第2話    淡い記憶

『_____........__う、.......叶!』

目を閉じてからしばらく経ち、不意に誰かに呼ばれた気がして目を開いた。が、誰もいない。まあ、それもそうか…。妙にリアルな夢だったなと思いながら、目的地のあるバス停で降りた。

 久しぶりに来る街の様子を眺めながら、目的地を目指す。しばらく歩くと、見覚えのある建物が見えてきた。

 「着いた…」

そう。私が目指していたのは、病院。

 先程言っていた彼女__私の友人である、【日辻琥珀】が入院していた所だ。琥珀は不治の病を患っていて、私が琥珀と仲良くなった時には、もう余命3年しか残っていなかった。...琥珀はいつも笑顔で、私のことを凄く気にかけてくれてた。私より一歳年下なのに、とても優しくて面倒見が良い子だったのを覚えている。

 院内に入り、受付へ向かう。用件と名前を伝え、ある一室に通される。私は案内してくれた看護師さんにお礼を言って、病室に1人になった。

 「懐かしいなぁ…ここで、いろいろ話してたっけ。あの頃は、楽しかったなぁ。琥珀がいっぱい話聞いてくれて…」

本当に、楽しかった。だって、あの頃は…

『叶!』 …まただ。また、聞こえた。今度は夢なんかじゃない。友人の...琥珀の声だ。

『叶、頑張れ!』

 ああ、これは、あの時の会話だ。

 

『叶はさ、男の人が苦手なの?』

「うん。苦手っていうか、その…こ、怖くて…」

『そっか…うーん......よし、分かった!』

『じゃあ、叶が男の人と話しても大丈夫になるように、特訓しようよ!』

「え、と、特訓...?どうやって?」

『毎日、少しずつ男の人に慣れてくの!

 名付けて、【男性恐怖症克服大作戦!】‼︎』

「克服…」

『そう!』

「で、でも…出来るかな…?」

『克服出来るかは分からないけどさ、やってみようよ、それで、克服できたら一緒にお祝いしよ!』


それが、この男性恐怖症を克服するきっかけだった。

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