第18話 獅子との決着

 エーデルワイスから出陣してから数分、ユーリはソラウスのMTランスロットⅡを目視にて捉えた。

 ランスを砂に差し、仁王立ちをする姿は威風堂々としており獅子の異名に相応しいと思えた。

 ユーリはゆっくりとランスロットⅡの目の前に着地する。

 舞い上がった砂で視界が悪くなるがやがて視界が晴れるまでお互い動かなかった。

 その後も静寂が辺りを包む、まず語り始めたのはソラウスであった。

 「いざこうして対峙すると何から話していいか分からんものだな。」

 これから決闘を行うとは思えないほどの優しい語り口であった。

 ユーリも聞きたいことはあるが一番の疑問を聞くことにした。

 「…何故こんな事を?」

 「…」

 「仮にあなたが勝てたとしてもユースティアは止まらない、侵攻が始まった時点でこちらの勝ちだ。」

 ユーリの発言は正しい、ユースティアは勝つべくして今回の侵攻を行っている。

 周辺諸国への根回しなどを徹底して行った政略的な勝利といえるだろう。

 「それに答える気はない。」

 「……」

 「こちらからも一ついいかな?」

 「…何でしょう。」

 ユーリからの了解を取るとソラウスは静かに質問する。

 「君は何故戦う?」

 「?質問の意味が分かりかねますが。」

 「君は少年兵で流されて戦場に立った、それは罪ではない。だが君は再びこの場所を選んだ。何が君をここに立たせた?主義も主張も持たなかった少年は何をもって人を殺す?教えてくれ。」

 「……俺は、」

 ソラウスの質問を黙って聞いていたユーリが答えようとした時。

 ゴーン、ゴーン

 と鐘の音がヴィヴィアンから響く。

 「残念ながら時間のようだ。」

 ランスロットⅡがランスを手に取り構える。

 ユーリも出しかけた言葉を飲み込みビームサーベルを手に取る。

 ペンドラゴンの決闘のやり方は武器を合わせた瞬間に始まる。

 お互いが歩みを進め距離を縮める。

 やがて互いの武器が届く範囲にまで近づくと、ソラウスはランスをユーリはビームサーベルを持ち上げる。

 やがてそれが徐々に近づいていき、重なった。

 その瞬間にユーリは全力で後退しランチャーを構えるが、逆にソラウスは前進しランスで突く。

 なんとか躱すユーリであったが、代償としてランチャーがランスの餌食になってしまった。

 「クソッ!焦り過ぎたか!」

 ソラウスが距離を取ると踏んでのランチャーだったが、結果として遠距離での攻撃が封じられてしまった。

 ランスロットⅡの兵装は確認できる限りはランスと胸部機関砲のみ、だが機関砲もあまり威力が無さそうで近づく時の支援用だろう。

 そうなると結果は一つ。

 「アイギス!接近戦になる!相手の行動予測を密に頼む!」

 《了解、少尉。》

 ビームサーベルを展開し、ランスロットⅡに接近するファフニール。

 決闘が始まってから一分ほど、激しい接近戦が始まった。


 決闘が始まってからいかほどの時間が経っただろうか。

 三十分か一時間か、それとも数分か。

 それを確認する余裕はユーリにはなかった。

 ファフニールの機動性を生かし、縦横無尽に飛び回りランスロットⅡに切りかかる。

 だが、ダメージは与えられているが致命傷となるダメージを与えられずにいた。

 切りつけるタイミングで絶妙に逸らされるのだ。

 アイギスの行動予測は的確に、そして素早くユーリに伝えられている。

 だがソラウスの積み重ねられた経験が致命傷をすんでの所で躱していた。

 そして少しでもユーリが隙を見せようものなら、凄まじい勢いでランスが突かれる。

 今のところ、かすりもせず躱せているがまともに当たれば致命打は間違いないだろう。

 相手の隙を決死の思いで切りつけ、必死の思いでこちらの隙を狙う相手の攻撃をかわす。

 針に糸を通すような行動の連続にユーリの精神は徐々に、しかし確実に擦り減ってゆく。

 そして今、ランスロットⅡに新たな隙が見えユーリは切り込む。

 《いけません、少尉。》

 その言葉の意味をユーリが理解する前に、ランスロットⅡの隙は消えていた。

 (!誘われた!)

