第35話 意外なる助け
クリエント民主国のリゾート地から遠く離れた森林地帯、人の手が入っていないこの地帯は夜には人が全く居なくなる。
故に犯罪の取引場所として有名であり裏社会においては有名である。
違法な物の売買や脅迫場所、そして誘拐後の取引現場など。
そこには既にティナやアドルファスら六名を含め十六名がユーリを待っていた。
「来るのかな…隊長。」
ティナが元気なく喋る。
六人は縄などで縛られる事もなくただ立たされていた。
ただし周りには銃を持った犯人たちに囲まれている。
抵抗すれば撃つというのを隠しもしないが話す事自体は気にしていないのか無視されていた。
「多分…私たちだけなら見捨てて貰っても構わないけど…。」
ドロシーが横目でオリビアとパメラを見る。
この二人だけでもと犯人たちに交渉していた身としては今この場に二人がいることはかなり済まないとドロシーは感じていた。
「ごめんなさい。私たちのせいでこんな事になって。」
「同じく、言葉もないです。」
パメラとオリビアがそれぞれ謝る。
実際、四人が誘拐された時ティナとドロシーは抵抗することも出来たが先に二人が捕まってしまった為出来なかったという経緯がある。
「二人とも謝らないで、多分巻き込んだのは私だから。」
ティナはむしろ二人に謝りたい気持ちであった。
犯人たちから漏れ出た言葉を集めれば目的が小隊のメンバーであった事は恐らく間違いないだろう。
二人を買い物に誘ったのはティナ自身であるしドロシーは無理に連れていったのもティナである。
元気が無いのも誘拐されたからでなく三人を巻き込んでしまった責任感からである。
「……。」
そんなティナに何か言いたげなドロシーであるが結局口を開かず黙る。
「そうだね、僕たちも簡単に捕まってしまったし二人が気にすることはないよ。」
テリーが二人をフォローするように会話に参加してくる。
テリーの名誉のためにここに記すがテリーとアドルファスの二人に関しては彼に責任は無かった。
二人以外の飲み行ったメンバーがトイレに立った時に心配になるほど酒を飲んでいたアドルファスが怪しい女に誘われフラフラと店の外に向かっていたのを止めようとしていた所を誘拐されたのだ。
が、テリーはその事を言う気は無かった。
言ってどうなる事でもないし、自分も油断していたのは事実なのだから。
「……。」
そのアドルファスは先ほどから黙ったままである。
「どうしたんだいアドルファス?」
誘拐される時に抵抗したため殴られた箇所が痛むのかと思いテリーが声を掛ける。
「…酒の飲み過ぎで頭が痛てぇ。」
そう言うとアドルファスの太ももに二つの蹴りがさく裂する。
一つはテリー、もう一つはドロシーの蹴りである。
この状況下での緊張感のない言葉に対する制裁である。
「痛って!何すんだ!」
「おい、いい加減黙れ!」
アドルファスが文句言おうとするが犯人たちの一人が流石に銃をチラつかせながら脅す。
そんな10:55がまわった時であった、ユーリ機がこの場に到着した。
「ユーリ・アカバ、早速だがその機体を明け渡して貰おう。」
犯人のリーダー格と思われし男がファフニールの手を使って降りてくるユーリに向かって話しかける。
「その前に人質を解放してもらおうか。」
「解放するとも、君がその機体を渡せばね。」
ユーリはその言葉に対し鼻で笑いアイギスに動くのを止めさせる。
「誘拐した人間を信用できる訳ないだろう?少しは誠意を見せろ。」
その言葉にしばらく黙っていたリーダー格の男であったがやがて近くにいた男にぼそぼそと指示を出す。
そしてオリビアとパメラが銃を突き出していた犯人たちによってユーリの近くに連れ出された。
「大丈夫か二人とも。」
ユーリがファフニールの手を地面につけて近づいてくる二人を迎える。
「は、はい。けど…。」
「こんな事になってしまって…。」
謝罪の言葉を言おうとする二人の耳にユーリが何事か耳打ちすると二人は森林の方に走りだす。
「助け出して貰ったのにお礼の一つも言われないなんて嫌われているようだなユーリ・アカバ。」
「アホか、こんな陰気臭い場所に居て貰いたくなくて逃げて貰っただけだ。」
実際すぐそばにはエーデルワイスの白兵部隊が待機している。
その事はリーダー格の男も理解していたが目的はあくまでAIなので無視をする。
「では改めて、その機体を貰おうか。」
その言葉と同時に突如周りにMTが現れる。
光学迷彩機能を使って周りに伏せていたであろうMT四機が徐々に近づいてくる。
「待て、残りの人質を解放してもらおうか。」
「残念だが状況はこちらの方が上だ、その提案は拒否させてもらおう。」
「そうか、仕方ない自爆するしかないだろうな。」
ユーリの言葉にリーダー格の男は通信機で四機のMTの動きを止めさせる。
「…どういうつもりだ。」
「どうもこうもない。そちらが要求を飲まなければファフニールの自爆装置を起動させる、それだけの話だ。」
「君だけではない、こいつらも死ぬぞ。」
「ただで誘拐犯に屈するよりは数段ましだ。俺は覚悟できている。」
リーダー格の男は考える。
ユーリの言葉はブラフの可能性がある。
だが本当の場合自分たちの命は勿論、目的のAIは手に入らなくなる。
それは任務を大事とする身としては最悪の結果で避けなければならない。
次に人質の価値について考える。
ハッキリ言えば既にないに等しい。
この状況を作り出すのが人質の価値であるためリーダー格の男にとっては死のうが生きようがどちらでもいい存在だ。
それぞれの価値を考えれば彼が出す答えは一つしか無かった。
「分かった。」
そう言うと部下に四人を解放させる。
四人全員がユーリの近くに行ったのを確認しリーダー格の男はAIが手に入ると確信する。
わざわざMTの乗り手を誘拐しユーリのファフニールを非武装にすればこちらのMTに対抗する術は無くなる。
近くに人質のMTを持ってきていたとしても乗り込む頃には逃亡の準備は出来ている。
彼らがユースティア本国に連絡を取っていない事は確認出来ている。
クリエントに協力を求めていた様子もない。
以上のことから任務の達成を確信していた。
「ではユーリ・アカバ、自爆装置を解除してもらおうか。」
その言葉にユーリは笑みを浮かべながら通信機を手に取る。
「もういいぞ。」
その言葉のすぐ後に光が待機していたMTを貫く。
「な、なんだ!?」
近くで爆散する仲間のMTに理解が追い付かないリーダー格の男は思わず叫ぶ。
すると森林からMTが飛び出して続けざまに持っていた大剣でもう一機を切り裂きの残りの二機をけん制する。
「…あれ、あの機体?」
ドロシーがやってきたMTに疑問を抱く。
黒いガルダのカスタム機、あの機体を使うのは…。
「ブラッディ・カーミラ!?」
「ああ、まぁ色々あったんだ。」
ティナが大声で言うのを曖昧に肯定するユーリ。
話は数時間前にさかのぼる。
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