第22話 飲み込む光
あの会話から三日後、ガンホリック砦攻略に参加する全艦二十隻が集結。
ユーリ達が偵察し全軍での進撃によるMTの電撃作戦によって制圧する。
というあまりに簡単な作戦説明が行われた。
この決定に不満を言う者もいたがこの作戦責任者であるアベル中将による決定であると説明されると押し黙った。
そしてその翌日エリアBCDから出撃した艦隊はガンホリック砦に向け進軍、ユーリはドロシーを連れ偵察を行っていた。
《こちらドラクル5、監視塔がいくつか見えますがそれ以外に反応なし。》
「こちらドラクル1、こちらにも変わった反応は無い。」
偵察を行ってアルガの領土に入ってから数十分、監視塔がある以外はなにも無かった。
「何かがおかしい。」
《おかしいですね。》
《私もそう思います。》
ユーリとドロシー、そしてアイギスまでもが同じ結論に達していた。
「何もなさすぎる。」
《監視塔で敵機が入り込んでいるのは分かっているはずなのにMTどころかミサイル一発飛んで来ないなんて。》
そうここはユースティア軍であるユーリ達にとって敵地である。
そうだと言うのにドロシーの言う通りアルガのMTが防衛に来る様子もなく、ミサイルはおろか機銃の一発もユーリ達に向けて撃たれていない。
《…ここを捨てた可能性は。》
《無いと思われますワグナー二等軍曹。》
ドロシーの遠慮がちな質問にアイギスが即答する。
《ガンホリック砦はアルガ公国の首都に近く防衛の要所です。他に防衛の拠点になれる基地も無くアルガ公国のユースティア王国に対する防衛においてこの地ほどの要所は無いはずです。》
自分でも無いと思っていたのであろうアイギスの説明が終わってもドロシーは何も言わなかった。
「という事はこの先に罠が待っているか。」
《…例の新兵器に余程の自信を持っているか。》
そもそも自分たちがここにいるのは例の地に新兵器が運ばれたからだ。
その新兵器に自信を持ち我々を待ち構えているとしたら。
《苦戦は免れませんね。》
アイギスが皆が思っていたことを代表して言う。
そのような事を話あっているとエーデルワイスから通信が入る。
《ドラクル1、全艦アルガ公国の国境に入った模様です。》
「ドラクル1了解、こちらもそろそろ目標が…!」
それは経験に基づいたものだったのか、それとも何らかの予感だったのかそれはユーリ本人にも分からなかった。
が、この感覚には身に覚えがあった。
少年兵時代に何度でも、そしてつい最近のペンドラゴンでもこの感覚は忘れそうにない。
戦場にいるならば嫌でも誰もが一度は感じたことがあるかも知れない背筋が凍るような濃厚な、
死の感覚
それを理解すると同時にユーリはドロシーとこの作戦に参加してるユースティアの全艦に緊急の通信を繋ぐ。
「とにかく避けろ!!」
と同時に自身も右にファフニールを大きく傾ける。
ドロシーも意味は理解できなかったがユーリにならう。
すると大きな光が迫ってきた。
それはそれ以外に言いようが無かった、とにかく大きな光がユーリとドロシーのファフニールの傍を通った。
光が収まり目が慣れ、後ろを確認する。
艦隊の塊の中を大きな光が串刺しにする。
大半はユーリの警告を聞き躱せたようだが聞かなかったのか躱せなかったのかどちらかは分からなかったが何艦か光の中に消えた。
「っアイギス、今のは!?」
《高密度のエーテルビーム砲のようです。恐らく射程距離は国境程だと思われます。》
アイギスの報告に思わずユーリは唇を噛む。
おそらく今のがアルガの新兵器なのだろう、事前に知っていれば対処ができただろうに。
《ドラクル1、エーデルワイスとの通信が取れました。無事のようです。》
ドロシーの報告に内心安心してエーデルワイスとの連絡を取る。
「エーデルワイスこちらドラクル1、被害状況は?」
《こちらエーデルワイス、急な回避運動でケガをおった者が数十名いますが死者は無し船体に損傷もありません!》
「…他の艦は。」
《…巡洋艦二隻、戦艦一隻の轟沈が確認。他の艦も被害があるようですが情報は錯そうしています。》