 以前カーミラ・エッツオにした事を今度はユーリが受ける側になったらしい。

 そう考えている間にもランスが迫ってきている。

 (後退は間に合わない、なら!)

 ユーリは出力を上げ突進する。

 結果としてランスはそれ、致命傷を避ける事ができた。

 だが、すべては上手くはいかなかった。

 持っていたビームサーベルが宙に舞い砂漠に落ちる。

 火花が散っておりもう使い物にはなりそうにない。

 《回避お見事です、少尉。》

 「総合で言ったらマイナスもいい所だがな。」

 そう会話してるとランスロットⅡが突撃してくる。

 今までのカウンター狙いから一転して猛攻を仕掛ける気なんだろう。

 「ぶっつけ本番って本当に嫌いなんだけど!」

 そう言いながらユーリはコンゴウを鞘から抜き、構える。

 そして突進しながら突かれたランスの軌道を逸らし躱す。

 肩の装甲が少し持っていかれたが行動には支障はなさそうだ。

 ソラウスはユーリの横を通り過ぎるがすぐに反転、再びこちらに突撃してくる。

 「アイギス、向こうが突いてくるタイミングが予測できるか?、それに合わせて逸らす。」

 《可能です、少尉。》

 「よし、これからは向こうが焦れる時間だ。」


 攻守が交代して時間が経過し、日が沈みはじめ辺りがオレンジに染まってきた。

 状況は先ほどと変わり無かった、攻めるソラウスとそれを防ぐユーリ。

 だが、その詳細は徐々に変わりつつあった。

 初めの内はファフニールの装甲を削っていたランスが時が経つに連れ当たらなくなってきた。

 ユーリの発言通り焦れてきたのか少しずつ突きが単調になってゆき、回数を重ねるごとにアイギスの予測は精度を増していった。

 そしてユーリ自身の反応も最初の頃に比べて早くなっていった。

 (恐ろしい男だ。)

 ソラウスは一人コックピット内で思う。

 恐怖した最初にあった頃より、そして共闘した時よりも確実に強くなっている。

 このまま成長すれば、歴史に名を残すほどのMT乗りになるかもしれない。

 だが、彼には足りないものがある。

 質問の問いである主義、つまりは信念である。

 それが無い限り、彼に負けるわけにはいかないソラウスはそう思っていた。

 だが機体内に警告音が鳴り響く、機体のエーテル残量が残り少なくなってきたことを知らせる警告だ。

 突撃の連続がかなり響いていたらしい。

 ソラウスは一旦距離を取る。

 (次ですべてが終わる。)


 《敵、距離を取りました。》

 その言葉が言い終わる前に、ランスロットⅡはこちらにランスを構える。

 「次で最後にする気だな。」

 その言葉にアイギスは異論を出さなかった。

 我慢できなくなったか、そうせざるを得ない状況なのかは分からないがこちらとしても有り難かった。

 エーテル残量はまだ余裕はあるが、ユーリ自身の精神力が切れそうになっていた。

 「次で決めるぞ、アイギス。」

 《了解です、少尉。》


 再び静寂が二人を包む。

 それは二人の周りだけでなく、ユースティアの艦隊に乗っている者たちもヴィヴィアンにいる者たちも決着の時が近い事を理解し固唾をのんで見守る。

 そして、切っ掛けが無いにも関わらず両機が同時に突撃した。

 ソラウスはランスを勢いのまま突き、ユーリはコンゴウで切り上げる。

 そして一瞬の内に交差し、そのままお互いは振り向かない。

 コンゴウの切っ先が砂漠に落ちる。

 連続してランスを捌いたことにより耐久にガタが来ていたようだ。

 ワー、と歓喜の声が何処からか聞こえる。

 

 大きな音を立て、ランスロットⅡのランスが両腕諸共砂漠に落ちる。

 「見事。」

 ソラウスはただその一言を言い、コックピット内でユーリを称えた。

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