勿忘草
蒼乃咲耶
第1話 大切な日
春は出逢いの季節。
多くの人は冬の大変さを乗り越えて、新たな友人や仲間に囲まれ、新しい環境下で今までとは違う生活を送るだろう。
…まぁ、受験や就職活動をしていない私には、関係のないことだけれど。
そんなことを考えながら、いつもより少し遅い時間に目覚め、内心焦りながらいい匂いのするキッチンへと向かった。どうやら、母は朝ご飯を作り始めてしまったらしい。昨日自分が朝ご飯を作ると言っておきながら目覚まし時計をセットし忘れ、寝坊をしてしまった己を恨みつつ、「おはよう」と母に声をかけ、ご飯作りを手伝った。母は笑って寝坊してしまったことを許してくれたが、罪悪感しかない。
洗い物をしながら母がそういえば、と何かを思い出したように呟く。
「今日、あの日じゃない?ほら、例のお友達の…」
その言葉を聞いた瞬間、「しまった」と思った。血の気が引くのを感じながら、母に後を頼み、急いで家を出た。
そうだ。今日だった。何故忘れていたのか。走ってバス乗り場に向かい、ちょうど来たバスに乗った。どうやら間に合ったようだ。私は少し安堵して、いつもの座席に座り、目を閉じた。私の脳裏を大切な彼女との記憶が、浮かんではゆっくりと消えていく。
大丈夫、まだ目的地まで時間がある。だから、今だけは、このままで…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます