第一章 白骨遺体②
静かな部屋に流れたその音声は3人の顔を少し、強ばらせた。静寂を切り開いたのは由莉奈だ。
「えー、怖。」
由莉奈は最初は驚いた様子だったが特に気にもせずまだ半分残っているプリンを口に運び始めた。
その後、画面に釘付けになってきた愛花と舟木も会話を再開させる。
「物騒なこともあるもんだな。」
「ねー。これ、いつの遺体なんだろう。白骨化してるってことは結構前かな?」
「うちらの時に埋められたとかだったらやばくない!」
「確かに!俺らが普通に学園生活過ごしてる時にも校庭に人埋まってたりして。」
舟木はにやけ顔で2人に目線を合わせる。
さながら稲川淳二のような喋り方で。
由莉奈は呼応するように大袈裟に肩をさすりながら怖がるリアクションをした。
「はは!お前ほんと面白いな。これ今後学園七不思議になるね。」
由莉奈の頭にぽんぽんと手を乗せながら舟木はいつものように笑う。
しかし、愛花は頭の中で高校時代の思い出巡りを始めていた。思い出というか、どうしても思い出してしまう人だが。
舟木はどこか上の空になった愛花の顔を見て何を考えているのかを察した。
「お前、また松風のこと思い出してんだろ。」
先ほどとは少しトーンの低い舟木の声によって愛花は意識を現実に戻された。
喉と胸がキュッとなり少しうわずった声が出る。
「ああ、うん。」
愛花の返事に舟木は目を細め下を向いたがすぐ普段の調子に戻った。
「しっかしお前も懲りねーな!未練がましい女は嫌われるぞ!」
腕を頭の後ろで組みながら口を開け挑発する舟木に愛花はいつものような反応ができなかった。
舟木もなかなか人気であったが学年内の女子人気圧倒的トップに君臨していたのは松風だ。
そして愛花は高校2年生の5月に当たって砕けろ精神で彼に告白した。すると、なぜかOKされたのだ。
カップルになってからは愛花では松風には不釣り合いだと揶揄されることもあったが2人は気にせず交際を続けた。
愛花にとってその時期は人生最盛期であり、愛花が前を向けない理由でもあった。
そう松風悠一は愛花の中での栄光でもあり、呪いでもあるのだ。
なぜここまで愛花の中で松風が残り続けているのか。
それはその年、高校2年生の文化祭を最後に彼は学校を辞め失踪したから。
あまりに突然の出来事に愛花は言葉が出なかった。松風を狙ってた女子からは捨てられただのあいつのせいで松風君が消えただの言いたい放題言われた。
でも、そんな低俗な言葉は耳に入らないほど愛花の心にはポッカリ穴が空いたのだ。
そしてその穴は未だ塞がれていない。
未だに消息不明な松風にも勝てない舟木は松風の話になると少し不機嫌になるのだ。
そして、第三者である由莉奈から見れば舟木の好意は目に見えるほど溢れ出しているのに当の本人にはまるで伝わっていないのだった。
その舟木もあまりに至近距離から発せられる一つの恋の矢印に気づいていないのだけど。
3人でいつもの通りたわいもない会話をしていた時。その会話に区切りをつけるかのように家のインターホンが鳴った。
会話の切り上げどころを見失っていたのでちょうどよかったと愛花は思った。
「俺、出るわ。そろそろ行かなくちゃだし。」
舟木が家を出るついでにインターホンに応答する。
宅配会社が名乗りその荷物が愛花の母宛であることがわかった。
舟木がお得意の愛想で宅配業者さんに挨拶をし、直方体の段ボールを受け取る。
宅配業者さんは疲れている様子だったが舟木のご苦労様ですの一言で少し嬉しそうにしていた。
舟木が話すと周りの温度が少し上がる。持ち前の明るさを愛花は見習いたいと常々思っている。
まあ、出来るわけないのだけど。
「おばさん。また服買ってんじゃん。」
「ほんとだー。どんだけへそくり貯めてんだろ。」
いつのまにかふたパック目のプリンに入っている由莉奈がため息をつきながら適当な返事を返す。
テレビ番組はもう別のニュースを報道していた。
舟木はドアポストも見てくれたようで4通ほどの封筒を持っている。
段ボールを置いて封筒の宛名を見て仕分けしていく。2通は父、1通は母、そして最後1通は愛花にだった。
「届いてんぞ。」
舟木がそう言って愛花に小さな封筒を渡す。
薄緑色のグラデーションがかかったその封筒は確かに愛花宛だった。ただ文通をしている相手も、どこかの媒体に応募した心当たりもないので誰からきたのかがわからない。
何かのセールスだろうか。
すぐさま接着されていた部分を乱雑に破き中身を確認する。
封筒の中身は三つ折りの紙と葉書だった。
内容を確認しようと愛花が髪を開く頃には2人とも後ろで内容を見ようと覗き込んでいた。
人間界から鎖国している愛花に贈られた手紙が何か気になるのは当然と言えば当然だろう。
中は縦書きでこのような文が書かれていた。
「拝啓 皆様にはお変わりなくお過ごしのこととお喜び申し上げます
本年、母校久実高校は創立100周年を迎えました
このめでたい祝賀年を記念して左記のとおり同窓会を開催することとなりましたのでここにご案内をいたします 敬具」
その文を読み終わった愛花はあんな事件が起こったばっかなのに同窓会なんて呑気なことをするのかと思った。
しかし、舟木がその手紙を見て絶句したことでことの概要を理解した。
「お前、それ5日前にうちに届いたぞ?なんでポスト確認しねーんだよ。」
そもそも家の外に出ることもほぼない愛花にドアポストの中身をチェックするのは難易度が高すぎる。
それに、同窓会に行く気なんてさらさらなかった。
今の自分の有様と成長した同級生たちとを比べて落ち込みたくなかったからだ。
愛花はその手紙を丸めてゴミ箱に捨てようと足を運んだが寸前のところで止まった。
それは愛花の頭の中に松風の屈託のない笑顔が浮かんだからだ。
手が止まり文を読み返す。
その様子を由莉奈と舟木は不思議そうに見ている。
「伸吾、行くよね?」
不意に投げられたボールを慎吾は戸惑いながらも投げ返した。
「ああ、まあ俺はな。」
「私も行く。」
カフェインがようやく回り、頭の中は冴え渡っていた。
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