第34話 人質か、アイギスか、それとも
「…どうすべきか。」
ノアから思わず声が漏れる。
エーデルワイス内の艦長室、ここにいるのはノアを除けば副艦長であるジャックとおやっさんそしてユーリの三人だけである。
通常おやっさんがこのような場にいることは無いが今回は内容が内容だけに参加してもらっている。
この四人が頭を悩ませている原因、それは四人が囲んでいる机の上の携帯情報端末にあった。
ジャックがもう一度端末に入っている画像を展開する。
そこには縄で縛られたティナ達四人と飲みに行ったメンバーと一緒だったテリーとアドルファスであった。
アドルファスには抵抗したのか殴られた跡がある。
続けてジャックは端末の音声ファイルを展開する。
『君たちの仲間は預かった。返して欲しければユーリ・アカバのMTをこちらに渡せ。期限は本日午後十一時、ユーリ・アカバ一人で指定する座標にMTも含め非武装で来い。この情報をあらゆる機関に漏らせば人質の命は無い。座標は追って伝える。』
それだけを伝え音声ファイルは終了する。
この端末を届けたのは飲みに行ったメンバーで席を外した時にはもう二人は居なくなっており代わりにこの端末が置かれていたという。
メンバーはすぐさま艦長のノアへと知らせ、それがジャックからユーリとおやっさんへと伝わり今に至る。
伝えたメンバーには口外しないように伝え部屋で待機してもらって四人で対策を練ろうとしているが上手くいかない。
「整理しよう、相手が要求しているのは少尉のファフニールだが目的は間違いなくAIアイギスだろう。」
ノアの推測に誰も異論は出さなかった。
確かにファフニールはユースティアの最新鋭候補筆頭ではあるがここまで大胆な手を使ってまで情報を聞き出す国があるかどうかは疑問である。
それにわざわざユーリ機を指定したことからも狙いはアイギスであることは明白だろう。
「…おやっさん。」
「いちいち言わんでいい。言われんでも分かっとる。」
ジャックが遠慮がちに言おうとするのを、おやっさんは険しい顔をしながら先を制す。
その様子を見ながらユーリは口を開く。
「まずアイギスを渡すことはあり得ない。」
誘拐犯が何を考えてるにしろ犯罪者の言う事を鵜吞みにして物をあげる国はまずないだろう。
その言葉に頷く三人を見て一呼吸おいてからユーリは断言する。
「だけど人質を見捨てることもあり得ない。」
その言葉に三人は先ほどより強く頷く。
ここで仲間を見捨てるほど彼らの仲間意識は低くない。
「だが、実際どうする。」
おやっさんが疑問を呈する。
「向こうさんもおそらくMTを所有してるだろう。仮に人質助けられても小僧が攫われたら本末転倒だろう。」
「問題はそこだろうな。敵の数は不明で非武装で行かなければならん。少尉が幾ら類いまれなる腕を持っているとはいえ流石に…。」
おやっさんの言葉にノアが頷きながら腕を組み悩む。
ユーリも流石にその状況で作戦を完遂できるとは言えなかった。
大体今話していることも上手く行けばの話だ、実際には反撃の隙も無いかも知れない。
「…やはりこの国の軍に話を付けた方が、ダメならせめて本国に「「ダメだ。」」…何故ですか。」
ジャックの意見にノアとユーリが言葉に被せて却下する。
二人は共通の認識を持っているのを目で確認しながらノアは語る。
「AIアイギスはユースティアの重大機密事項となっている。本国でも情報漏洩には最大の注意を払っている。」
続けてユーリが繋げる。
「知っているのは艦の乗組員の一部と国の上層部ぐらいだとスコ…少将が言っていた。つまりどこからか漏れたのでなければこれを仕組んだのは…。」
「…お国の誰か…って事かい。」
おやっさんの言葉にコクリと頷くユーリ。
ジャックも驚いたが冷静に考えれば確かにあり得ない話ではないだろう。
アイギスを開発したアームストロング博士はアイギスを開発した後は第一線を離れ何重にも敷かれたセキュリティがある自宅で研究に没頭しているらしい。
そして心のあるAIの設計は今現在、彼しか知らないであろう。
「博士に聞くよりは直接実物を手に入れた方が簡単…そう言うことですか。」
ジャックの言葉にノアが頷く。
実際アイギスのようなAIが量産できれば戦力的に有利になるだろう。
それをユースティアがしていないのは現国王であるユースティア四世が難色を示したからである。
それに対し不満をもつ上層部の者もいたらしいことを二人はスコット経由で聞いていた。
「とにかく、誰が関わっているかどうか分からない状態で国に連絡を入れるのは出来ない。国の内情を晒すことにもなりかねないのでクリエントの軍に協力を求めるのも無理。」
弱みを見せればクリエントは貿易において不利な契約を振ってくるかもしれない。
国の大事を勝手に傾けるのはまずいだろう。
だが…。
「それじゃあ、パメラたちをどうやって助け出すんだ。」
おやっさんの一言に三人とも黙ってしまう。
そのまま五分過ぎても誰も口を開かない。
「…ちょっと、外の空気を吸ってくる。」
そう言ってユーリは部屋の外に向かっていく。
「少尉!外に出るなら護衛はつけて下さいね!」
ジャックの言葉に手を振り了解の意を示すとユーリは完全に部屋から出て行った。
「我々も少し頭を休ませよう。」
ノアがそう言うとおやっさんもジャックも部屋の外に出て行った。
一人になった部屋で紅茶をいれながらノアは呟く。
「せめてもう一人いれば。」
ユーリは言われた通り護衛を連れてビーチに来ていた。
別に何か目的があってきたわけではなく、気ままに歩いたらたまたまビーチだっただけである。
「人が一杯だな。」
時間も遅くなってきたがそれでも多い人に圧倒されながらもビーチを歩いていく。
護衛も付かず離れずの距離でユーリに付いて行っている。
(どうしたものかな…。)
考えるのはどうしてもあの事、要求を呑むのは論外だが仲間も見捨てる訳にはいかない。
考えが堂々巡りする中、ふとある人物に目が留まる。
パラソルをたてチェアに座るその人物を何処かで見たような気がするユーリ。
(つい最近…どこかで…?)
そして思い出される。
(あ!!)
思わず逃げようとする足を抑えユーリは頭を回す。
(あいつがいれば…いけるか?)
脳内シュミレーションをしてみる。
結果かなりの確率で上手くいくだろう。
ただ一つの問題は。
(上手く説得できるかどうか…だな。)
その人物との面識は二回である。
一体どんな条件を吹っ掛けられるか不安で仕方がない。
だが。
(ええい!ままよ!)
なけなしの勇気を出しユーリはその人物に足を進める。
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