第二話 ー教団と吸血鬼ー
──これこら僕はどうしたら。
吸血鬼という存在がこの世界に居り、その吸血鬼にたまたまなってしまった。
人間の血液、または動物の血液をこれからは摂取していかなければ保てないこの身体。
他の飲み物や食事をした所で満たされる事のない渇き。
昨夜貰った小さな瓶に入れられた血液を懐から取りだし眺る。
「何やってんだよ、護」
教室内で帰宅する為自身の席から立ちあがって居ると後方から肩に腕をのせられ、バレないように護は慌てて瓶を懐に戻す。
「どうしたの? 長門」
学ランを着崩しいかにも高校生デビューしました、と言わんばかりの身なりをした幼馴染の男子生徒"
「体調とか身体の方はもう平気なのか?」
「う、うん。今の所は」
「そっか。それなら良いんだけどよ、護が居ない間クソ暇だったぜ?」
「そうだったんだ。でも、これからは学校に通えると思うから」
「なら退院祝いじゃないけどさ、景気づけにこれから遊ぼうぜ! カラオケ行ったりゲーセンなんかも行ってさ」
「ごめん。今日は行かないといけない場所があるんだ」
「あ、そうなの? なんだよつれないなぁ」
「また今度行こうよ」
「用事があるんじゃしょうがないしな、また今度にすっか!」
長門と別れ学校を後にすると鳥籠を目指して歩を進める。
お昼過ぎだというのに鳥籠の外には長蛇の列が出来ており、その光景にびっくりしていると前から見覚えのある制服姿の少女が駆け足で近ずいてくる。
少女は護に気がつくと。
「護じゃん、どしたの?」
「もっと色々知りたくて──、吸血鬼の」
「しぃー!! 余り大きな声でその話は」
「ご、ごめん、佳奈ちゃん」
「取り敢えずお店に入ろ」
店に入るなりキッチンとホールの作業を一人でこなす刃の姿が。
「おい、おせぇーぞ!」
「ごめーん、補習があって」
「普段から勉強してねぇーのが悪い! と、それより丁度良い。確か倉元とかいったな、ホール作業とか出来るか?」
「昔飲食店でバイトしてたから出来と思いますけど」
「なら手伝え!」
「えっ!? 急にそんな事言われても」
「いいから行くよ、何事もなるようになるから。ものは試しにね」
と、佳奈に背中を押されて従業員用の休憩室に連れていかれると予備の作業服に着替えさせられ、再び1階に戻ってくる。
佳奈と護はホール作業に徹し、刃はひたすらに注文された料理を作り続け。
ようやく客足も減り一息つけるように。
「急だったが中々良い働きするじゃねぇか、良かったらここで働かないか? バイトとして雇ってやるよ」
「マスターが居ないのに勝手に決めちゃって良いんですか? そんな事」
「良いんだよ。勝手にいなくなったアイツが悪ぃんだから」
「うちも賛成だよ!護がここで働くの。それにさ、ここで働けばお金も稼げて吸血鬼の事も知れるし一石二鳥じゃない?」
「確かにそれはそうですね」
「何より刃のまかない美味しんだよ」
そんな事を言いながら佳奈は唾液が溢れ一滴口から零す。
「そういや倉元は今日何しにきたんだ?」
「色々一人で考えたんですがこの先どうしたら良いのか分からなくて……。吸血鬼の事ももっと知りたいし」
「ここ最近『教団』の人達も行動が活発になってきたし、吸血鬼化のコントロールとか戦い方教えてあげたら? 刃が」
「俺かよ! めんどくせぇ」
「まぁまぁ、そう言わずにさ。私達もサポートするし、こうやって出会った何かの縁なんだから。新人さんには優しく優しく」
「分かったよ。ただし!! 俺のやり方で教える。それと猫又──、次遅刻してきたら給料減らすぞ?」
「げぇー!! 分かったよ……」
項垂れている佳奈を後にし、付いてこい、と言う刃の後を追い地下一階へ続く階段を降りていく。
降りていくとそこはとてつもなく広い純白な部屋に、ポツンと筋トレ道具が端の方に沢山置かれたそんな場所だった。
「ここなら誰にも邪魔されないから好きなだけ身体動かせる俺達ピースフルのトレーニングルームだ」
「とても広いんですね」
「まぁ俺達吸血鬼には普通くらいだ。身体能力が人間とは違うからな」
「そうなんですね。それでこれから何を?」
「先ずは──」
刃が懐から髑髏マークの刻まれたビーカーを取り出し、コルク栓を抜くと路地裏で嗅いだあの匂いが護の鼻腔を刺激した。
ぐっ──!! この匂いを嗅ぐと。
「っと、ここまでにしとくか」
と、刃はビーカーに栓をする。
「はぁはぁはぁ……、それは一体?」
「これは人間の血液だ」
「に、人間の!? てことは──」
「勘違いするなよ? 俺達は猫又の言うように人間に手出しはしない。普通の人間にはな」
「──そうでしたね」
「俺達吸血鬼は血液の匂いを嗅ぐだけで自制心の弱いものは今の倉元みたいに直ぐ正体がバレる。特に人間の血液は匂いが強くバレやすい。だから少しずつ匂いに慣れてもらう、と言ってもこれに関しては自主練だな! 間違っても飲むなよ? 吸血鬼として出来るだけ平和に暮らしたいなら」
投げ渡されたビーカーを落としそうになりだからもキャッチし、それが割れないようスクールバックにしまう。
「これから戦闘訓練してくぞ、バイトの合間に。 仮に教団や敵対してくる吸血鬼に備えて」
「あの、教団って?」
「教団は俺達吸血鬼の天敵みたいなもんだ。特殊な武器や道具を扱う人間達で構成された吸血鬼ハンターの集団、中でも『
「わ、分かりました。そんなに恐ろしい人が居るんですか?」
「居るには居るが、滅多に現れないレア者だ。──取り敢えず組手やってくか、格闘技経験とかるか?」
「特には無いです」
「そうか……、やって慣れろ」
「──え!?」
何が起きたかまるで分からなかった。
気がついた時には凄まじい激痛と鈍い音が右頬を襲い、天井を見上げて倒れ、そのまま意識を失った。
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