「……そうか。」
ユーリはそれから数秒黙っていた。
自分の性と思っているわけではない。
自分の行いですべての人が救えるなどと、そこまでユーリの自尊心は高くない。
だがもっと上手くいく方法は無かったのかとただユーリは思っていた。
「…とにかく損傷した艦は下がらせて残った艦で突撃を敢行すべきだ、作戦指揮官に通信を。」
《…いえ、全軍撤退ですアカバ少尉。》
オリビアの声ではなくアヤの声が通信から聞こえた。
彼女もエーデルワイスにいるのだから声が聞こえるのは問題ない、問題は。
「正気か、指揮官。」
ユーリの声が思わず低くなる。
《被害を受けている艦がある以上、作戦の決行は不可能です。》
「そしてまた艦隊集めてあの砲撃を食らう気か?あれだけの砲撃ならエーテルのチャージにも時間が掛かる!今の内に叩くべきだ!」
《それは貴方の憶測でしょう!なんの確信もない推論で死者を増やすわけにはいきません!》
通信で激しく言い争うユーリとアヤ、どちらも引く気はないらしい。
「っ!!、その情報を集められなかったのは誰の性だと思っている!」
「っ!!あれは…!」
ユーリの追及に言葉を詰まらせるアヤ、それからしばらくの間沈黙が続いたが先ほどとは違い小さく細い声でアヤは言った。
《…お願いです少尉、もうこれ以上は…。》
「……っち、分かったよ。」
アヤの懇願でユーリが折れ、ドロシーに撤退の合図を出す。
こうしてガンホリック砦の攻略戦は失敗となる。
ユーリはエーデルワイスの自室で休んでいた。
基地内にも部屋はあるが空気が悪くエーデルワイスに逃げてきた。
理由はもちろん例の作戦の責任追及でだ。
結局轟沈三隻、中破四隻、小破二隻という損害をユースティアは受けた。
ユーリのおかげで被害は減らせたが砦にまったく損害を与えられていない以上一方的な敗戦であった。
イザベラ中将に文句を言おうにも彼女は基地内にもおらず通信も繋がらないのですべての怒りはアヤ・オデルに向けられた。
ありとあらゆる怒りの声がアヤを責める。
彼女はただ俯き肩を震わすだけで何も言わなかった。
今にもリンチが始まりそうな空気を抑えたのは他でもないユーリであった。
「今は彼女を責めている場合ではない!あの砲撃をどう攻略すべきかそれをまず話し合うべきだ!」
作戦の中止の決定はおりていない、つまりあの砲撃をかいくぐりガンホリック砦を落とさなければならないのだ。
被害を少なくした立役者に言われて場の熱が冷めたのか皆が静まる。
「今日はもう遅い、日を改めて作戦を練り直そう。」
静かになったタイミングを見逃さずユーリはこの場を解散させる。
なにか言いたげな者もいたが結局は何も言わずこの場を去っていった。
そして最後に残ったアヤもユーリにわずかに頭を下げ、おぼつかない様子で去ってゆく。
そろそろ寝ようとユーリが思っていると、控えめなノックがした。
モニターで確認してみるとそこには意外な人物であった。
開けるかどうかユーリは迷いながらも結局ドアを開けた。
ドアが開くとフラフラとその人物は部屋に入って来た。
顔は俯いているため分からないが雰囲気的に楽しい話題をしに来た訳ではないだろう。
客人を椅子に座らせコーヒーをいれながらユーリは思う。
(前にも似たような事があったな。)
ティナとの事を思い出しため息をつく。
(人生相談所じゃないんだけどな。)
出来たコーヒーを客人に手渡すと受け取るが飲もうとはせず、ただコーヒーを俯いた顔で見ていた。
相手が喋りだすのを待ってもいいがなかなか話題を切り出さない客人に対しついにユーリが切り込む。
「で、今回はなんの御用ですか。アヤ・オデル大尉?」
客人、いやアヤは肩をビクッと震わせると決意を決めたようにユーリを見る。
その目はどこか救いを求めているようにも見えた。
「お話があります。ユーリ・アカバ少尉。」
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