第39話 再会と王女の覚悟
ーワケドニア、ユースティア王国とガスア帝国という強国二つに挟まれたこの国は長きに渡り両国の間で揺れていた国である。
故に両国が停戦しての五年間もいつ戦争が起こってもいいように武器や傭兵などの人材を集めていた。
また表向きはユースティア、ガスア両方の入国を禁止しているが裏では両方から金を貰い部隊を入国させている。
このことからワケドニアは諜報においてガスアの情報を入手したりするのに最適な地でもある。
―そしてガスア側からユースティアに逃げる者を拾うのにも好都合な場所である。
ワケドニアの中心街、そこにユーリとテリーの姿が見えた。
二人とも軍服ではなく私服で一見すれば観光客に見える。
無論意図しての服装である。
何故この二人かと言えば単純に無害な観光客に見える組み合わせだったからだ。
ユーリは責任者として行かなければならないのが決定。
アドルファスは性格的にもアウト、ティナは基本うるさいのでアウト、ドロシーかテリーかとなった時男女よりも男同士の方が余計な集客に引っかからないだろうという判断である。
「しかし、思ったより人がいるな。」
「小国とはいえ国の中心街ですからね。比較的戦争のない平和なこの国に移りたいという者もそれなりにいるらしいですよ。」
観光に見えるよう地図を見ながら二人は会話する。
かなり賑やかなので多少大きな声でも周りには内容は聞き取れないだろう。
「…平和ねぇ。」
「?何か。」
ユーリが呟いた言葉に反応するテリー。
「今俺たちは戦争の火種になるかもしれない人物を護衛しようとしている。そこに不満も疑問もないが。」
そこまで言ってからユーリは空を見上げる。
「戦いが終わったと思ったらまた別の戦いが始まって、何処の国も同じことの繰り返しで最後は本当に平和になるのか?行きつくとこまで行ってしまうのではないか?とふと思っただけだ気にするな。」
「…僕にも未来を見通す事は出来ないので個人的な意見ですけど、きっといつかは平和になりますよきっと。」
「その心は?」
あまりに自信があるように言うテリーにユーリはその意図を問う。
「単純に人を、人間を信じているからですよ。行きつくとこまで行く前に止まるだけの理性が人間にはあるそう信じています。」
「思っていたより抽象的な理由だな。…けどまぁ悪くはないんじゃないか。」
「ありがとうございます。」
会話しながら歩いてから十数分、街の反対側に近づいてきた。
「このあたりで合流予定でしたね。」
「ああ、どんな形で接触してくるかは知らされてない気をつけて…ん?」
周りを見渡していたユーリの言葉が途切れたのを聞いてテリーは振り向く。
ユーリはある男を見ており、その男もユーリを見ていた。
やがてその男はこちらに近づいてくる。
自然とユーリを守れる位置に移動するテリーであったがユーリもその男に近づいていく。
やがてお互いの手が届くぐらいの位置まで近づく。
「ユーリ・アカバ…か?」
「そういうお前はレイだな。」
お互いの名前を確認する二人。
テリーは何が起きてもいいように隠し持っている銃に手をかける。
するとお互いに笑顔になりハグをする。
「久しぶりだな!あの時以来だな!」
「ああ!お互い息災なようで何よりだ!」
完全において行かれたテリーの様子に気づいたのかユーリは説明する。
「こいつは俺と同じ少年兵時代の生き残りで名前はレイ・アカバだ。」
「えっ、アカバ…?」
ユーリと同じファミリーネームをもつ事に疑問をもつテリーにレイと呼ばれた男が答える。
「あの頃売られて名前も碌にない奴も居たからな、最年長だった奴のファミリーネームをみんなで名乗ったのさ。」
テリーにそれだけ説明すると再びユーリと会話するレイ。
ユーリの方も笑顔でこの再開を喜んでいることがわかる。
「それでレイ。お前なんでこんな所にいるんだ?」
