第30話 タイラント・ティガー
一面砂だらけの砂漠、時折吹く風のみが砂を巻き上げる。
そのはずの砂漠地帯であったが今日は違う。
遠方からみたら砂の津波と見間違うような砂埃が立っている。
近くから見てそれがようやく戦車であることがわかる。
その周りをガスアのMTガルダが三機、周りを囲んでいる。
それは戦車を守るようであり、逆に監視しているようであった。
この戦車こそクラジャが総力を挙げ造り上げた全長40,5m重量400tにもなるド級戦車【タイラント・ティガー】である。
そのタイラント・ティガーの操縦室、そこに三人のクラジャの軍人がいた。
このタイラント・ティガーはこの操縦室一つで操縦できるのでこの戦車にはこの三人しか乗っていない。
しばらくの間三人が黙々と仕事をしていたが一人が我慢出来なくなったように席を立つ。
「…っ!やはり、納得いきません!!」
「しつこいぞ、タビー一等兵。」
見るからに若そうな兵士を窘めるのは歴戦の戦士の貫禄を見せる男であった。
名をゲイル、階級は少佐。
クラジャの歴戦の戦車乗りである。
そのゲイルに窘められるタビーであるが彼の不満は止まらない。
「しつこくも言います!なぜクラジャの技術の結晶ともいえるガスアに売り渡さなければならないのですか!」
「なぜもなにも上層部が決めた事よ、文句を言わないでタビー。」
白熱していくタビーをもう一人の女性軍人が宥める。
彼女の名はジーナ、階級は伍長。
階級こそ低いが持ち前の技術は上からも評価されていた。
だが彼女の優しめの言葉もタビーを止めるには至らない。
「だが、ガスアはこれを受けるだけ受け取って碌な協力もしないつもりに違いないと言う話も出てたらしいじゃないですか!これを言っているのは俺だけじゃない!他の大勢もそう思っている!」
「そこまでだ、一等兵。」
ジーナがどう静めようか悩んでいるとゲイルがタビーを静かにさせた。
拳銃をタビーの方に向けながら。
「し、少佐…。何を。」
「それ以上は国家に対する反逆意思があると見なされる。だから一度だけ言う、黙れ。」
「っ!…了解です。」
タビーが座るのを確認してからゲイルは銃をしまい彼自身も席に座る。
ジーナは緊張感が解かれてひとまずホッとする。
「一等兵が言わんとしてることは分からんでもない。」
しばらく黙っていたゲイルであったが、誰に対してか話し出す。
「事実、ガスアの連中はこのタイラント・ティガーしか興味がないだろう。クラジャに協力し続けるかどうかは疑問だな。」
「っ!、だったら。」
「だが、手を結ばなければこいつは完成しなかった。」
タイラント・ティガーの大部分はクラジャが造り上げたものだ、だがエーテルのコントロール部分などはガスアからの技術提供があればこそであった。
「それに、見せかけだろうとユースティアにクラジャが対抗するにはガスアの協力が必要不可欠だ。それぐらいお前にもわかるだろう。」
クラジャという国は資源的にも技術的にも貧しい国だ。
隣国であったペンドラゴンよりも過酷な砂漠地帯、オアシスがあること自体も珍しくMT製造やオリハルコンが採掘されることもあまり無いのでエーテル技術もかなり遅れている。
ユースティアに攻められれば碌な抵抗をする前に滅ぼされることは火を見るよりも明らかというものであろう。
ゆえにユースティアに匹敵する大国であるガスアに協力を求めるのはおかしな事では無く、小国が大国より損するのも珍しいことでは無い。
「それは…しかし。」
が、心情としてそれが納得できるかどうかは別の話である。
国の威信をかけて造り上げた兵器を、同盟の為とはいえ売り渡すのだゲイルも心情的には理解できるしジーナも心の底から納得はしていなかった。
だが、国に仕える軍人である以上私情で任務を放棄するわけにもいかない。
「それに国を想うお前のような兵士がいることを私は嬉しく思う。」
「少佐…。」
そこからしばらく皆が黙っていたが、突如ゲイルがジーナに聞く。
「タビー一等兵、レーダーに問題はないな。」
「えっ、あ、はい。レーダーに反応ありません。」
「よし、常にチェックを怠るなよ。」
緊張感を含ませて言うゲイルにタビーもジーナも疑問に思う。
この任務はタイラント・ティガーの試運転も兼ねた輸送任務だ。
クラジャの最前線基地にガスアの輸送機が待っておりそこまで距離もなくなによりクラジャ国内を移動するだけの任務だ。
だからこそ少佐以外は伍長と一等兵なのである。
しかしゲイルはまるで戦場に立っているかのような険しい表情をし始める。
「少佐、何かありましたか?」
「逆に聞くぞ、ジーナ伍長。君はこのまま素直に輸送任務が済むと思うか。」
「え?は、はい。だからこそ自分たちが選ばれたわけですし。」
「俺はそうは思っていない。恐らくユースティアからの妨害が入る。」
「「!?」」
予想していなかった発言に二人が驚愕に包まれる。
「考えてみろ、ユースティアがこの事態を察知していない訳がない。ならば妨害してくるのも当然だろう。」
「そ、そのことを上層部には…?」
ジーナが恐る恐る質問するがゲイルは首を横に振る。
「進言はしたのだがな、根拠がつかめず却下された。」
上層部は情報は徹底して管理していると言うがゲイルから言わせればユースティアをまだ甘く見ていると思う。
「とにかく何かあれば我々とガスアの護衛で対処しなければならない。気を引き締めろ。」
「「は、はい!」」
(ガスアがどこまで本気で護衛してくれるか疑問だがな。)
護衛の部隊とは挨拶したが二人の新兵と教官といった感じであった。
ユースティアと長く戦ってきて甘く見過ぎてる気がするゲイル。
もしくはこの任務じたいの重要性が低いのか。
(いざとなったらこいつらを守ってやらないと)
いずれにしても自分の身に変えても若き二人を守ろうと心に思うゲイルであった。
「ん?」
「どうしたの?」
タビーの声にジーナが反応する。
「いや、ガスアの連中と定期連絡しようと思ったんだが通信が出来なくて。」
「?おかしわね、通信障害が起こるような地帯でもないのに。」
「……。」
会話を聞きながらゲイルは周りの地形を見渡す。
大きな岩が点在している、ちょうどMTが数機隠れられる程の。
「二人とも配置に付け、…敵だ。」
その発言に二人が反応する前に一筋の光が護衛していたガルダの一機を貫く。
爆散する機体に他の二機が気を取られていると岩陰から二機のMTが出てきて一機がガトリング砲で、もう一機がランチャーでガルダを撃破していく。
岩陰から他のMTが出てきてタイラント・ティガーを囲む。
「て、敵機。認識コードが識別できません!」
「周到な事だな。」
タビーが慌てて報告するがゲイルは慌てることは無くMTを睨みつける。
「敵機より暗号通信です。」
「なんと言ってきてる?」
「『降伏して明け渡せ、命は保障する』とのことです!」
「や、やっぱり目的はタイラント・ティガー!?」
オドオドするタビーやパニック寸前のジーナを横目にゲイルは命じる。
「『くたばれクソ野郎』そう返信しろ。各兵装起動、今なら基地に連絡できるはずだ援軍が来るまで持たせるぞ!」
「「り、了解!!」」
二人が返事して作業に取り掛かる。
今ここに歴史に残らない運命の戦いが始まる。
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