気が向いたら話そう。あの我儘王子が何者なのかをな)

 叉奈の中に隠れた神人は面倒そうに主である叉奈にそう返答した。この疲れ様、アポロと対峙するだけでも相当な体力を使うかのような態度であった。


「それじゃ、続きを始めましょう……!!」

 再び鎌を添え蓮汰郎へと突っ込む叉奈

「うん! いきますよッ!」

 蓮汰郎は炎を纏う刃を再び具現、それも二つ。 二刀流の構えで迎え撃つ。

 弾く。 燃える。 弾く。 飲み込むッ。

「……お互い、契約を交わした神人との相性は抜群。信頼関係も強く絆も深いようだ。意識を自由に入れ替えるというのはそう簡単に出来る芸当じゃない。自我を切り替えるだけでも相当な精神を使うし体に大きな負担をかける。人によっては意識がブツリと吹っ飛ぶ」

 教師ジャネッツは三本目のタバコに火をつける。

「能力値の高さだけならおそらく互角だろうな。だが」

 今まで釘付けになっていた決闘から目を逸らし、再び天を見上げる。



「ダメだ。力はともかく戦闘経験に差がありすぎる。呑まれるな、確実に」

 多くの弾きあい。再び距離を取ったその一瞬。あたり一面には炎と闇の欠片が敷き詰められた。激戦の跡を多く残す戦場の中-----


「領域展開。【暗極領域ブラック・フォール】発動。」

 鴇上叉奈は鎌の刃を地につけた。それからはあっという間の事。


 戦場は“無限の闇”に包まれた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<<解説>>

●【炎王裂諷】バルド・ヴァニング

 海東蓮汰郎(アポロ)が使用する剣。

 太陽王のみが扱うことを許される剣だという。剣は太陽王の炎を纏い、あらゆる敵と障害を溶かし、斬り捨てる。

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