第19話 残されたもの

 ーエーデルワイス 格納庫

 「っっっやったー----!!」

 「…うるさい。」

 天井に腕を突き上げ大声で喜びを表すティナに小さく突っ込むドロシーだが彼女の顔にも笑みが乗っている。

 一進一退の攻防を制し勝利を収めたユーリを称える声が艦の至る所から聞こえる。

 「さっすがだな、うちの隊長は。」

 「そうだねコックス曹長。ん?おやっさんはなんだか不機嫌ですね。」

 同じく隊長の勝利に喜びを感じていたアドルファスとテリーであるが、近くにいたおやっさんはどこか不満そうだ。

 「フン、折角調達したコンゴウを折りよって。修復にどれだけ時間が掛かるか分かったもんじゃねえ。」

 「…生き残っただけでも凄いと思うけど。」

 おやっさんの言葉にドロシーが反論する。

 ドロシーはこのおやっさんを苦手としているのでかなり珍しい事といえるだろう。

 そんなドロシーの言葉に、フンと鼻を鳴らすと小隊メンバーに言う。

 「そんな事は分かっとるわい!じゃがな優秀な兵士の条件て言うのは作戦を成功させる事じゃねぇ、生きて帰ってくる事が出来る奴が優秀なんじゃ。だからワシは生き残ることを当たり前じゃと思おとる。」

 おやっさんの持論をメンバーは黙って聞いていた。

 確かに作戦を成功させるのも重要であるが、生き残る事はもっと重要だろう。

 「ま、その点で言えば小僧はまだまだだか合格点ぐらいは出してもいいかも知れんがな!」

 ガハハと豪快な笑いを見せるおやっさんに場が和らぐ。

 そんなおやっさんの横でパメラは決闘の様子を映していた格納庫内のモニターをずっと見ていた。

 「?パメラさんどうしたの!」

 ティナがそれに気づき声を掛けると、ビクッと体を震わせて振り向くパメラ。

 「ええと、その…。」

 言いづらそうにモジモジしていたパメラだが、か細い声で語りだす。

 「やっぱりアカバ少尉、かっこいいなって思って。」

 「!…うん、そうだね!」

 パメラの言葉で心の奥で何か引っかかりを覚えるティナだが気にせず笑顔で答える。

 そんなティナの様子に気づかなかったのか、パメラは言葉を続ける。

 「はい、私とは全然違う。」

 「え?」

 突如暗くなったパメラは俯きながらも言葉を紡ぐ。

 「人望があって、優しくて、頼りがいがある。おじいちゃんの孫なのに何も残せていない私とは全然違うな…て。」

 「パメラさん…」

 「ご、ごめんなさい!いきなりこんな事言われても困りますよね!」

 アワアワと慌てて謝罪するパメラ。

 そんなパメラの様子に何か言わずにはいれなくなるティナは真剣な顔でパメラに語る。

 「知ってる?隊長って普段はとっても自虐的なんだよ!」

 「え、あっはい聞いています。」

 いきなりの会話に混乱しながらも答えるパメラ。

 ユーリが自虐的な事は艦の搭乗員ならほとんど知っている。

 それがどうしたのだろうとパメラが思いながらティナの話を聞く。

 「けどね!隊長は自分に自信が無くても、一生懸命いろんな仕事を頑張ってる!何故か分かる?」

 「い、いえ。」

 確かにどれだけ自虐的な事を言っても彼が仕事をしていないと言う話は聞いたことがない。

 「私の思い込みかも知れないけど、それはね。」

 「っなんで!」

 ティナが言うすんでの所でドロシーの大声が響く。

 パメラとティナが振り向くと、皆がモニターを見て驚いている。

 二人もモニターを見てみるとそこにはの姿であった。

 

