第37話 最後の条件

 「…少しいい?ハミルトン。」

 「えっ、う、うん。何、ドロシーさん」

 エーデルワイスへと戻る白兵部隊のジープ三台の内の一つに乗り、揺られて外を見ていたティナに珍しくドロシーから声を掛けてきた。

 ティナにの様子を見て一つため息を付くとドロシーはジト目で見ながら言葉を放つ。

 「あなた今回の件で責任を感じてるでしょう?」

 「そ!、そんなこと…な…いよ…。」

 「…せめて真っ直ぐ見て言いなさい。」

 ドロシーの追及に目を逸らしながら答えるティナにまたため息が出そうになる。

 「いい?ハミルトン。誘拐の件で責任を感じてるのならそれは止めなさい。時間の無駄よ。」

 「で、でも私が誘ったから…。」

 「確かに私たちはあなたに誘われて付いて行ったし、中立国だからって気を完全に抜いていたのも事実だよ。けどね。」

 ドロシーはそこまで言うとジト目を一層強くしてティナに言う。

 「気を抜いていたのは私たち全員だしそもそも悪いのは誘拐側の人間よ、された側のあなたが一々気に病むのはおかしいわ。」

 「そ、そうだけど…。」

 「…ハァ~。」

 思っていたより重症であるティナの様子に再びため息が出てしまうドロシー。

 「そんなに気にするのだったら今度また四人で集まって買い物でもした時、何か奢ればいいんじゃない?」

 その言葉に驚いたようにティナはドロシーの顔を見る。

 「ま、また一緒に行ってくれるの?」

 「当たり前でしょう。このまま中途半端だと何か負けたような気もするし。」

 パメラとオリビアの二人も連れてくる分には問題はないだろうとドロシーは確信している。

 そう付き合いが多い訳ではないが二人ともこの様な事を気にするとは思えない。

 そのような事を思っているとティナが微かに涙ぐんでいる。

 「ど、どうしたの?」

 「こ、この休暇、皆で過ごすの楽しみにしていて。けどもう集まってくれないかもって思って。」

 「…軍人がそんな事で泣くんじゃないわよ。」

 ドロシーは右手で頭を抱えながらそう言うが、その口元には笑みが乗っていたことをティナは気づかなかった。


 「ところで、隊長大丈夫かな…。」

 涙も引っ込みいつもの様子と取り戻しつつあるティナがユーリの身を案じだす。

 「…むしろ相手のしてる向こう側の心配をした方がいいんじゃないかしら。」

 向こう側の実力は分からないがユーリの実力で突破出来ないだけの兵力も実力も持ってはいないだろう。

 加えて凄腕の傭兵と名高いカーミラ・エッツオも付いているのだから実力的には何も問題はないと思われるが。

 「いや、そっちじゃなくて。終わったあとカーミラさんが隊長に剣を向けないか心配なんだけど…。」

 「ああ…そっちね。」

 確かにそれはあり得ない話では無いだろう聞くところによればユーリに対しかなり執着しているようである。

 今は契約で共闘していても終わった後何するか分かったものではない。

 「それに関しては…祈るしかないわね…。」

 「…だね。」

 二人は合わせて祈りだす、カーミラにまだ常識があることを。


 一方その頃MT同士による戦闘はまだ行われていた。

 いやそれは戦闘と呼べるようなものでは無かった。

 これは狩り、それも一方的なものであった。

 誘拐犯が使っているMTはグロックM14、パランスが取れていて傭兵たちにも人気がある機体だ。

 特にこういった集団戦で実力を発揮できる。

 それに乗っているのは訓練を受けた実力者である。

 だが、それでも。

 海で泳ぐ小魚が巨大魚に飲み込まれる運命が変わらないように、この二人との実力差も決定的なものであった。

 大きな音を立てグロックM14が横に両断される。

 カーミラ機の大剣が追撃で両断されたグロックM14のエーテル貯蔵部に突き刺さる。

 爆散するグロックM14を横目にカーミラはユーリと合流する。

 目の前にいるMTは三機、そうすでに誘拐犯側のMTは三機しか残っていなかった。

 三機のうち二機がやけくそ気味に突撃してくる。

 そんな突撃を二機とも落ち着き払いながら迎撃する。

 「そんなやけっぱちの攻撃に当たる気はないよ…っと。」

 ユーリ機はその突撃を横に躱しながら切りつけ行動不能にする。

 「情熱的なのはいいけど…実力がね。」

 カーミラ機は敵の突撃を躱さず大剣で相手のガードごと斜めに切り裂く。

 二機とも動かなくなったのを確認し、正面のついに一機となったグロックM14を見る。

 「あれが隊長機かしら?」

 「多分な、自分は動かない所とかそれっぽい。」

 相手が隊長機であることを確認しカーミラは大剣のチェーンソー機構を止める。

 生け捕りにしてこの事件の黒幕の情報を聞き出すためだ。

 「サービス満点だな。」

 「あら、お気に入りの相手にはいつもこんな感じよ。」

 そう言いつつ二人とも相手との距離を詰める。

 タイミングを見て突撃をするつもりであったが。

 《敵MT、エーテル値急上昇。自爆と思われます。》

 「っ!、カーミラ!!」

 その言葉と同時にユーリは勢いよく後ろに下がる。

 その意味を理解したカーミラもそれにならって後ろに下がった。

 隊長機の自爆は二機が十分に距離を取った後であった。

 自爆の後以外は何も残されていなかった。

 「…仕方ない他のMTから。」

 すると残っていたグロックM14のコックピット部分が次々と爆発する。

 「…無理そうだな。」

 「そうね、徹底して情報を隠す気かもね。」

 コックピットを的確に爆破したのは機体に残っていたであろうデータから情報を引き出すのを恐れたからであろうとカーミラは推察する。

 「まぁ、後は上が何とかするだろう。」

 クリエントへの説明や首謀者の割り出しなどはスコットやライアンに任せるとしてユーリは目の前の問題を片づけることにする。

 「さてと、カーミラ・エッツオ。最後の条件聞かせて貰おうか?」

 ブラッディ・ローズの方を向きながらビームサーベルは構えたままだ。

 ユーリは十中八九最後の条件は自分との対決だと思っていた。

 「…次に会った時を最後のデートにしましょ。それを条件とするわ。」

 「…意外だな。この場で決着を着けるかと思っていた。」

 「う~ん。それもアリ寄りのアリではあるのだけどね。」

 カーミラはトーンを下げながら語る。

 「実はローズの調子が良く無いのよね。」

 「ああ、なるほど。」

 確かに動きを見ていて多少無理しているような動きがいくつかあったとユーリは思っていた。

 「どうせ踊るならきちんとした機体で踊りたいしね、だから新しい機体を手に入れて後、きちんとした舞台でお相手お願いできるかしら?」

 「分かった。いつでもお相手出来るように心構えしておくよ。」

 カーミラは満足そうに頷き、去っていった。

 《よろしいのですか少尉。》

 「いいんだよ、条件を飲むと言ったのは俺なんだから。」

 どこか心配そうに聞こえるアイギスの言葉を軽く受け流す。

 実際ユーリをつけ狙うカーミラとの決着はいずれつけなければならないのだから。

 アイギスもその意見に文句はないのでこの事件の最大の問題を口にする。

 《それにしても、誰が私を狙っていたのでしょうか。》

 「さあな、理解できるのは…。」

 ユーリは自爆したMTの後を見る。

 「とても厄介な事になりそう。って事だけだな。」

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