第15話 カムラン基地攻略戦

 ティナの相談と宣言から二日、ユーリ達はユースティアの現最前線となるバトラズに到着。

 全部隊による作戦会議が一日かけ行われユーリ達は奇襲部隊に組み込まれる事が決まった。

 それからバトラズから出陣しペンドラゴンの前線であるカムラン基地を二日、既にカムラン基地が視界に捉えられる位置にまで進軍。

 今まさにカムラン基地攻略の火ぶたが切っておろされようとしていた。


 「と、言う訳で出撃まで残り少ないが何か質問があったら今のうちに言っとけ。」

 エーデルワイスの格納庫内、そこでユーリは作戦の最終確認をしていた。

 本来緊張感で包まれている空気の筈だが、部隊の雰囲気は何処か緩んでいた。

 より正確に言えばアドルファスがニヤニヤ、テリーは微笑ましくユーリを見ている。

 ドロシーはそんな二人に呆れている様子でもあるが時置きユーリに疑いの目を向けてくる。

 唯一戦いに向けてやる気を高めているのはティナで、合図があれば今でも出撃しそうな勢いだ。

 そんな中アドルファスが質問する、

 「隊長はハミルトンとどこまで行ったんですか?」

 作戦とは全く関係のない事を。

 その質問にティナは顔を赤くし固まり、ユーリは頭を抱える。

 ティナがユーリの部屋から出ていく所を誰かが見ていたらしく、この話は瞬く間に艦内に広まった。

 しまいにはノア艦長とジャック副長に二人が呼び出される事態になった。

 ティナはこの話になると固まってしまう為、ユーリ一人で説明し続けどうにか納得してくれる人が増えてきたが未だに二人の関係を疑っている者がいる。

 その筆頭がアドルファスである。

 ちなみにテリーは噂を信じているが温かく見守る方針のようで何も聞いてこない。

 ドロシーはこの下らない噂自体を嫌悪しているようで目線で「早くどうにかして」と訴えかけてくる。

 「あのな、コックス曹長。これから戦いが始まるというのにまだその話をぶり返すのか?いつ死ぬか分からないというのに…。」

 ユーリが窘めるがアドルファスは懲りた様子はない。

 「いつ死ぬか分からないからこそこの噂の真偽を確かめておきたいんじゃないんすか。あれから隊長ハミルトンのことファーストネームで呼んでいるし。」

 とニヤニヤ顔を崩さない。

 全力でこちらをからかう気満々だ。

 ティナと呼ばないと泣きそうな顔で見てくるので仕方がなくファーストネームで呼んでいるがやはり止めておけばよかったと後悔する。

 ため息をつきどう対処するかユーリが考えていると。

 「アドルファス、そろそろ気持ちを切り替えよう。」

 微笑ましく見ていたテリーが顔を引き締めアドルファスを窘めた。

 「この戦いは僕たちだけでなく様々な部隊が投入されている。うちの部隊の事で他の部隊に迷惑はかけられないよ。」

 「…そうだったな、すんませんでした隊長。」

 この件に関しては味方の筈のテリーに言われ流石に頭が冷えたのかユーリに頭を下げる。

 「いや、大丈夫だ。トンプソンもすまないな。」

 「いえ、軍人として当然です。」

 場を納めてくれたテリーに対して礼をいうユーリだが、

 「けど、できれば作戦が終わったら教えてあげてくださいね。」

 その一言で感謝するのを止めた。

 作戦開始まであと1時間なんとも締まらなかった。


 作戦が始まってから2時間半戦況は一進一退の様相をしていた。

 大軍をもってカムラン基地を攻めるユースティア、寡兵ではあるが地の利を生かし一人一人が必死に抵抗するペンドラゴン。

 どちらも持てるすべてをもって戦っていた。

 そしてユーリ達がいる奇襲部隊がカムラン基地に近づいていく。

 「戦況は?」

 エーデルワイスのブリッジ内で艦長であるノアがメインオペレーターであるオリビアに確認を取る。

 「現在わが方の主軍は敵第二防衛ラインにて交戦中です。」

 「敵も思っていたより粘りますね。」

 オリビアの報告に対しジャックがペンドラゴンを評価する。

 予定では三つある防衛ラインの内最終ラインを攻略する程の時間の筈だ。

 「それだけ敵も必死という事だ。」

 ノアは報告を受けても動揺はしなかった。

 いくらこちらが戦況を有利にしていても相手は先王が攻めきれなかったペンドラゴンである。

 勇猛さで知られる彼らに対し油断などはしてはいけないとノアは固く誓っていた。

 「ですが奇襲が成功すれば流れはこちらに傾きます。」

 そのノアを見ながらジャックはいう。

 たしかにこの作戦の決め手である奇襲を成功させれば戦況は決定的なものになるだろう。

 「うむ、そのためにも急いで向かわなければ」

 ジャックの言葉に肯定し、速度を速める命令を出そうとした時であった。

 警告音がブリッジ内に鳴り響いた。

 「どうした!?」

 「レーダーに感あり!前方に敵艦です!」

 ノアの声に対しオリビアが素早く報告する。

 「数は!?」

 「およそ五艦!現在MTを出撃させているようです!」

 ノアとジャックは敵艦の数を聞き顔をしかめる。

 こちらは奇襲部隊ということもありエーデルワイスを含め三艦である。

 数で負けているがノアたちが顔をしかめているのはそこではない。

 「見破られていましたね。」

 ジャックが忌々しめにいう。

 ここに艦を伏せていたということは奇襲が見破られていたということである。

 「嘆いても仕方がない、エーテルチャフを散布したのちドラクル小隊を出撃させてくれ。」

