第27話 まずは一歩、ここから

 ガンホリック砦を落としたユースティア軍は一部の部隊を残しエリアBCDへと戻った。

 そのままガンホリック砦に全部隊を置くには損害が激しいためである。

 いずれは修復されアルガ公国侵攻の最前線となるだろう。

 そして皆が勝利に浮かれた日の夜、立役者の一人でもあるアヤは自室で目を閉じてある人物からの連絡を待っていた。

 やがて、通信が入った音がアヤの耳に入る。

 静かに目を開け一呼吸ついたのちに通信機に触れる。

 映像が映し出された先に姿を現したのはアヤの上官でもあり養母でもあるイザベラ・オデルであった。

 イザベラは笑みを浮かべ手を叩きながらアヤを褒める。

 「よくあのガンホリック砦を落とせたわね、養母としても鼻が高いわ。」

 「何故ですか、中将。」

 「何がかしら、アヤ?」

 いきなりの疑問にもイザベラは笑みを崩さないが、アヤの方は何処か悲しそうに聞く。

 「

 「……。」

 彼女の問いに笑みを浮かべたままのイザベラにアヤは言葉を更に重ねる。

 「あなたと敵対しているまたは気に入らない派閥の人間をアルガ公国から買った情報で先に知っていた新兵器の標的にする。それがこの作戦の本当の意味、あなたを警戒しているオーウェン少将の第三特務部隊もその標的の一部。だけれども私が乗っている艦には当たらないように言ってある、貴方はそう言いました。」

 アヤの追及にも笑みを崩さないイザベラにアヤの感情が爆発する。

 「けど!あれは!狙って外せるような!物では無かった!貴方は!私ごと全員を始末しようとした!」

 興奮のあまり一つ一つ区切って叫ぶアヤ、肩で呼吸し少し落ち着ける。

 「どうか理由をお答えしてもらいたい。」

 「そんなのに決まっているじゃない。」

 イザベラは笑みを浮かべたままアヤに残酷な宣言をする。

 「今回の件だけでなく貴方、私のやることに不満があるでしょう。それじゃ困るの私が欲しいのは。後釜も大分育ってきたしもう貴方は用済みなのよ。」

 イザベラの言葉に唇を噛むアヤ。

 「またあの孤児院ですか。」

 「当然よ、何のために汚いガキを好き好んで助けなくちゃいけないの?」

 最低の発言を当たり前のように吐きながらイザベラは笑みを崩さない。

 アヤにはその笑みが悪魔のものにしか見えなかった。

 「優秀なのは教育すればいいし、出来損ないはその手の人間に売ればいい。全くいい商売だわ。」

 「教育?洗脳の間違いでしょう。一問間違えただけで暴力を振るわれ、ひたすら貴方の言う事を聞くように一日中言われたあの地獄のような日々は。」

 「別に構わないでしょう?あのまま死ぬしかなかった貴方たちに命を与えたのは私、だったらどう扱おうが私の自由でしょ?」

 自分の言葉が正しいと信じて疑わない様子のイザベラ。

 アヤは彼女の良心を信じてお願いする。

 「…お願いします中将、出頭してください。今回の件は中将が手を引いていた事がいずれバレます。」

 「ああ、大丈夫よ。私するから。」

 突然の発言にアヤの表情が固まる。

 「ユースティアも締め付けが強くなってきたからいっそのことガスアに亡命した方が楽できるだろうし、手土産にユースティアの重要情報渡せばいい地位につけるでしょうし。」

 「貴方には、軍人の誇りは無いのですか!?」

 「そんなもの、あるわけないじゃない。」

 アヤの問いかけを残酷に両断するイザベラ。

 「私のような優秀な人間が好き好んで軍人になると思ったかしら?ただ単に無能な人間をこき使えるからしていただけよ。」

 「…私を養子にしたのは。」

 「ただ単に話題作り、その時一番優秀だったのがあなただった。それだけよ。もういいかしら、そろそろ出発しなくちゃいけないの。安心して今回糸を引いていたのは貴方ということにしといてあげるから、最後に私の役に立てたこと光栄に思って尋問受けてね、私のアヤ。」

