第26話 ひと先ずの決着

 ガンホリック砦を巡る戦闘においてそこだけが異様であった。

 数多のMTがひしめき合う中でそこには二機のMTのみであったからだ。

 その二機とはカーミラのブラッディ・ローズとユーリのファフニール・アサルト。

 まるで演舞を踊っているかのような激しい戦いに誰もが近づけないでいた。

 たまに近づいていったものもいるが、いずれも流れ弾などに当たり散っていった。

 「やっぱりいい!凄く!貴方はいい!」

 「主語入れて話せ!」

 こんな会話をしながら一体どれだけの時間が経ったであろうか。

 カーミラはひたすらに接近し、大剣で切りつけてくる。

 ライフルは先ほどマガジンが切れたタイミングでビームサーベルにて切断された。

 一方のユーリもミサイルは品切れとなりミサイルラックをパージしている。

 離れて戦おうにも当然それを許すような相手でもなく、激しい接近戦が繰り広げられていた。

 「アイギス!状況は!?」

 《友軍、最終防衛ラインまで突破しましたが敵の新兵器攻略までには至っていません。》

 ユーリは内心舌打ちする。

 友軍に対してではなくこの状況を打開出来ない自分に対してである。

 味方が頑張って攻めている間、この場で足止めを喰らっているのだから情けない事この上なかった。

 実際は戦闘力のあるカーミラを抑えられているのだから十分ともいえるのだが。

 (全員、頼んだぞ。)

 迫ってくる大剣を捌きながらユーリは送り出したメンバーに祈っていた。


 「状況は!どうなっている!」

 「現在敵は最終防衛ラインに進行中!突破されるのも時間の問題です!」

 ガンホリック砦の司令官は追い込まれていた。

 動揺し初手が遅れた事もあり敵は最終防衛ラインにまで侵攻している。

 MT部隊が頑張っているが勢いのあるユースティアに押されている。

 そう遅くない時に最終防衛ラインも突破され司令部、そしてグスタフXに攻撃が加えられるだろう。

 「傭兵は!カーミラ・エッツオは何をしている!」

 「敵のMTと交戦中とのことですが、こちらからの通信は切っている模様です。」

 「っ!こんな時に!」

 副官がカーミラに指示を飛ばそうとするがそれも出来ずに歯噛みする。

 司令官は元から当てにしていないのかその報告を気にしせず次の確認を取る。

 「グスタフXのチャージは!」

 「現在30%ほど完了しました!」

 「よし!発射準備に入れ!」

 「!?しかし30%では敵艦隊まで届きません!」

 副官が決定に意見するが司令官は首を横に振る。

 「それまで待っていてはここが落とされる!ならばMTだけでも破壊して状況を打破する!」

 「…了解!グスタフX、発射準備!!」

 司令官の意図を理解した副官はすぐさま発射準備を始めさせる。

 (見ていろユースティア!例えここが落ちようとアルガ軍人の意地、見せてやるぞ!)

 

 その頃、ユーリのいないドラクル小隊はガンホリック砦の最終防衛ライン攻略の最前線にいた。

 戦闘中でバラバラになってしまったが、ティナとドロシーは合流していた。

 ティナ機がガトリング砲の弾丸を撒き、それを掻い潜ったMTはドロシー機が的確に撃破していった。

 だが、それでも。

 「ダメ!まだ近づけない!!」

 少し穴を空けたかと思えばすぐに別のMT達がその穴を塞ぎに掛かる。

 確実に減らしているはずだが、突破は未だ出来ずにいた。

 「!ハミルトン!」

 ドロシーの声に反応すると、高エーテル反応を示すアラームが鳴り響く。

 敵の奥を見てみると敵の新兵器からエーテルが溢れ出ようとしている。

 「っ!間に合わなかった!?」

 「いや、まだ。」

 悲観的になるティナだが、ドロシーがそれを否定する。

 「見て、巻き添えを喰らわないよう防衛線が薄くなってる。今なら私でも突破できる。」

 「けど!帰ってこれないかも!」

 当然失敗すれば死は免れないだろう。

 ティナが心配そうにするがドロシーはそれを無視する。

 「今からデータ送るからこのポイントに弾を集中させて、そうすれば突破できるだけの穴があくはず。」

 「けど!」

 「ドラクル4!!軍人として今やるべき事を考えなさい!」

 「っ!?」

 ここで発射を許せばユースティアは多大な被害を受ける事になるだろう。

 そうすればこの作戦は失敗という事にもなりかねない。

 唇を強く噛みしめるティナだがやがて指定されたポイントに向けガトリングを発射する。

 敵MTが弾に当たり爆散するが、すぐさまその穴をふさごうと他のMTがその穴を塞ぎに掛かるが。

 「!今。」

 別の穴が開きすぐさまドロシーはそこに突撃する。

 追ってはこないが今にも発射されそうな新兵器に向かう。

 司令部を潰しても発射は止められないとの判断だ。

 すぐさまバヨネット・ハンドガンを乱射するが、傷こそ付くが致命打にはなりそうにもない。

 コックピット内でアラーム音が強くなる、発射されるのも時間の問題であろう。

 「けど!まだ!」

 発射口にファフニールの腕ごとバヨネット・ハンドガンを押し込み発射する。

 そしてそのまま腕の操作を固定しパージして、全力で上空に上がる。

 やがて内部に大爆発が起き、敵司令部ごと新兵器グスタフXは爆音と共にその姿を消した。


 《少尉、敵司令部は爆発に巻き込まれた模様。敵軍、降伏の意思を示している模様です。》

 「了解アイギス、でどうするよ。カーミラ・エッツオ。」

 「そうね、ローズもこんな調子だし。今回は素直に引かせて貰うわ。」

 ユーリの問いかけに撤退の意思を示すカーミラ。

 彼女のMTブラッディ・ローズは左足と左腕が切られていた。

 爆発の一瞬の隙を狙われ、コンゴウによって断ち切られたのである。

 ユーリとしてもかなりファフニールに傷がついており、体力も消耗しているので撤退するのなら追う気はなかった。

 「それじゃね王子様、また楽しい戦いしましょうね。」

 そう言い残し、カーミラは消えていった。

 「は~、変なのに目を付けられてしまった。」

 《おモテになって良かったのでは?》

 「嫌味か貴様。」

 そのような事を話してるうちに小隊メンバーが集まってきた。

 ドロシーはティナに引っ付かれて大変そうであったが、全員損傷が大小あるが無事のようだ。

 やがてオリビアから通信が入り、エーデルワイスも無事だと判明。

 無事勝利し祝福ムードが流れる中でアヤとユーリの顔はスッキリはしていなかった。

 ((後は彼女『私』の戦いだけ。))

 ガンホリック砦の攻略戦は無事ユースティアの勝利に終わった。

 だが、この一連の完全な決着がついてはいない。

 それをつけるための準備をするためアヤは一人、エーデルワイスのブリッジを離れるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る