第23話 戦いの狼煙-アルガside-

 ―数日後、アルガ公国 ガンホリック砦内

 「ユースティアの奴らはまだ動きは無しか?」

 ガンホリック砦の司令官であるこの男はイライラしながら副官に聞く。

 「はい、エリアBCD内で機会を窺っているいるようで。」

 副官の答えに司令官は大きく鼻で笑う。

 「物わかりの悪い奴らだ。」

 彼の目の前には大きな砲がユースティア側に向けて備えられていた。

 「この【グスタフX】の前ではユースティアなど敵ではない!」

 アルガ公国が威信を掛け造り上げた超長距離エーテル砲、グスタフX。

 力を付けアルガ公国を狙ってくるユースティアに対しつい最近完成させたこの砲はここからユースティアの国境ギリギリまで届く。

 大量のエーテルを使用する事と装填には時間が掛かる事が問題だがその弱点を余りある威力と射撃距離を持つグスタフXにこの司令官は絶対の自信を見せていた。

 「ところで、この数日監視塔からの連絡が途絶えていますがよろしいのですか。」

 副官が心配そうに聞くが司令官はそれも鼻で笑う。

 「構わん、ユースティアの嫌がらせだろう無視だ無視。」

 「しかし、いざという時。」

 は~、とため息をつきながら副官の肩に手を置き至近距離で話す。

 「例え監視塔が無くてもこちらには長距離レーダーがある。奴らがそれに引っかかったが最後、グスタフXの餌食だ。」

 肩から手を外し再びグスタフXを見つめる司令官、が突如クククと笑い出す。

 どうしたのかと副官が思っていると副官の方に顔を向ける。

 「いやなあに、今攻めているユースティアの兵どもが哀れでな。」

 哀れと言いながらも司令官の口角は未だに上がっている。

 「ああ、ですか。」

 「そうだ、まさかユースティアもなどとは夢にも思わんだろうな。」

 二人の不穏な会話は司令官がある事を思い出したことにより終わる。

 「ところで例の傭兵はまだいるのか?」

 「ええ、ユースティアが完全に撤退するまでは居させてもらう…と。」

 副官の答えに司令官は顔をしかめる。

 あきらかに傭兵の事を良く思ってはいなさそうだ。

 「フン、待機中の料金は取らないからユースティアが攻めてきたら雇って欲しいというから置いてやってるが、何を考えているか分からん奴だ。」

 そこまで言うと三度グスタフXを見つめる司令官。

 「まあいい、このグスタフXがある限り奴の出番はない!天下を統べるのはユースティアでもガスアでもない我らアルガ公国である。」

 彼が言い切った時、施設内に緊急時の音が鳴り響く。

 「どうした!」

 「レーダーに感有り!ユースティア艦のようです!」

 兵の報告に思わずニヤッと顔をゆがませる司令官。

 「数は!」

 「現在五隻ですが続々と来ています!」

 レーダーの画面が正面に映し出される確かに続々と反応が増えてきている。

 「グスタフXの準備は!」

 「エーテル充填率100%!いつでも撃てます!」

 「よしグスタフX、発射準備!」

 司令官がそう言うと周りが発射に向けあわただしくなる。

 「ユースティアめ、一度では懲りんのならもう一度味わうがいい。今度は三隻などという被害では済まさん。」

 そう司令官が呟いている間に準備が完了したらしい。

 「最終セーフティー解除確認、では司令官お願いします。」

 副官のその言葉に頷くと首から掛けていたカギを差し込む。

 「グスタフX、発射!」

 カギを回すと同時にまばゆい光が轟音と共に辺りを包む。

 それが十数秒間続きやがて周りが見えてくるようになる。

 「フフ、いつ見ても素晴らしい威力だ。さて今度は何隻沈めた?」

 レーダーを見ている兵に問うが、返事が返ってこない。

 「どうした!早く報告しろ!」

 副官が厳しく問うが返ってくるのは、

 「て、て、」

 と言った言葉になっていないものだった。

 「て、では分からん!いい、メインスクリーンにまわせ!」

 レーダー担当の兵が震える手でメインスクリーンを映すとそこには、であった。

 むしろ時がたち増えてすらいた。

 「な、なん、だと。」

 他に司令官は言葉が出なかった。

 他の者も同じようで信じられないものを見ているようであった。

 「いっ、一体どう言う事だ!」

 ようやく司令官が動き出す。

 「確かにエーテルは充填されていたのだろうな!」

 「間違いありません!充填率、発射角度いずれも問題ありません!」

 「て、敵が何らかの工作を行ったのでは!」

 「そんな事を画策すれば奴から連絡がくるはずだ!」

 「ならば一体敵はどうやったというのだ!?」

 ガンホリック砦の司令部は混乱を極めていた。

 次々と仮定が出され次々と否定されていった。

 そうこうしている内に敵の艦隊が目視できる範囲にまで入ってきていた。

 「ユースティア軍、MT部隊を展開!こちらに仕掛けてくるようです!」

 「っ!こちらもMTを出せ!次の発射まで持たせるんだ!」

 兵の報告に司令官の緊迫した声が響く。

 グスタフXはエーテルを充填するのにかなりの時間が掛かるがこちらにもかなりのMTは配備されている。

 なんとか次の発射まで時間を稼げばこちらにも勝機はある。

 「例の傭兵も出せ!いるからには働いて貰う!」

 副官に命令を飛ばし終えると司令官はユースティアが来るであろう方向を見る。

 それは先ほど彼がグスタフXを見つめていたのと同じ方向であったが彼の目にはすでにグスタフXは見ていなかった。

 「奴らめ、この短期間で一体どんな手品を用意したんだ。」


 アルガ公国の切り札であるグスタフXは不発に終わった。

 ガンホリック砦を巡る戦いの火ぶたは今切られた。

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