猫の手を借りた結果

にーりあ

猫の手を借りた結果

僕は勇者孝之。


トラックに引かれて転生した。


僕は転生したこの世界で、人々が魔王に苦しめられているという話を聞き、王に会いに行った。


「お前が魔王討伐志願者のタカユキか」


「はい」


「歓迎しよう。今王国は猫の手も借りたいくらいの忙しさでな。勇者志願者は大歓迎、大々的に国を挙げての受け入れを……む? 特技……ネットサーフィン……?」


「はい。コンピューターは一通り使えます」


「コンピューターとは、何のことだ?」


「マシンです」


「え、ましん?」


「はい。マシンです。私はハイスペックタワータイプを使っています」


「……で、そのましんは、魔王討伐において役に立つのかな?」


「はい。Wikiで攻略法を集めたりエクセルでデータを管理できたり、VBAで情報解析支援ツールも作成できます」


「あー……。あぁ、うん。そうか。なるほど。いや、何を言っているのかさっぱりわからぬがそれには及ばぬよ。王国は今勇者を求めている。が、しかし、道化師の類は間に合って居るのでな」


「でも、解析情報をパワーポイントでプレゼンすることだって可能ですよ?」


「いや、ぷれ……とかそういう問題じゃなくてだな……」


「私なら魔王討伐にフルコミットできます!」


「フル? とは……?」


「全力で取り組み結果を出すということです。コミットとはコミットメントのことで……」


「ああ、もうよい。帰って良いぞ」


「なん……だと? この私を門前払いに……いいんですか? 出しますよ。魔王討伐企画」


「好きにせい。そのなんとやらを出したければだすがいい。だから帰ってよいぞ」


「わかりました。運がよかったですね王様。今日はプレゼン資料が足りないみたいだ。日を改めますが次はこうはいきませんよ」


「うむうむ。わかったからもう帰れ」



 僕は王国を後にした。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 僕はスライムをガンガン倒した。


 ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪


 コウモリをガンガン倒した。


 ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪

 ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪


 デカイサソリをガンガン倒した。


 ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪


(よし、街に行って武器を買おう)


 アリア藩の城下町ラムダートで僕は武器を見繕った。


「この銅の剣をくれ」


「500ゴルドーです」


「……主人。済まない。500ごるどーとは、いくらだろうか? いや、500ごるどーあればうまか棒はいくつ買える?」


「は? ……うまか棒、は……なんだかしらねーがあんちゃん、冷やかしなら帰ってくれよ」


「冷やかしではない。物の価値を知りたいのだ。金ならある」


「は?……そうだな、んー。串肉なら50本くらいかえるんじゃねーか? つーかあんちゃん。こっちは忙しいんだ。冷やかしなら帰ってくれよ」


「忙しいのか。ここの国の王もそんなことを言っていたな。猫の手を借りたいくらいだと。だが実際はどうだ。勇者であるこの僕が追い出された。これは一体どういうことだと思う主人!」


「え……そりゃあんた。いくら猫の手を借りたいくらい忙しくたってよぉ、借りた猫の手でさらにてんやわんやになるってわかってりゃ借りんこともあるんじゃねぇか? 猫の手を借りた結果何もかもが御破算になった、なんてなっちゃ目も当てられねーだろ」


「僕の現状は猫の手を借りた結果だというのか主人!」


「いや、あんちゃんの話だと王様は猫の手借りてねーみてーだからそれは違うんじゃねーかなあんちゃん。まぁ俺もあんちゃんみたいな猫だったらその手を借りようとは思わねーと思うけどよ。……ほら、もういいだろ、さっさとどっか行ってくれ」


そういって僕を追い返す店の主人は変な顔していた。僕は何か気に障るようなことでも言っただろうか?


まあいい。実家に不幸でもあったのだろう。お気の毒なことだ。


さて仕切り直しだ。


まぁあの王様には、勇者である僕を見限ったことを必ず後悔させてやる。


そのためにはまず冒険だ。


冒険してレベルを上げて強くなる。色んなアイテムを集めまくる。


そしていつの日か真の勇者になって皆に褒められ認められるのだ。ついでに僕のことを大好きな少女を見つけて僕のことを好きになる姫と出会って僕のことを尊敬する女戦士や女賢者や聖女にちやほやされるハーレムな日状況を築くのだ。その日に向かってこれからの苦難を乗り越えなければ。


「千里の道も一歩から。明日も頑張るぞ!」


そうして僕は頑張って色んな冒険をしてやがてツヨシさんという先輩勇者に出会って更なる大冒険をし王様の「猫の手を借りた結果」予想を大きく覆すのだが、それはまた別の話。

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