第28話 未だ見ぬ敵影
「あ~、暇だ~。」
「…コックス曹長、五月蠅い。通信越しに文句言わないで。」
アドルファスの不満の声に対するドロシーの突っ込みが通信越しに聞こえる。
テリーもティナも口には出さないがドロシーと同じ意見のようだ。
「そうは言ってもよ、もう既に砂漠で待機して三日たつんだぜ。文句の一つも言いたくなるだろ。」
そうドラクル小隊は砂漠地帯にてはや三日、ある目的の為にMTに乗り込んだまま過ごしていた。
そのような状態だと自然とイライラも溜まるもので、アドルファスの言葉にドロシーが不満を爆発させようとしていた。
「っ!!だからそう言う発言を…!!」
「いい加減にしろ、ドラクル5。」
爆発しそうになったドロシーを止めたのはユーリであった。
「こう言った状況だしイライラが溜まるのも理解できるがここが敵地だということを忘れるなよ。」
「…申し訳ありません。」
このユーリの発言に冷静さが戻ってきたのかドロシーは素直に謝る。
「ドラクル3も、皆こういった状況なんだから無駄に煽るな。」
「…すんませんでした。」
アドルファスにも釘を刺し、しばらくの間沈黙が包む。
そもそも彼らが何故三日間、砂漠でMTにて待機しているのか話は一週間ほど遡る。
「新型戦車の破壊?」
アドルファスの声が部屋に響く
エーデルワイスのミーティングルーム、そこに集められた小隊メンバーを前にユーリは今回の作戦の説明をしていた。
「そうだ今回の目標は新型戦車の情報収集、可能ならば破壊となっている。」
「それって俺たちがやることなのか?」
アドルファスが不満げなのが声からでもわかる。
他のメンバーもこの作戦を疑問に思っているのがなんとなく雰囲気でわかる。
たしかにMTと比べ戦車というのはこの時代において低評価である。
様々な状況に対応できるMTと違い戦車は活躍できる場が少ない。
それに情報収集だけならばわざわざMTを動かすほどではないだろう。
ユーリもこの状況は読めていた為淡々と進める。
「確かに普通の戦車なら、いくら諜報部とはいえMT部隊の俺たちが出張る事は無かっただろうな。」
「…普通ではない、と?」
ドロシーの疑問に首を縦に振り肯定の意思を示すユーリ。
「ところでティナ、MTの定義とはなんだ?」
「えっ!あ、はい!」
いきなりの質問に驚くティナであったが、内容的には分かるものであったので淀みなく答える。
「国によって人型や多脚型などMTの仕様は様々ですが絶対的なのは全高33m以内であること本体重量60t以内であることです!それ以上の兵器は大量破壊兵器として認識されています!」
今より少し昔、大型化の一方であったMTであったがある国が巨大なMTを製造、周辺諸国を侵略したがそのMTが通った後には生きた人間がいないと言われる程の破壊ぶりで、それゆえに周辺諸国が協力してその国を滅ぼしたという話がある。
ちなみにその国の後に建国したのがガスア帝国とも言われている。
「それが理由で国家と企業間の間で暗黙の了解ができて、MTの定義が認定されました。」
「…以後、MTは大型化から小型化に向かって行ったのもありこの定義に反した製造は行われていません。」
ティナの説明にテリーとドロシーが補足説明をする。
アドルファスはひたすら感心しているだけだった。
ユーリも頷いてはいるがこれらの情報は作戦を聞いたときにライアンから聞いたからでそれがなければアドルファスと同じ反応だったであろう。
「そう、MTの定義はまさしくティナが言ってくれた通りだ。逆に言ってしまえばMTでなければその定義から外れてもいいわけだ。」
「?どう言うことだよ?」
ユーリの遠回しの言葉にアドルファスが質問する。
他の三人はどうやら感づいているようで何も言わない。
「オリビア、映像を。」
オリビアがコントロールパネルを操作しスクリーンに映像を出す。
「これは!?」
テリーが思わず大きな声を出す。
他のメンバーも声が出ないようだ。
無理もないとユーリは心の中で思う。
最初見た時はユーリも冗談かと思ったぐらいである。
「重量約400t、長さはおおよそ40m。間違いなく最大級の戦車になるだろうな。」
映像に映し出されたのは規格外に巨大な戦車だ。
「こんな戦車どこが…。」
「クラジャという国だ、ペンドラゴンと接している国でこの情報もペンドラゴン経由で入って来た。」
ドロシーの質問に短く答えるユーリ。
するとティナが問いかける。
「ペンドラゴンと接しているという事は砂漠地帯ですか!?」
「そうだ、だが話はこれだけで終わらない。」
一呼吸おいてから重くユーリが口を開く。
「これにガスアが関わってくる。」
全員が驚きに包まれる。
「どうやらペンドラゴンがユースティアに敗北したのを聞いてガスアに協力を求めたらしい、このバカでかい戦車をガスアに売り渡す気だ。」
「…だからその前に破壊を。」
「そうだ、それが無理そうならせめて情報を手に入れておきたい。」
オリビアに合図を送ると今度は地図が映し出される。
「強襲ポイントはここ、おそらくガスアの護衛が付いてくるだろうがこれも撃破する。」
「これは…手間が掛かりそうですね。」
テリーが思わず漏らした言葉にユーリはため息をつきながら捕捉する。
「ちなみにこの作戦時間は一時間だ。」
「一時間!?いくらなんでも短すぎるだろう!?」
作戦時間の短さにアドルファスが思わず席から立ちあがり大声をあげる。
「仕方がない、複数のMTが隠れられるポイントはここぐらいしかないが敵の基地も近い。増援を考えれば一時間が限度だろう。」
「つまり、あくまで最長で一時間。と言う訳ですね!」
ティナの答えに頷くユーリは更に言いずらい事実を言う。
「更に言えばこの作戦は俺たち、ドラクル小隊のみで行われる。エーデルワイスも国境外で待機だ。」
「!?艦なしでこの戦車と戦う、のですか。」
テリーの質問にユーリはげんなりした様子で話す。
「この作戦は敵国への破壊工作だ、ユースティアが関わっているとバレてはいけない。そこでMTの認識コードを誤魔化す装置を国が開発したが五つしかない上に艦には組み込めないらしい。」
全員が黙り込む、この規格外戦車に五人で艦の支援も無しにしかも一時間で終わらせなければならない。
「この作戦が難しいのは俺でも分かる。だがこれがいつ戦闘になるかわからないガスアに渡される前に少しでも情報を得たいし出来れば破壊したい。これによって未来が変わるかも知れない、質問が無ければこの場は解散とする。」
こうして五機だけの機密作戦が決定された。
そうして来るであろう巨大戦車を待つ事三日、未だ現れていない
そんな中でもユーリは一人集中する。
皆に言った通りこの作戦で国の未来が変わるかも知れないかと思うとかなり気が重い。
それでも誰かがやらなければならないのであれば。
(誰かに任せるよりは気が楽かな。)
ティナの自己啓発教室のおかげか、この状況を少し前向きに考えユーリはひたすら目標が来るのを待っていた。
作戦開始まで二時間ほど前の話であった。
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