第21話 アヤ・オデル
ガンホリック砦、それはユースティアと敵対しているアルガ公国の砦であり唯一ユースティア王国とアルガ公国との国境に接している砦でもある。
そのガンホリック砦にて新兵器が導入された、との情報が入る。
その新兵器の情報を集める為にユーリ達はガンホリック砦に向かっていた。
ーのだが。
「暇だな…」
エーデルワイスの食堂でアドルファスがぼやく。
近くに座っていたドロシーが睨むが反論はしない。
ユーリ達がいるのはガンホリック砦にユースティアで最も近い基地であるエリアBCD。
ここにユースティア達は一週間ここで足止めをされていた。
それというのも。
「しっかし何考えてんだ、あのオデルていう大尉どのはよお。」
聞いているのか一人ぼやいているのか分からないがドロシーもその辺は疑問であった。
急遽発足されたガンホリック砦攻略部隊、その作戦指揮官はアヤ・オデルであった。
本来大尉であるアヤに作戦指揮をするだけの権限は無いはずだがおそらく中将であるイザベラ・オデルが何らかの手を回したのであろう。
とにかく作戦指揮官に任命されているアヤによって攻略部隊に組み込まれたエーデルワイスは待機を命じられ今にいたる。
急遽攻略部隊が発足された事といい、それにエーデルワイスが組み込まれた事といいこの一件には不可解な事が多すぎる。
「そもそも一体何者なんだよあのオデルていう大尉殿は?」
ドロシーが思考を巡らせているとアドルファスが明確にこちらに質問してきた。
面倒とは思いながらも一旦彼女について情報を整理するのもいいかも知れないと思い答えようとするといつの間にかやってきたテリーが答える。
「アヤ・オデル、イザベラ・オデル中将の養女であり士官学校を首席で卒業した才女。その後も彼女が指揮する艦は勝ち続け瞬く間に大尉になったようだよ。」
「なるほど。で、その中将さんはどんな人なんだ?」
再びアドルファスが質問してきたので今度こそ答えようとするドロシーだが今度はティナが割って入る。
「オデル中将はね軍人である前に慈善家として知られているね!無償の孤児院を立てたりしてね!でも軍人としても優秀で敵の作戦をいち早く察する事が出来るんだって!」
言いたい事をほとんど言われ静かにふてくされるドロシーを置いてき話は進む。
「で、なんでそんな人らがこんな作戦を立てるわけ。」
「そこだよね、エリンの軍部に勤めている友人に聞いたけど上層部でもかなり急に決まったらしいよ。オデル中将の強い押しで。」
「中将が何か公国の作戦を察知したにしてもそんなに急に決まる事ってあるのかな?」
そんな三人の会話を捉えながらドロシーは一人思考を巡らせる。
(急に決まった作戦、そしてこのタイミング。考えらる理由が一つあるけど。)
それを決定付けるには証拠が足りなすぎる、それになにより。
(もし本当にそんな理由だったとしたら軍人としてというより人として恐怖を覚える。)
オデル中将の今までの功績を考えればそんな理由でこんな作戦を取るとは思えない。
自分の考えすぎだと思い自分の考えを振り払うドロシーは未だ続いていた三人の会話に耳を再び傾ける。
「オーウェン少将の何て言って来てんだ?俺たち諜報部の直轄なわけなんだしなんか情報とかあるんじゃないのか。」
「ううん。ノア艦長や隊長が問い合わせてみたけど少将と繋がらないんだって!」
「単に忙しいのかそれともこの件に関われないのか、いずれにしても今回少将を当てには出来そうもないね。」
少将と連絡が取れない、その事実が振り払ったはずの仮説が再び蘇り不安となるドロシー。
もし自分の仮設が正しいのであればガンホリック砦ではおそらく落ちないであろう。
「そういえば隊長は?朝から見かけてないけど?」
「隊長なら艦長と一緒に例の大尉殿の所にいくって言ってたぜ。」
「また今回の件の苦情を言いに行ったんだと思うけど…、またなしのつぶてだろうね。」
今まで何度か今回の件について苦情や説明を求めたがすべて、
「上層部で決まった事ですので。」
の一言で終わらせられるらしい。
だがドロシーは少しでもユーリが彼女から情報を聞き出す事を期待する。
この不遜とも言える仮説を消すために。
「何度来られても私から説明できる事は以上です。」
エリアBCDに設けられた一室、そこでユーリとノアそしてアヤは話あっていたが得ることは結局何一つ無かった。
「そう言われてもこちらもそうですかといかない。直属の上からの任務がある。」
「軍の任務が急に変更される事など多々あるでしょう。それにその直属の上よりさらに上からの命令系統なのです、何もおかしな事ではないでしょう。」
ノアがどのように言ってもアヤは毅然とした態度を崩さない。
階級からいえばノアの方が上だというのにその辺は流石だなとユーリは思っていた。
「こちらの信用が足りないというのならこうしましょう。」
こちらの長い追及に焦れたのかアヤはある提案をしてきた。
「今より三日後作戦に参加する全ての艦が集結します。その翌日ヒトヨンマルマルにて作戦を開始しますがこの作戦の旗艦をエーデルワイスとし私も乗船します。」
アヤの思わぬ申し出にノアとユーリは戸惑う。
「自分を人質する…ということですか?」
「そうです。これ以上の信頼を示せる物は無いと思いますが。」
ユーリの言葉に頷くアヤ。
確かに彼女を手元に置いておけばイザベラ中将が何をしようとしていてもいの一番に知ることができるし対処が出来るだろう。
「そう言うことを言っているのでは…!」
「待ってくれ艦長。」
ノアが言い募るのを止めたのは他らなぬユーリであった。
「その件お受けしよう。」
「少尉!」
「正しこちらからも申し入れがある。その当日に偵察に出るのはうちの小隊にしてほしい。」
「……」
ユーリの提案をアヤは黙って聞いていた。
「別に作戦を歪める訳じゃない、こちらは当初の目的である偵察ができるしそちらの作戦の決行に問題は無い。」
「…分かりましたではその方向で調整します。」
「では今日はこれにて、行こうか艦長。」
ノアは納得していない様子であったがこれ以上は何も得られないとユーリに耳打ちされしぶしぶながらも退室する。
ユーリもそれに続き退室しようと扉の前に移動した時、何か思い出したように足を止める。
「…オデル大尉。これは戯言だと受け流してくれて構わないんだが。」
「何でしょう。」
「あまり自分を追い詰めない方がいい。もう少し自由に生きてもいいと思うぞ。」
「えっ?」
ユーリの言葉にアヤは一瞬驚くが、すぐさま平静な顔に戻る。
「…どう言う意味かは分かりかねますが、ご忠告感謝します。」
「…そうですか、ではこれにて。」
そう言うとユーリは退室して扉をしめた。
コツコツと足音が離れるのを確認してからアヤは息を吐く。
「ここまでは予定通り。あとは全艦が集結するのを待つだけ。」
アヤは机に置かれた写真を見る。
そこには自分と孤児院の仲間たち、そして養母であるイザベラの姿が写っていた。
それを見ながらユーリに言われた言葉が頭の中で繰り返される。
「自由…か。そんなもの等の昔に私には無いですよ少尉。」
そう言葉にすると自然とアヤの目から涙が出てきた。
「ごめんなさい少尉!、ごめんなさい皆さん!」
アヤの謝罪は彼女以外誰もいない部屋に溶けていった。
様々な思いが交錯する中、ガンホリック砦攻略戦が始まろうとしていた。
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