第13話 NostopGirl

 夜の帳がおり月と星々の明かりのみが辺りを照らすバドニクス。

 普段は砂漠が音を吸い静かな筈のこの都市だが、今日はMTが起動する音や爆発音が鳴り響いていた。

 フタヨンマルマル、つまり日付が変わり少ししてから盗賊団は現れた。

 防衛にMTがいることは知っていたのであろう、止まることなく突っ込んできた。

 降伏勧告をするまでもなく撃ってきた盗賊団に対しユーリとソラウス達は優勢に事を運んでいた。

 少数で急遽組まれた連合とはいえ精鋭同士が組んだのである、当然と言えば当然の結果である。

 特に動きが目立っていたのは四人。

 「我に続け!!」

 「獅子」の異名に違わぬ勇猛さで最前線に立ち群がってくるMTをランスで薙ぎ倒していくソラウス。

 「邪魔だ!」

 父であるソラウスのわずかながら打ち漏らしたMTを確実に打倒していくクラレント。

 「行かせ!無い!から!!」

 都市防衛という任務にやる気が漲っているティナ。

 今もエーテル残量も気にせずガトリング砲を盗賊団MTに対し撃ちまくる。

 そして。

 「アイギス!次!」

 《左42度に一機右30度に二機、射撃来ます。》

 そして初の実戦でのアイギスとの連携でMTを数多く撃破していくユーリである。

 今も素早く左に動きMTを切り伏せるとすぐさま反転、用意していたランチャー二発で敵を撃ちぬいた。 

 下手なサポートはユーリの直観的な操作を殺しかねない。

 よってアイギスは敵がどこに居るかや、いつ攻撃してくるかなどを音声で教えてサポートをしていた。

 実際ユーリ自身が課題としていた乱戦時の雑さはアイギスの的確なサポートによりなりを潜めていた。

 この四機を中心とした戦闘は盗賊団の隊長機がティナのガトリング砲によって爆散し、終わりを迎えようとしていた。

 盗賊団の残党、といってもすでに両手で数えられる程になっていたMTが去って行こうとするのを見て終わったとユーリが感じていた時であった。

 「逃がさない!!」

 という声が聞こえるようなティナ機が横をすり抜けていったのは。

 《少尉、ハミルトン軍曹が。》

 「分かってる!ったくあの元気娘が!!」

 年はそれほどユーリとは変わらないはずであるが、とつっこむような者もチャンスもあらずユーリはティナ機を追いかける。


 「許せない、許せない、許せない、許せない、許せない!」

 普段の元気いっぱいで明るいティナとは思えないほどの形相で盗賊団MTを追いかける。

 追われている事に気づいたのか残党の二機がティナの迎撃に入る。

 ティナもガトリング砲で対応しようとするが。

 「!エーテル切れ!!」

 表示されたのはエーテル切れの表示、どうやら追うのに夢中でエーテル残量の事を頭から抜けていたらしい。

 残る武器はビームサーベルしかない、敵はすでに射撃体勢に入っている。

 初撃を避けれたとしても機体自体のエーテル残量も残り少ない。

 (お父さん!)

 ティナが死の覚悟を決めたその時である。

 射撃音とすごい勢いでMTが横切ったのは。

 ビームが敵MTを貫き爆散させる。

 撃ってきた方向を見ればユーリ機がランチャーを構えていた。

 そして横切られた方を見てみると。

 「フゥ、どうやら間に合ったようだな。」

 ソラウスが乗った機体が敵を串刺しにしていた、ランスを抜くと支えを無くしたMTが崩れ落ちる。

 「ゴードウィン、さん、どうして」

 「いやなに、凄い勢いで奴らを追いかける君の機体の姿が見えてな。何かあったらいかんと思い追いかけていたのだよ。」

 「ゴードウィン大将殿、部下の救援感謝いたします。」

 ユーリが近づきソラウスに礼を言う。

 「なに一時的とはいえ協力関係だ、気にするな。だが、」

  そこまで明るい口調であったが、突如真剣な口調になる。

 「言うべき事は後で言わないといかんぞ少尉。」

 「…お気を使っていただきありがとうございます。」

 「なあに、年寄りのお節介というものだこれも気にするな。」

 といって笑いだすソラウス、こうして戦いは本当に終わったのである。


 パチンと音がした、言うまでもなくティナに対しユーリが頬を打った音である。

 明け方、残してきた全員と合流しMTをおり全員の報告をし終えてたのちであった。

 「…なんで打たれたか、理由は分かっているな?」

 「……はい。」

 ドロシー達三人は何も言わなかった。

 勝手に敵を追いかけて死にかけたのだ、怒られるのも当然というものだ。

 「軍曹に過去になにがあったかは聞かん、が今後も続くようならMTから降りてもらう、いいな。」

 「…了解しました。寛大な処分感謝いたします。」

 「ん、では以上。」

 全体の空気が緩む、まだ結成してから短いとはいえ仲間が怒られている姿を見るのはいい気がしない、ましてティナのような人物ならなおさらだ。

 「ハハハ!、若いことはいいことだな。」

 そう言って現れたのはソラウスだった、供を連れず正真正銘一人である。

 「…ご一人なのは不用心なのでは?」

 「なに、此度の戦友に会いに来ただけだ。問題はない。」

 問題大ありだと全員が思ったが口には出さない出せない。

 ソラウスは感づいてはいたが気にせずドラクル小隊を見つめる。

 「何はともあれ我が部隊も含め全員無事、バドニクスの被害もゼロ、非常に喜ばしい戦果だ。」

 「ですね。それが何よりです。」

 うむ、とソラウスがユーリの言葉に大きく頷くと今度はバドニクスの方をみる。

 「多くの民があそこに住んでいる、老いも若きも男も女もそしてペンドラゴンもユースティアも関係ない。たくさんの罪の命がこうして守られたのは君たちのおかげだ改めて感謝する。」

