第六話 ー望まぬ客人ー

 数々の対戦相手を負かし遂に残す大戦回数は一回。

 この勝負に勝てば次世代のチャンピオンが生まれようとしていた。

 最後の対戦相手は現代のチャンピオンである”鮫島さめじま大河たいが”、水色の長髪に口から覗く全ての歯が鋭く尖り、全身黒色のライダースーツを着用した男。

 過去の戦闘を聞くにどれも残虐性の高いもので対戦相手全員が食い荒らされ死亡、生きてリングから降りた者はいないとか。

「お前は旧チャンピオンからの推薦でこのリング上がってきたみたいだが、そいつより俺様は強いぜ?」

 大河は威勢よく吠えてみせた。

 いつもの掛け声と共に戦いが始まりそれと同時に大河は血液で口元を覆い。

「俺様の血技けつぎ”全てをグランドイーターらう者”で貴様を喰らい尽くしてやるよ!」

 クラウチングの姿勢をとるとその場から勢いよく飛び掛る。

「──”突進歯ダーツ・オン・トゥース”!!」

 絶対防御プロテクトで身を守る暇もなく右肩を噛みちぎられ大河は宙で一回転すると鉄格子を足場にし、またも突進。

 護の左脇腹を喰いちぎられ何度も何度も跳躍、突進を繰り返し余りの速さに絶対防御プロテクトを使う暇もなくましてや避ける事さえ出来ない。

 傷口を再生しようにも遅く治ったとしても次から次へと身体を食い破られていく。

 やばい……、血を流し過ぎた。

 このままじゃやばい! 治れ治れ治れ治れ治れ!!!

 治す事だけを考えていると今まで再生が遅かった再生力が強まったのか、一瞬にして喰いちぎられた傷が治った。

「──!? お前の身体どうなってんだ? 吸血鬼になった時点で固有能力は決まり成長しないはず! ──まーそうこなきゃな、俺様の相手は務まらねーよな!!」

 今しかない! と、絶対防御プロテクトの薄い膜で全身を覆い防御力を高め、少しでも突進歯ダーツ・オントゥースを防ごうと試みる。

「おいおいおい、なんだよそりゃ。たかが少し肌を赤くしたていどで俺様の攻撃が凌げるとでも思ってんのか!?」

「自分の出来る精一杯で挑むだけですよ」

「はっ、 そうかよ! ならこれでもくらえや!! ”削ぎ太刀さめはだ”」

 大河の四肢が血を纏いその血液が鮫肌と化す。

 その腕を振るい右拳を突き出し護は避けながらも右腕で身を守るが。

「そんなんで俺の拳を防げると思うなよ!!」

 守ったその右腕の絶対防御プロテクトは削ぎ落とされ剥げていた。

 安易にガードを固めるとその部分が削ぎ落とされ、今の自分にはそれだけでも致命傷。

 これ以上の出血は死に直結する、なんせこれ以上の再生は困難に近いからだ。

 繰り出される拳、蹴り、避けきれず守り削られていく絶対防御プロテクト、削がれた場所を狙うかのように噛み付きまでも織り交ぜられたコンビネーション。

 このままじゃジリ貧だ、打つ手を考えないと!

 この人に負けてるようじゃ目的の彼奴を倒すことは出来ないから。

 どうにか出来れば。

 護の考えに答えるかのように垂れ流した血液が振るえだし勝手にシールド形成、自動で大河の攻撃から身を護りだした。

「”自動防御オートガード”これなら!」

「──なっ!! 」

 すかさず装甲手袋ガントレットモードブレイドを発動し、大河の左肩から斜めに斬りつけ。

「テメェ、やりやがったな!! それなら俺様も本気でいくぞ!?」

 そう言うと大河の全身が血液に覆われ大きな球体になる──それが解けると大河は姿を変えていた。

「この姿を見たやつで生き残った者はいねぇ!! ”血鬼けっき大海鮫メガロドン”! これが俺様の禁忌の力だ!!!」

 全身真っ赤に輝く血液の鎧を纏いその姿はまるで鮫のよう。

 こ、これって佳奈ちゃんが言ってた同族喰いをした者に稀に発現する禁忌の力ってやつ。

 新たな吸血鬼の力、姿を変えた大河を前にして困惑しながらも何処かワクワクした感情が護を満たしていく。

 そんな最中観客席の遠くの方、闘技場入口付近から悲鳴と共に声が聞こえてくる。

「てめぇーら覚悟しやがれ、社会のゴミクズども!!」

「わぁー、実験しがいがありそうな検体ゴミがちらほらいるね」

「こらこら、二人とも口が悪いですよ」

「おめぇ等しっかりやれよ? 人数も居るんだ、訓練通りに行くと思うな?」

 突然現れた左胸元に狼のエンブレムを付けた黒色の教団服に身を包んだ四人組、彼等の手には各々違った銀色の武器が握られ。

 その武器で斬られた吸血鬼は火傷の様な傷を残していた。

「おぉい! 余所見してんじゃねぇぞ、クソ雑魚が!!」

 非常事態が起きているにも関わらず大河は護に襲いかかっていく。

 ──が、鳥籠の鉄格子を切断してリングに侵入すると中間に刃が立ちそれを静止するかのように、音速の速さで空を裂く網状の刃で大河を吹き飛ばす。

「その攻撃──”音速ソニック・ムーブの刃”を使う奴は一人しかいない。はは、ここの旧チャンピオン様じゃねぇか!」

「へぇ、俺の事をまだ知ってるやつがいるんだな。そんな事より今は面倒事の最中みたいだしな、俺の顔に免じてここは戦いを辞めないか?」

「おいおいおい!! 何ひよったこと言ってんだよ! こんな面白い場面見逃せないねぇ。旧チャンピオンに教団の連中、それだけじゃなくここまで俺を前にして生き残ってるそこのお前!!! 血肉湧き踊る戦いが出来そうじゃねぇかよ!」

「はぁ、めんどくせぇ……」

 今にでも襲って来そうな大河を前に後頭部を掻きながら溜息を吐く刃。

「少し相手してやるから何処からでも掛かってこい」






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