第一章 始まり
ーナオ……ナオ……ー
誰かに呼ばれた気がして、僕は、目を覚ました。
いつの間に眠ったのか、それさえ覚えていない。
「ナオ、松永が睨んでいるよ。」
「えっ……?」
セーラー服の女の子が、眉間にシワを寄せて、前を指差し、そう言った。
ゆっくりと顔を上げ、前を向いた俺をスーツ姿の中年の男が睨む。
「俺の授業で寝るなんて、お前、いい根性してるな〜。」
「…すみません。」
俺が小さく謝ると、松永と呼ばれた男は、窓の外に目をやり、言う。
「春眠暁を覚えず…とは、よく言ったものだ。まっ、眠くなる気持ちも分かるけどな。」
そう言って、大きな欠伸をした松永に、教室内に笑いが溢れる。
ー教室……そうか、俺、学生なんだ。ー
なんだか、ずっと、忘れていたようだ。
だけど…この違和感は、なんだろう?
これは、確かに現実なのだろうが、遠い記憶のような気もする。
何だろう?……この感覚……。
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