「…ああ仕事でな。そういうお前は…観光か?」
「…ああ、まあそんなところだ。」
二人の話が少し途切れたのを見てテリーはユーリに耳打ちする。
(隊長、そろそろ任務の方に…。)
(…ああそうだな。すまん。)
「すまんがレイ、人と待ち合わせしているからこれで…。」
「…そうか、じゃあな。」
それだけ言ってレイは人込みに紛れ反対方向に消えっていった。
「すみません。」
「いや、お前が正しい。任務が優先だ、それに…。」
「それに?」
「…いや何でもない。」
ユーリの言葉に何か引っかかりを覚えるテリーであったがユーリが再び歩き出したのでそれに着いて行く。
するとユーリが誰かとぶつかる。
「っと、すまない。」
ユーリはすぐさま謝るが相手は聞こえていないのか返事は無い。
ぶつかった相手はボロボロのフードで顔を隠している。
ようやくテリーにも相手が何か言っているのが聞こえる。
「お恵みを…お恵みを…。」
(物乞いか…。)
いくらワケドニアが戦闘が少ないとはいえこういった者は増え続ける一方であろう。
何も思わない訳ではないが持ち合わせがあるわけでもない。
ここは無視するしかないとテリーが思っていると。
「大丈夫か?近くの宿まで行くか?」
とユーリがぶつかって来た相手に話しかける。
(隊長、ここで時間を取られる訳には。)
テリーがユーリにそう言うがユーリは目線を物乞いに向けたままだ。
(いや?違う。)
ユーリの目線の先を見てみると物乞いが持っているものに目線をやっていた。
ユーリとテリーにしか見えない様にしているが、一目で高価かなイヤリングであることは分かる。
そしてそのイヤリングにはフリーゼンの紋章が付いていた。
「お恵みを…お恵みを…。」
二人はこの物乞いを連れて歩く。
「ここならフードをとっても大丈夫ですよ。」
中心街から離れた路地裏に三人はいた。
「ええ、ありがとう。ユースティアの勇士たちよ。」
そう言うと物乞いはフードとる。
そこには長旅のせいか少し痛んでいたがフリーゼンの特徴である銀髪をなびかせた女性であった。
「私がフリーゼン王国の第三王女、…そして王室最後の生き残りであるアーニャ・フリーゼンです。以後よろしくお願いいたします。」
そういって頭を下げる所作にも気品が感じられ、二人は思わず息を飲む。
「ユーリ・アカバ、階級は少尉。こちらは曹長のテリー。我々がエリンまで送り届けます。…礼儀作法については目をつぶって頂けると。」
「フン、ユースティアも兵の質が落ちたな。このような者が迎えなどと。」
第三者の言葉に振り向くとそこにはいかにも兵士という体格の男がいた。
ユーリとテリーは銃を向け警戒する。
「大丈夫です。彼は私の護衛でマキシムといいます。」
マキシムと呼ばれた男は明らかにユーリ達を見下す。
「貴様らみたいなのが王族と話すなどと吐き気がするのだが今回は特別だ。精々その安い命で守れ。」
その言葉に憤慨したのは気にしていないユーリでも、あまりの言い草に呆れていたテリーでもなくアーニャであった。
「マキシム!これから護衛して頂く相手になんてことを!謝罪をしなさい今すぐに!」
アーニャがそういうがマキシムは軽く頭を下げただけでつかつかと離れていった。
「申し訳ありません。フリーゼンに長く仕えた軍人であるのですが、少々性格が…。」
「いえ気にしていませんよ。」
テリーがそう言う間もユーリは路地裏の入り口に待機しているマキシムを見ていた。
だが、しばらくしてからアーニャに振り向く。
「では王女様、我らが艦にお連れ致します。覚悟はいいですか?」
そうユーリが聞くとアーニャは覚悟が決まった目で決意を表す。
「覚悟なら国が滅んだあの時にできています。行きましょうフリーゼン再興に向けて。」
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