 言うだけ言って通信を切ろうとするイザベラであったが、突如アヤが笑い出す。

 「?気でも狂ったの?」

 「いえ、本当にで安心しました中将。」

 「?どう言う意味かしら?」

 「ああ、礼を言うのがまだでしたね。に付き合って貰ってありがとうございます。」

 「さっきから何を…」

 すべてを言い切る前に突如、イザベラの後ろにあった扉が開かれ数人の兵が入ってくる。

 「な、何なの!貴方たち!?」

 ようやく笑みを引っ込め驚きが占めた顔になるイザベラ。

 そして兵の中から割って出てきたのはスコットであった。

 「イザベラ・オデル中将、敵国に情報を売り渡した国家反逆罪。および横領、孤児院を使っての人身売買など十数件の罪の嫌疑がかけられている。一緒に来てもらおう!」

 「!?そ、そんな出任せどこから!?」

 「当然、私ですよ中将。」

 イザベラの疑問にアヤが答える。

 「私がただ単に言う事を聞くだけだと思いましたか?中将がした全ての行いを証拠付きで諜報部に渡しました。」

 「そ、そんな!諜報部との連絡は裏から手を回して出来なくしたはず!どうやって!?」

 「私がどの艦に乗っていたか、お忘れですか?」

 「こ、この!?」

 兵二人がイザベラの肩を抑え連行しようとするがイザベラは抵抗する。

 「こんな事をして!お前もタダで済まないわよ!?」

 「当然、私も出頭します。いかなる罪も受け入れるつもりです。ただし、あなたにも罪の清算をしてもらいます。イザベラ・オデル。」

 やがて、本格的に連行されていくイザベラ。

 通信機では聞こえなくなるまで自分の罪を認めなかった。


 「終わったようだな。」

 アヤが全てを終え、部屋から出てくるとユーリが待ち構えていた。

 「はい、オーウェン少将のとの連絡を取り持ってくれた少尉のおかげです。」

 そう言って頭を下げるアヤにユーリは苦笑する。

 「よしてくれ、こっちは非常用の通信を教えただけだ。」

 「…一つよろしいですか?」

 「答えられる事なら。」

 「何故私を信用してくれたのですか?」

 アヤは真っ直ぐな目でユーリを見つめる。

 「少尉の部屋を訪ねた時、すでに私が関わっていた事は感づいていた事と思います。」

 「まぁ、薄々は。」

 「そんな状況で、何故私を信じる気になったのか。できれば教えてください。」

 アヤを迎えに兵が来ているが、気を利かせてくれるのか通路の先で待ってくれている。

 ユーリは一息入れるとポツポツと喋る。

 「似てると思ったからかな。」

 「似てる?少尉と私が、ですか?」

 コクリと頷くユーリは言葉を続ける。

 「MTで活躍するしか生きる道が無かった俺と、あの女の言う通りでしか生きる道が無かった大尉。似てる気がしたから力を貸す気になった。それだけだ。」

 「…そうかも知れませんね。」

 フッと柔らかな美しい笑みを浮かべるアヤ。

 彼女の笑みを見るのは初めてだったな思うユーリに迎えの兵が声を掛ける。

 「すみません、そろそろ。」

 「そうですね、行きましょう。」

 兵に連れられ歩き出すアヤ、この後軍法会議に掛けられるためエリンに連れていかれる。

 彼女の罪がどうなるにしても今後会えることはそうはないだろう。

 しばらく歩いたところでふとアヤの足が止まる。

 「少尉、その…。…いえ、なんでもありません。」

 何かを言いかけたアヤであったがそれを引っ込め再び歩き出そうとする。

 「大尉。」

 今度はユーリがアヤに声を掛ける。

 「

 その言葉に驚いた顔をするアヤだったが、やがて笑顔になっていき。

 「ええ、。」

 そう言うと今度は足を止めずに去っていった。


 後の話となるがイザベラ・オデルはその後、アヤに嵌められたと主張するが極刑が確定。

 そしてアヤの方は今回ガンホリック砦を攻略した功績や自ら罪を認め出頭した事、そしてガンホリック砦攻略に参加した者達からの減刑の嘆願書などから。監視が付くとはいえ降格も一階級という軽いものであった。

 その後、オデル姓からアルヴィー姓と変え戦場を転々とし優秀な作戦にて勝利を収める。

 ユーリとアヤの運命の線が再び交わるのは、まだ先の話である。

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