第36話 血濡れの薔薇、共演
「あら、一瞬幻でも見てるかと思ったわ。」
ビーチで発見したカーミラに近づいて行ったユーリに彼女が掛けた第一声は落ち着いたものであった。
いきなり撃ってくるような事は無いとは思っていたが一先ず安心したユーリは警戒しながらも軽く返す。
「いやなに、歩いていたら水着姿の美人が見えたから近づいてみたんだが実際は戦闘狂だったとはね。」
「それは残念だったわね。」
大げさに肩を竦めながら話すユーリに微笑みながらカーミラは返す。
「で、ここで何している?男漁りか?」
「フフ、ヤキモチだったら嬉しいわね。」
ほとんど面識が無い相手にかなり失礼な発言ではあるがカーミラはあまり気にせず逆にからかう余裕まで見せる。
実際彼女は美人の類に入るし水着も似合っている。
今も彼女をチラチラと見ている男がたくさんいる。
まあ彼女の中身を知れば大概逃げて行くとはとは思われるが。
「ここには時折バカンスを楽しみに来ているの。ここのあるホテルの支配人を仕事で助けた事があって格安で泊めてくれるの。偶には何もせずにいるのも良いものよ、あなたもどう?」
「遠慮しとく。」
(嘘…では無さそうだな。)
可能性は低いがカーミラが誘拐犯側に雇われていてここでバッタリ、なんて可能性もあるかも知れない。
疑いすぎかも知れないがそれでも仲間が攫われている以上ユーリは用心を重ねていた。
そのような事を考えていると急にカーミラの目が鋭くなる。
「それで、貴方は何をしているのかしら?観光では無さそうだけど。」
言葉は優しいがその目はユーリの動きを一挙一動を観察している。
あるいはそれは警告だったのかもしれない、熟練の傭兵であるカーミラがこんなに分かりやすく警戒しているのだから。
「ハァ…。」
ユーリはため息に似た何かを出す。
変に誤魔化せばその場で殺れる。
元々話すつもりではいたが完全に主導権は握られたなと思いながらユーリは口を開く。
「力を貸して欲しい。カーミラ・エッツオ。」
「…フーーン。」
ユーリからの仕事の依頼は流石に予想していなかったのか少しの沈黙の後に曖昧な相槌をするカーミラ。
足に付けていた小型のナイフと拳銃を擦りながらカーミラは目で続きを促す。
(き、気づかなかった…。)
ユーリは冷静を装いながらもカーミラが隠していた武器に気づき内心は冷や汗をかいていた。
ユーリはアイギスの事は伏せながら現在の状況を説明する。
カーミラは警戒しながらもユーリの話を真剣に聞いていた。
「なるほどね、それで私にその誘拐犯のMTの対応をして欲しい…と。」
「そう言うことだ。」
ここに来てカーミラは考えるそぶりを見せる。
もしカーミラに断られたら後は無いかも知れない。
ユーリは緊張の面持ちで返事を待っている。
「正直いえば最初近づいてきたときは私を殺しに来たか、デートしてくれる為に来たのかと思ったわ。」
「…そんな暇じゃない。」
「そうね。」
二人の間に軽い笑いが交わされる。
ここでカーミラが言うデートとはMTでの戦いであることはユーリにも察せられた。
「いくつか条件があるわ。」
笑いを引っ込め真剣な目でユーリを見るカーミラ。
「…なんだ?」
依頼に前向きなのは助かるが条件が規格外の場合こちらとしても考えなければならない。
「まず一つは戦果に見合った報酬をちゃんと出す事、まあ基本ね。」
「もちろんそこは出すさ。」
思っていたより普通の条件に一先ず安心するユーリ。
そんなユーリを見ながらカーミラは苦笑いする。
「そうね、けどそこをキッチリしていないっていう所も一杯なのよ。」
「そ、そうなのか。で、他の条件は。」
あまりこの話題に踏み込まない方がいいと思ったユーリは別の条件を聞く。
「え、ああそうね。私お酒が好きなのだけど最近いい物に出会えなくて。ユースティア産の質のいいワインを二、三本貰えるかしら、先ほどの報酬とは別で。」