 「チィ!」

 腕を切られながらも残された胸部機関砲で攻撃してきたランスロットⅡに対し、初動が遅れたユーリは何発か貰ってしまう。

 「アイギス!!」

 《各起動系問題なし、損害は軽微です。》

 アイギスの報告を聞いている間にもランスロットⅡは機関砲を乱発してくる。

 射程外にまで引きユーリはソラウスと通信を繋ぐ。

 「ゴードウィン大将!もう決着は「ついておらん!」」

 ユーリの言葉を遮り、ソラウスは吠えるように言う。

 「まだ!私の!命も!こいつも!力尽きておらん!、止めたくば!殺せ!」

 通信で見える限りコックピット内でも火花が散っており、いつ動けなくなってもおかしくないだろう。

 だが、それでもソラウスは機関砲を当てる為ユーリ機に近づく。

 《少尉、私には彼の行動が理解できません。》

 威力の低い機関砲ではファフニールを、ユーリを倒す事は出来ないことはソラウスにも重々分かっているはずである。

 アイギスにはソラウスが未だに抵抗する理由が分からなかった。

 「俺にも分からん、だが!」

 ユーリはファフニールの残されたビームサーベルを抜く。

 「向こうが止まらないなら、やるしかない!」

 そう言うとファフニールをランスロットⅡに向けて突撃させる。

 当然機関砲で迎え撃つソラウスだが、ファフニールの機動性について行けず接近を許す。

 コツンと展開していないビームサーベルがランスロットⅡのエーテル貯蔵部に当てられる。

 展開すればビームサーベルが貯蔵部を貫き、爆散するだろう。

 「どうした、やらんのか。」

 機関砲を撃つのを止めソラウスはユーリに語り掛ける。

 先ほどとは違い落ち着いた語り口である。

 「…さっきの問いの答えがまだだからな。」

 「おお、そうだった。して少尉の答えは?」

 場に似合わない穏やかな空気が二人の間に流れる。

 静かな語り口でユーリは自分の思いを語る。

 「確かに俺には主義も主義も、あんたみたいに誇りがあるわけじゃない。」

 ユーリは昔の事を思い出す。

 ただひたすら生きたいために言われた通りに人を殺していった日々を。

 「けど。」

 けれど、それでも。

 「そんな俺を信じてくれる人がいる。目標にした奴がいる。」

 スコットやライアン、ティナらの顔が脳裏に浮かぶ。

 (ほんと、短い間に増えてしまった事。)

 ユーリはそんな事を考え笑う。

 こんなMTを乗る事以外に取り柄がないような男には勿体ない事だと。

 「だったらその思いにこたえられるよう、やれる事をやる。それが今、俺がここに立っている理由ですよ。ゴードウィン大将。」

 「…そうか、…そうだったか…。」

 そう言ったのち黙っていたソラウスだが突如として笑い出す。

 「そうか!そうか!己が為でなく、誰かの為だったか!そんな事にも感づけないほど私は耄碌もうろくしていたか!」

 ソラウスの最後になるであろう笑いをユーリは黙って聞いていた。

 やがて笑い声が収まりソラウスはユーリに礼を言う。

 「ありがとうアカバ少尉、これで心置きなく逝ける。」

 ユーリは一瞬顔を歪め、手に力を籠め始める。

 「さらばだ、君に会えて良かった。ユースティアの若き英雄よ。」

 「…私もです。ペンドラゴンの獅子。」

 そう言うとユーリはビームサーベルを展開する。

 展開されたビームサーベルが装甲を貫きエーテル貯蔵部に直撃する。

 爆発に巻き込まれないようすぐさま引くファフニールの姿を見ながらソラウスは一人、友と息子に詫びる。

 (すまんアーサー、クラレント。後は頼む。)

 そう思いながらランスロットⅡは爆散した。

 ーソラウス・ゴードウィン ヴィヴィアン近郊にて戦死

 これにより完全にユースティアの勝利が決まったのである。


 あの決闘より二週間が経ったある日。

 ユーリはティナとある人物と共にある場所に来ていた。

 ヴィヴィアンよりほど近いオアシス。

 そこにある大きな石にはこう書かれていた。

 ソラウス・ゴードウィンここに眠る。

 そうユーリ達が行っていたのはソラウスの墓参りである。

 そしてある人物とは、ソラウスの息子であるクラレント・ゴードウィンである。

 「ソラウスさんは予測していたんですか?今回の事。」

 墓前であるためかいつもより声を小さくしてティナがクラレントに問う。

 「かなり運任せだったとは思うがね、そういう意味ではユースティアにも感謝している。」

 二人が話しているのは今後のペンドラゴンの処遇についてである。

 当初ユースティアはペンドラゴンを完全支配する計画であったが、決闘の様子を聞いた四世がは方向を転換。

 無理に締め付けるより融和策にでた。

 ペンドラゴンを特区に指定し独自の政策が取れるようになった。

 無論ピピン王の王位ははく奪され他にも様々な縛りが出てくるが比較的ユースティア側が譲歩した形となった。

 今も話し合いは続いているがユーリ達は明日エリンに戻る事が決まっていた。

 「ユースティアが、…俺が負けていても結末は基本終わりだったか。」

 ソラウスの墓を見ながらユーリが口を開く。

 ユーリの問いにクラレントは頷く。

 「カムランまで引いたユースティアに降伏し、交渉を有利にする。まったく我が親父ながらとことん運まかせな。」

 けど、とクラレントは墓を見ながら言う。

 「俺は親父に生きて欲しかった。」

 「!隊長は!」

 クラレントの言葉にティナが反応するが、ユーリが目線で止める。

 それに頭を下げるとクラレントは語る。

 「別に恨んで言っているんじゃない。こうなる事を望んだのは親父自身だ、それに泥は塗れない。」

 そこまで言うとクラレントは涙ぐみ目線を砂漠に向け肩を震わせる。

 「ただ、そう、ただ生きて欲しかった。もっと騎士として親子としていろんな事を教えて欲しかった、ただそれだけで。」

 そういうと後はただ泣くだけになったクラレントを二人は黙って見守っていた。


 その翌日、ユーリ達は予定通りエリンへ進路を取った。

 この先、どのような任務が待っているか分からないが、ここで教えてもらったことそして気づいた事をティナとユーリは忘れないようにしようと心に誓っていた。

 

 

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