 ジャックの言葉に答えながらもユーリ達を出撃させるノア。

 オリビアが小隊に出撃の誘導を行っている間、ノアは一人ごちる。

 「は大丈夫だといいが。」


 襲撃から少したったのちユーリ達奇襲部隊の戦況は思わしくなかった。

 アドルファスが長距離射撃により敵艦を一隻沈めたが、こちらも一隻落とされてしまった。

 ユーリ達も奮戦しているが前までのテロ部隊や盗賊団と違い練度の高い部隊に苦戦する。

 先ほどエーデルワイスの砲撃によりさらに一隻落としたが敵の勢いは落ちそうに無かった。

 右後ろから切りつけてきた敵MTの胴体を切り払ってユーリの目の端に見覚えのある敵MTが見える。

 ソラウスの息子、クラレントのMTであったはずだ。

 ユーリは敵艦に向かうのをやめクラレントに突撃する。

 《敵艦を撃沈させるのでは。》

 「あいつがここの指揮官である可能性が高い。あいつを倒してここを突破する!」

 アイギスに答えたユーリの考えは正しかった。

 クラレントはここの指揮官であり、ソラウスのように自らMTに乗り指揮を高めていた。

 距離が縮まるとクラレントもこちらに気づいたようだ。

 「!ユーリ・アカバ!?」

 側近だろうか、クラレントの近くにいた二機がユーリを止めようと向かってくる。

 「どけ!」

 ユーリは突撃の勢いを落とさず二本のビームサーベルですれ違いざまに切りつけ二機とも落とす。

 後ろで機体が爆散する音を聞きながらユーリはクラレントに袈裟切りをする。

 「なめるな!」

 が、クラレントはビームランスで受け止める。

 じりじりと鍔迫り合いの状態が数秒続いているとクラレントがユーリに回線をつなぐ。

 「貴様をここで倒せし奇襲を阻止すれば、ユースティアを押し返せる!だからここで死ね!」

 「悪いが、それは無理だな!」

 クラレントの言葉にそれだけ返すとユーリはクラレントのMTの胴に膝蹴りを入れる。

 「何!?」

 想定してない一撃でMTが後ろに押される。

 すぐさまユーリは相手コックピットを狙いランチャーを撃つ。

 クライアントはコックピットの直撃は避けたものも飛行ユニットに当たり砂漠に落ちる。

 ユーリはすぐさま追いかけるとクラレントの機体は砂に埋もれたままピクリとも動かない。

 操作システムに不具合が起きたか気を失ったか、もしくは死亡したかは分からないがとにかく好機であることは間違いない。

 捕虜にすべくクラレント機に近づいていったその時であった。

 《少尉、右方向》

 聞こえたのはそこまでであった、衝撃がユーリを襲う。

 ファフニールが横に倒れ、ユーリがカメラで衝撃の方向を見てみると見覚えのある機体であった。

 「戦場で油断するとはまだまだ甘いな、ユーリ・アカバ」

 ペンドラゴンの獅子、ソラウス・ゴードウィンの機体であった。

 ユーリは急いでファフニールを立ち上がらせるが反応が先ほどより遅い。

 「っ!アイギス、状態は。」

 《右腕は中破、飛行システムにも損傷が見られます。》

 アイギスの被害報告に顔が渋くなるユーリ、この相手に右腕の損傷はかなりきつい。

 ソラウスのMTがランスを構える。

 「せめて君だけでも討っておこうか。」

 そう言うとソラウスは機体をユーリに向かって突撃させようとした時、ビームの雨がソラウスのMTに降り注ぐ。

 ソラウスは数発受けたものも、すぐさま避ける。

 「隊長!無事ですか!」

 「!ティナ!」

 上を見てみるとティナのファフニールがガトリング砲をソラウスに対し構えていた。

 そうしているとソラウスはクラレントのMTを肩に担ぐ。

 「お…やじ……何を。」

 クラレントの機体から声が聞こえるどうやら生きてはいたようである。

 「撤退だ、クラレント。」

 そんなクラレントに対し静かにそう言うソラウス。

 「別方向からの奇襲が入った、もうすぐカムランは落ちる。」

 そうユースティア側はユーリ達とは別方向に奇襲部隊を侵攻させていた。

 ユーリ達側の奇襲は見破れたようだがどうやら別の奇襲は見破れなかったようだ。

 ユーリもティナから似た報告を受けていた。

 よく見るとペンドラゴンの軍が撤退していくのが分かる。

 「勝負は預けておくぞユーリ・アカバ。」

 それだけ言ってソラウスもクラレントを連れ撤退する。

 こちらとしても少なくない被害を受けている以上無駄に追撃するわけにはいかなかった。

 レーダーからMTの反応がなくなったのを確認し、ティナはガトリング砲を肩に背負いユーリに近づく。

 「隊長…大丈夫ですか?」

 全く動く様子がないユーリ機に心配した様子で通信を開くティナ。

 映像で見る限りではユーリにケガは無さそうであるが見えないところにあるのかも知れない。

 「ああ、済まない。少し気が抜けて、な。」

 「…そうですか!それでは帰艦しましょう!」

 曖昧な笑顔で何かを誤魔化すユーリに気づいてはいたがティナはいつも道理の反応で気づかぬふりをする。

 気を使われていると気づきながら帰艦するユーリは一人思う。

 (また、負けたな…)

 ユーリ・アカバ、MT戦における明確な二度目の負けであった。

 カムラン基地を完全にユースティアが掌握したのはその1時間後であった。

 ペンドラゴンとの戦は佳境に入ろうとしていた。

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