「ああ、上にも確認して出来るだけいいものを回してもらえるようにするよ。」
「あら、貴方は選んでくれないの?」
「生憎まだ酒が飲める歳ではなくてな。」
「ああそういえばユースティアはお酒は19からだったかしら。それじゃあ仕方ないわね。」
「条件はそれで最後か?」
この事件が終わったらスコットにでも頼もうと思いながら確認するユーリ。
「最後に一ついいかしら?」
「?なんだ?」
「それは…、いえこれは終わってからにしましょう。」
「…法外なものを吹っ掛けて来るんじゃないんだろうな。」
「そんなことしないわ、これに関してはこちらの都合もあるから安易に言えないだけ。約束するわ。」
「…了解。あんたの良心にかけるよ。」
悩みどころであったがカーミラの真剣な目を信じる事にしたユーリ。
「ありがとう。お礼に貴方が必死に隠そうとしているなにかは探らないであげる。」
「…それはどうも。」
ユーリとしては隠しておけるとも思ったが、流石に無理であったらしい。
が、契約上で探らないと言うならユーリとしても安心できる。
「じゃ、正式な契約と詳細の説明は後でここに人をよこしてしてもらう様にしても構わないかブラッディ・カーミラ?」
「それでいいわよ、私の王子様。」
そう言ってユーリはノア達に知らせるためにエーデルワイスに戻ろうとするユーリにカーミラから声がかかる。
「一つ忠告いいかしら?」
「?なんだ?」
「詳しい状況は知らないけれどパイロット全員攫われるなんて危機感が足りないんじゃないかしら?」
「…返す言葉もない。」
「と、いった感じだな。」
「「「「返す言葉も無いです。」」」」
小隊メンバーをファフニールの手に乗せ安全圏に避難させている途中で簡単な説明をしていた。
特に最後の方は強調して言ったため四人にはグサリと刺さったようだ。
そうこうしているうちに白兵部隊との合流ポイントに着いた。
下には白兵部隊に保護されたオリビアとパメラがいるのが確認できる。
ユーリは下に降り四人を白兵部隊に預ける。
「じゃ、俺は多分来る追っ手を叩くから。」
それだけ言うとユーリは預けていた武装を取り先ほどの場所に戻る。
そこには先ほど倒した二機に加え別の二機も切り倒したカーミラのブラッディ・ローズが佇んでいた。
「あら、もう少しゆっくりしてきても良かったのに。」
「あまりにも倒されて料金がバカ高くなっても困るからな。」
通信で談笑しあうユーリとカーミラ、かつて殺し合いをしていたとは思えないほどおだやかに会話が進む。
「敵さんは?」
「貴方が去ってすぐ撤退したわ、多分MTに乗ってすぐに戻ってくると思うけど。」
そのカーミラの言葉のすぐ後にMTの反応がする。
目視でも確認ができるその数は十機以上。
「ウァーイン社のグロックM14、いい機体ね。」
カーミラが敵のMTをそう評価する。
特に隠密作戦に向いている機体だ。
二対多数、しかも多数の方のMTの操縦しているのは訓練された兵士。
普通なら二機の方に勝ち目など無いが、生憎と二機とも普通ではない。
「別に帰ってもいいんだぞ、カーミラ・エッツオ。」
「あら、依頼はきっちり果たす方よ私。」
「依頼は六人を助け出すまでじゃなかったっけ。」
「じゃあ、アフターサービスということで。」
そうこうしてる間にも敵は包囲網を形成しつつある。
カーミラは大剣を構え、チェーンソー機構を展開する。
ユーリもビームサーベルを二本を展開し構える。
「それでは」
「戦闘」
「「開始!」」
ユーリは右に、カーミラは左にそれぞれ突撃していく。
本来共闘するはずのなかった二人の戦いが始まった。
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