第31話 それは突然にあっさりと
ユーリ達とクラジャの巨大戦車タイラント・ティガーとの戦闘が始まり三十分以上が経過しようとしていた。
奇襲に成功したユーリ達が優勢に攻撃してはいるが。
「っ…攻めずらい!」
ドロシーがぼやく通りまるで要塞を攻めているかのような感覚に皆が襲われる。
重装甲なため攻撃はほぼ寸分なく当たっている。
が、下手な攻撃では傷が付かず下手に近づけば機銃の嵐に見舞われる。
「この野郎!!」
アドルファスがピンポイントで操縦部、ないし動力部に当てようと距離を取りライフルを構えるが。
「コックス曹長!避けろ!」
テリーの通信での警告が終わるかどうかという間にタイラント・ティガーの二門の主砲が轟音と共に発射される。
「チィ!!」
舌打ちしながらも飛んでくるエーテルの光を何とか避ける。
距離を取ろうとすれば主砲が飛んでくる、それを何とか避けるという一連の行動がこの三十分の間に何回起こっただろうか。
無論ユーリ達も無意味に攻撃しているわけではない。
今もユーリがタイラント・ティガーのキャタピラを破壊するのに成功した、が。
「クソ!あといくつだ!」
《正確な数は分かりかねますがおよそ80以上はあるかと思います。》
「それは聞きたく無かった!」
タイラント・ティガーのキャタピラは100以上のキャタピラが独自に稼働しておりユーリ達は既に20以上潰してはいるが未だ足を止めるに至らなかった。
ティナがガトリング砲で機銃を潰しながらも焦ったようにユーリに通信する。
「隊長!このままだと時間が!?」
「落ち着け!確かに破壊はしたいが、最悪でも情報収集できればいいんだ!全員無理せず、けれど全力で攻撃しろ!」
「「「「了解!!」」」」
全員にそう伝えながらもユーリは頭の隅で思っていた。
(何か一つ、何か一つでもきっかけがあれば切り崩せそうなんだが…。)
「キャタピラ!また一つ壊されました!」
「右側機銃!三割消滅!」
ゲイルはタビーとジーナの報告を聞きながらも状況を冷静に判断しようとしていた。
「落ち着け!援軍をここで待つ以上キャタピラはこの際壊されても構わん!機銃群は壊れた部分を正面に回してとにかく側面の防御を集中しろ!」
タイラント・ティガーはとにかくでかく小回りが全くと言っていいほど効かない。
その為正面からの殴り合いには滅法強いが側面に回られると機銃での攻撃が精一杯である。
無論その側面からの攻撃も予測はしていたが。
(思っていたより手練れだな…。)
二人に聞かれないように心の中で思う。
ゲイルは熟練の戦車乗りでもちろんMTとの戦闘も数えられないほどやっている。
その全てに勝てたわけではないし相手の力量が分かるわけでもない。
だが、ゲイルは確信をもって相手を手練れだと思う。
それにこうして戦闘を行っている事自体が敵の術中であることも彼は理解していた。
十中八九、敵の狙いはこのタイラント・ティガーである。
そして敵はタイラント・ティガーの鹵獲、または破壊を命じられているはずだが同時に情報も送られているはずだ。
そうしてユースティア王国に送られこの戦車のことは全て明かされてしまうだろう。
つまりこの状況こそが一番の最悪の形と言えるだろう。
本来なら敵に情報が渡る前にタイラント・ティガーを爆破すべきだ。
一時的に切り札は無くなるがそれでもユースティア王国に詳細な情報が渡ることは無いだろう。
だが、ゲイルはそれを良しとはしなかった。
(いつまでもいい気になるなよ、MT!!)
それは戦車乗りの誇りであった。
時代はほぼMTに移りつつある。
戦車乗りというだけで見くびられる事もあったし命を共にした戦車乗り達も次々にMT乗りへと変わっていった。
時代の流れ、そう言ってしまえばそれまでだがそれがゲイルのMTに対する敵外心へとなるのは仕方のない事でもあった。
今、戦車と言えない動く要塞のようなものとはMTを凌駕する力が手の中にある。
(すまないな、二人とも。)
それに付き合わせる新兵二人には悪いとは思いながらも、敵のMTに集中する。
今、長距離用のライフルを持ったMTがまた後ろに下がる。
今まで通り主砲も撃つが次はもう一手加える。
「対MTミサイルを主砲の後、狙撃のMTに向けて発射する。準備急げ!」
「「り、了解!」」
二人はゲイルの指示の通りミサイルの準備をする。
だがゲイルはこの一手で戦況が変わるとは思ってなかった。
(何かきっかけさえあれば…。)
ユーリとゲイル立場は違えど同じことを思っていた。
そして両方が願っていた切っ掛けは恐ろしいほどあっさりと訪れるのであった。
「大丈夫かい!コックス曹長!!」
「ああ!こちらにちょっと受けちまったが支障はねぇ!」
主砲を先ほどのように避けたアドルファス、だがそのせいでタイラント・ティガーから発射されたミサイルの眼前に晒される事になった。
だが、盾を構えアドルファス機の前に割って入ったテリー機の活躍により損害は少なかったようだ。
「コックス曹長、攻撃は僕がガードするから狙撃に集中を。」
「よっしゃあ!一発かまして」
その出来事はあまりに前ぶれなく起こった。
突如タイラント・ティガーの一部が爆発した。
それと同時に雨あられと注いでいた機銃の動きも悪くなる。
「隊長!これは…!?」
「…不具合か?」
小隊のメンバーがやった事ではないし、他に攻略の部隊が来ることもない。
ユーリが考えられるのは不具合ぐらいである。
《少尉、今は。》
「…ああ、今を逃すわけにはいかない。」
理由がなんにしろ敵の機銃の弾幕が薄くなった今が好機であることに間違いはないだろう。
「ドラクル5!時間は!?」
「作戦想定時間、残り15分です!」
「了解!全員!あと10分で決めるぞ!!」
「「「「了解」」」」
それぞれがタイラント・ティガーを沈めるべく攻撃を集中させていく。
新兵器を巡るこの小さな戦いも終わりに近づく。
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