風向き
ルイに連れられて国王のところへ行くと、優しそうな国王がルイのことを待っていました。
こんなに近くで見るのは初めてです。
「お久しぶりです、国王陛下」
「おぉ、久しいな。帝国は王位継承者が決まったそうだな。今度改めてお祝いを贈ろう」
「ありがとうございます」
いつもよりかしこまった態度のルイを見ていると、本当に公爵なんだと再認識させられます。
「そちらは……君が仕えていたというウェストン伯爵家の令嬢だね?シラン……だったかな。公爵から聞いているよ。我が国と帝国の交流が増えるのは良いことだ。これからもよろしく頼むよ」
「は、はい……」
国王に直接ご挨拶するなんて思わなかったから、緊張しすぎて何も言えなかったわ。
国王から離れ、ふぅっとため息をついて視線を上げると、皆がこちらを見ていました。
「隣国の公爵だって。隣にいるのはウェストン伯爵家のご令嬢だ」
「シランさん、そんな方とお知り合いなのね。羨ましいわ」
「彼女、最近見かけなかったけれど、隣国で過ごしていたのかな?」
「あの二人、とても素敵ね。お似合いだわ」
私たちを見て、皆が何か言い合っているようですが、どうやら悪口ではなさそう。
良かった……婚約破棄された令嬢という扱いではなくなったようです。
「ルイ、今日は連れてきてくれてありがとう。周囲の目が変わったのはルイのおかげよ」
「周囲の目が変わったように感じるのは、お嬢様がご自身で立ち直ったからですよ。私は何もしていません。……あ、向こうに同郷の者が来ているようです。少し話がありますから、待っていてください」
「分かりました。私は少し疲れたので、あちらで座っていますね」
少し休憩しながら、今日の皆の反応について考えを巡らせました。
先ほどルイはああ言ってくれたけれど、立ち直れたのだってルイのおかげだもの。何かお礼がしたいわ……。
そんな風に考えながらのんびり休憩していると、再びサイモンが私に声をかけてきたのです。
「おい、シラン……!お前、帝国の公爵と知り合いだったのか?俺にもきちんと紹介してくれ。さっきの態度は謝るから……」
どういう風の吹き回しでしょう。先ほどまでの態度とはまるで違います。いら立っているような、焦っているような態度です。
何か魂胆があるのでしょうが、私も先ほどまでのシランではないのです。
「さっきも言ったけれど、あなたに紹介できる人じゃないわ。あなたとはもう話すこともないし、用がそれだけなら向こうに行ってくれる?疲れているの」
「……っ、だから悪かったって。なあ知ってるだろ?我が家は帝国の貴族と取引があるんだ。彼の機嫌を損ねるとマズいんだよ。もし変な噂なんかが広まって取引先が減ったら、父になんて言われるか……。だから頼む、一度は婚約した仲じゃないか!」
「そうね、一度は婚約したけれど、一方的に破棄された仲ね」
「頼むよシラン……今日までの失言はすべて取り消すから」
「取り消さなくて結構ですよ、すべてあなたの本心でしょうから。……そんなに公爵とお話がしたいのなら、自分から挨拶しに行ったら?イレーネさんと一緒に。彼女も公爵と話したがっているように見えたけれど?」
さっきまで二人で私を罵っていたのに、イレーネさんの姿はどこにもありません。どこへ行ったかは興味もないけれど、別々に来られても面倒だから二人まとめて来てくれると楽なのですが。
「そうしたさ!だけど、公爵がシランに許してもらうまで話しかけるなって……。イレーネは完全にへそを曲げてしどこかに行ってしまって……くそっ、イレーネが余計なことを言うからだ!俺は下手に出てたっていうのに……!」
つまりイレーネさんと二人でルイに会いに行って、散々言われたから仕方なくここへ来たって訳ね。こんなに情けない男だったなんて、私って本当に見る目がなかったのね。
「それで?公爵にあしらわれて、イレーネさんとも喧嘩して、他に方法がないから私に口だけの謝罪をしているってこと?それで私が許すと思っているなんて、随分となめているのね」
「違う!俺は気づいたんだ、イレーネよりもシランの方が良い女だって!」
……は?この人は何を言っているの?
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