エピローグ 青春の白骨化

舟木が逮捕され、愛花が松風と再開して別れてから半年が経った。

テレビや世間では犯人発覚から1週間ほど黒幕が大企業の社長と言うこともありわざとらしく騒ぎ立てていたが、それからはぱったりと話題にしなくなった。世間でこのニュースを思い出している人はもういないのではないか。

愛花は頼んだエスプレッソを飲み干しながらそんなことを思う。

あれ以来、タイムリープは起きない。

たまに今までのことは全て夢ではないかと思うことがある。でも愛花の部屋の日記にはタイムリープした高校時代のことが鮮明に書かれており、たくさんの思い出が脳には残っている。

そんなことを思いながら入っている喫茶店の扉を見つめているとベルの音と共に待っている人は入店してきた。

愛花が小さく手を振ると、陸治はぶんぶんと大きく手を振りかえしてきた。おかげで少し視線を集める。陸治が子犬のように小走りで愛花の向かいの席に座ると座るやいなやコーヒーを注文した。

「バイト決まったんだって?」

「うん。まずはここから。いつかは就職もしなくちゃいけない。」

愛花は胸の前で小さく拳を握った。

「いつでもうちの会社で雇うのにー。」

「いやーそれじゃ意味ないでしょ?」

「まあそうかもね。」

陸治は軽く笑いながら頭をかき上げる。

それから二人は軽く談笑し近況を報告しあった。

しかし陸治の頼んだコーヒーが来たところで愛花はじっと彼を見つめる。

コーヒーを啜りながら視線に気づくと何かを察したかのように陸治は座り直した。

「調べてくれやつって・・?」

「あーまだ何もわからない。橋村かなえは高校の文化祭翌日に退学してから消息不明だ。」

「そっか・・・。」

愛花はエスプレッソを飲み干す。口一杯に底に残った甘い成分が広がる。

「松風は名前を変えて田舎で暮らしてたらしい。場所は桃川に教えられないけどな。」

「うん。わかってる。」

「警察の事情聴取も終わって、またその田舎に帰ったって。」

「うん。無事でよかった。」

2人の間に静寂の風が吹いた。陸治は手を叩き思い出したように新たに会話をします。

「あーあと伸吾も元気だよ。面会行った時の顔色は結構よか・・・あ、ごめん。」

陸治は完全に切り口を間違えてしまったと言う顔をしている。

愛花は少し不器用な微笑みを作った。最近は面接で多用していたから慣れてきたはずだ。

「いいよ。元気なら良かった。」

あははと陸治は少し首を前に出しバツが悪そうにした。

そんな時、机の上に置いてあった愛花の携帯が震え出す。画面には母と表示されていた。

「あ、ちょっとごめん。」

愛花は席を立ち、電話に出る。

「はいもしもし。うん・・・え?うん!すぐいく!」

母からの言葉に愛花は歓喜した。

急いで陸治の元へ戻り、荷物を持つ。

「ごめん!行かなくちゃ!」

「え?どした?!」

陸治からの質問に愛花は笑みを隠さずに言う。

「由莉奈が目を覚ました!」

陸治はそう聞くとすぐに早く行きな!と送り出してくれた。

店の扉を開けると冬風が体を包んだ。外はもう夏の気配など微塵も感じない。

愛花が病室に到着した時、由莉奈は体を起こし両親と抱き合っていた。泣き声が病室に響く。

そして3人は愛花を見た。

「・・・由莉奈。」

「・・・おねぇちゃん。」

その顔を見て、由莉奈は舟木が犯人だったことをもう知った後だと察した。

由莉奈は包帯で巻かれた箇所を撫でながら、愛花をまだ見つめる。

いつのまにか2人の目には涙が浮かんでいた。

下唇をキュッと結び2人とも泣くのを堪えようとするもそれは叶わなかった。

愛花は由莉奈のベッドは駆け寄り優しく抱きしめる。愛花の肩からは嗚咽が聞こえた。

「伸吾・・・。」

2人の涙はしばらく止まらなかった。


「全部終わったよ。」

愛花は今、未凪のお墓参りにきていて。時間の全容を報告して水をかけ、花を添える。

「松風くんを救うことは・・・できたと思うよ。」

愛花はゆっくり手を合わせる。

「高校時代から何も見た目変わってないのね。」

後ろからその声を聞くと愛花はすぐさま振り向いた。それが誰なのかすぐに分かったからだ。

「茅野さん!」

「久しぶりね。桃川さん。」

茅野は今まで会ってきた現代の姿とさほど変わっていないが表情は見違えるほど晴れやかだった。

「お仕事は順調?」

「今は劇団に入って演劇を学んでる。まだまだ下っ端だけどね。」

「すごいよ!応援してる!」

「桃川さんもやっと一歩踏み出せたみたいね。」

「あーうん。だといいんだけど・・・。」

「あの日がなかったら、私はまだ橋村に操られてたかもしれない。お礼をどれだけしてもし足りない。」

「いやいやいや!いいよ!茅野さんが自分で前に進んだんだよ!」

「そう・・・。感謝されるのに慣れてないのね。」

「あはは。」


例えどんなことがあっても、青春の思い出は消えない。いいことも悪いことも全てが貴重な体験なのだ。

愛花はスーツを脱ぎ、今日の日記を書き始めた。

部屋には体育祭や文化祭の写真、メッセージが書かれたはちまきが飾られている。



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青春の白骨化 松村しづく @shiduku_matsumura

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