第38話 亡国の王女アーニャ

 「機体の強化案!?」

 格納庫に集められた小隊メンバーにおやっさんが放った内容にティナが思わず大きな声で反応する。

 「そうだ、お前さんらの機体を更に強化をする許可がやっと下りた。」

 ティナの驚き様に呆れたようにしながらもおやっさんの口元には笑みが乗っていた。

 元々この強化案はおやっさんの発案らしいので彼自身も嬉しいのだろう。

 「けど元々俺ら専用にカスタマイズされてんだろ?それで良く強化案が通ったな。」

 アドルファスが感心したようなそうでないような口調で言う。

 そんなアドルファスの様子を睨みながらドロシーが説明する。

 「確かにこのファフニールらは私たちが使いやすい用にカスタマイズされてる。けど機体の実戦データ収集も兼ねて武装は最低限にあえてしているって説明されていたはずだけど。」

 「あ~、そんな事言われてような…。」

 説明してもピンと来てないアドルファスの様子に頭を抱えため息をつくドロシー。

 そんな二人を見ながら微笑んでるテリーが会話を繋げる。

 「けど、機体の強化案が通ったという事は僕たちの活躍も認められた。という事なのかな。」

 「だとしたらとても良いね!」

 テリーの言葉にティナが嬉しそうに反応する。

 そんな様子の小隊メンバーを見ながらユーリはパンパンと手を鳴らす。

 「四人ともそろそろ静かに。いい加減おやっさんの機嫌とパメラの冷や汗がヤバい。」

 四人がおやっさんの様子を見てみると説明の途中で話を折られたので不機嫌そうであり横にいるパメラが冷や汗を搔きながら様子を見守っていた。

 おやっさんのこういった怒りはかなり長引く事を知っている四人は一斉に黙る。

 一つ咳払いしながらおやっさんは説明を再開する。

 「まあ、ドロシーの嬢ちゃんも言っていたがこっからは本格的に実戦に向けて装備を見直さなきゃならん。」

 「ぐ、具体的な強化プランは後日説明させてもらいますけど全体的に火力を大幅に強化予定です。」

 おやっさんとパメラの説明を黙って聞く四人に続けてユーリが補足する。

 「まあ、次の任務が終わってからになるけどな。」

 「次の任務が決まったのですか?」

 「う~ん、決まっていたというか機会が来るのを待っていたというか…。」

 ユーリの煮え切らない言葉に疑問を感じながらも全員ミーティングルームに移動する。


 「重要人物の護衛…?」

 「そうだ、ワケドニアにて合流しエリンまで送り届けるのが今回の任務。」

 ユーリから説明された任務の内容に全員が微妙な反応をする。

 そんな空気になるのを予想していたユーリは気にせず続ける。

 「何故自分たちが要人警護しないといけないのか、など聞きたい事はあるだろうが一通りの説明の後にしてもらう。オリビア。」

 ユーリがそう言うとオリビアがコントロールパネルを操作しあるニュース記事を出す。

 「知っている奴も多いだろうが、先日ガスア帝国と戦争していたフリーゼン王国が滅んだ。」

 確かに見てみるとフリーゼンが滅んだという内容のニュース記事である。

 長きに渡りガスアと戦ってきたフリーゼンであったが国力の差には勝てなかった。

 最後は国王が自決をしてフリーゼン王国は地図からその姿を消す事となった。

 そのことは小隊メンバーも知っていた。

 …アドルファス以外。

 「ああ、なるほど。要人というのはフリーゼンの…。」

 「その通り。だからこそ合流がワケドニアという訳だ。」

 自分を置いて話がドンドン進んでいるが今更分かりませんとは言えない雰囲気に内心冷や汗を掻いているアドルファス。

 「…ハァ。一応分かりやすく説明すると。」

 ユーリがそう言うと分かりやすく反応するアドルファスを見て頭の悪さがひどくなっているのではとつい思ってしまうドロシーであった。

 「皆が察している通り護衛対象はフリーゼンのお方だ、どうやら上の方で内々にユースティアに逃げ込むことが決まっていたらしいな。それを極秘裏にエリンへとお連れする。」

 「それで私たちがお守りの役目なんですね!」

 ティナの言葉にユーリは頷く。

 「このことが公になればせっかくの休戦も終わりかねない。だからこそ極秘裏に諜報部直属の俺たちが行う。」

 滅ぼした国の要人を休戦国が助ける。

 確かに戦争が起こりゆる可能性の出来事である。

 「なるほど、ガスアにバレないようにしなくちゃならないってわけだな。」

 「いや、そこはもうバレてるだろ。」

 ユーリの反論にアドルファスはずっこける。

 「だが肝心なのはバレてるかバレてないかじゃない。公になるかならないかだ。」

 「???」

 ユーリの言葉の意味が分からず混乱するアドルファスに対しため息をつきながらドロシーが解説する。

 「ガスアは要人がこちらに来るのは掴んでいる。けどユースティアとの協定を破って捕まえるほどではないんでしょうね。ユースティアに来るならそれでもいいとすら思っているんじゃないかしら」

 「けどこの事が公になったらガスアも行動を起こさずにはいられないね!」

 「だからこそ秘密裏にするために苦心しているんだよ。」

 ドロシーだけでなくティナとテリーも解説に加わりアドルファスは肩身が狭い思いをしながらも理解する。

 「だから合流があの国なのか。」

 「そうだ、ガスアとユースティア両方に接していながらどちらにも属していないあの国なんだ。実際あの国に逃げられた時点でガスアの負けだな。」

 口にするのは簡単であるがそこまでの行われたであろう決死行を思えば一言では言い表せない気持ちになる。

 「ともかく、護衛対象がワケドニアの首都に着くのとエーデルワイスが着くのはほぼ同タイミングになるようにしている。着いたその日に護衛対象をエーデルワイスにて保護その翌日にはエリンに向けて移動する。今日の説明は以上。」

 そう言ってオリビアにコントロールパネルを切らせて退室しようとする。

 「隊長!その方のお名前とかは聞かせてもらえないのでしょうか!」

 「あれ?言ってなかったけ?」

 その言葉に全員が頷くと軽く謝り自分たちが極秘裏に守る対象の名を口にする。

 「護衛対象の名前はアーニャ・フリーゼン。元王女様だ。」

 

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