 そう言ってソラウスは頭を下げる。

 「いえ、こちらこそ感謝いたします。」

 そう言ってユーリ達全員が頭を下げる。

 彼がいなければ自分たちはこの都市が襲撃されることを知らず去って行ったであろう。

 こうして命が守られたのはひとえにソラウスのお陰であろう。

 そう思いながら頭を上げた先のソラウスの顔は険しいものであった。

 「さてここから先、カムラン基地で出会ったとき我々は敵同士だ。」

 全員に緊張が走る、そう本来は敵国同士こうして会話をしていること自体奇跡のようなものである。

 「では、カムラン基地にて待っているぞ。ユースティアの兵士たちよ。」

 それだけ言ってソラウスはMTに乗り去っていた。

 ユーリ達もエーデルワイスに戻る準備をしていたが、ただ一人ティナだけは去って行ったソラウスの方向をずっと見ていた。


 仕方がない事とはいえ、本来早めにユースティアの前線基地につくはずであったエーデルワイスは急ぎ向かっていた。

 小隊には休むように言われていたがユーリは私室で報告書を書いていた。

 スコットからは簡単なもので良いといわれてはいるがそれでも最低限の体裁は整えておかなければならない。

 正直にいえばユーリにとってMTに乗ることよりその後のこれの方がよっぽど疲れた。

 夜が深くなり報告書を書き終え休もうとしていた時であった。

 コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

 「?誰だ。」

 すでに皆が寝静まる頃合いの時間だ、艦長か副長で緊急の事態が起こったかとも思ったがいつまでも返事は帰ってこない。

 万一を考え机に置いてあった拳銃を握った時である。

 「…私です、隊長。」

 元気は無いが確かにティナの声である。

 一応モニターで本人であることを確認し中に招き入れる。

 俯いたままのティナを椅子に座らせユーリはベットに腰掛ける。

 「どうした?あの件ならもうすでに終わったぞ。」

 例の突撃事件のことかと思いもう既に終わったことだというユーリ。

 実際戦場では興奮して突っ込みすぎるなんて事はよくある事だ、その突撃した者の命や仲間への被害などを考えなければとくに怒ることでもない。

 だがティナは横に首を振る、その件では無かったかとユーリが思ったがティナは

 「まだ終わっていません。」

 と言ってきた。

 どういう事かと聞く前にティナは重く口を開く。

 「まだ理由を言っていません。」

 そういう事かとユーリは納得したが、

 「前にも言ったがハミルトン、別に言いたくなければ。」

 「いえ、言わしてください!」

 椅子から立ち上がり怒鳴るようにいうティナ。

 一応他の部屋より防音性に優れてはいるがそれでも周りに聞こえないか心配になる声であった。

 驚いているユーリはティナは悲痛な顔でいう。

 「もう、もう二度としない為に。」

 「…分かった。」

 それだけ言うとユーリはもう一度ティナを椅子に座るように促す。

 少しは冷静になったのか素直に椅子に座ったティナはポツポツと喋りだす。

 「私の生まれは山間の田舎町で8歳までそこで過ごしていました。優しい両親にご近所さん、豊かでは無かったですがそれでも幸せな日々は今でも思い出すことが出来ます。」

 けど、と一段暗くした声がティナから出る。

 「あの日を境にその町は消えて無くなってしまいました。」

 「…盗賊か?」

 ユーリが問いかける、突撃の話とつながっているなら答えは自然とでた。

 コクンと頷くとティナは話を進める。

 「私が山に食料を取りに行くと迷っている人がいて、私は町に案内したんです。それが盗賊の仲間とも知らずに。」

 自虐的な笑みを浮かべるティナに驚くユーリ、彼女のそんな笑みは初めて見た。

 「私が案内してからしばらくしてから町は火の海になりました。逃げ惑う人を容赦なく盗賊たちは殺していきました。」

 「……。」

 ユーリは口を挟まなかった、半端な気持ちの言葉で挟んではいけない事であったから。

 「幸いにも近くに来ていた演習部隊がいて、私と両親は助かりましたけど家は焼けいてお父さ、父の片腕は切られてしまいました。」

 フゥと一息いれ、話の間にユーリが入れておいたコーヒーを飲む。

 「他にも生き残っている人はいましたけどとても居づらくて、親類がいるカサンドラに家族で引っ越しました。」

 大きな病院もありましたしね、とコーヒーをゆっくり飲んでいく。

 それはそうだろうとコーヒーを飲みながらユーリは思う。

 わざとではないとはいえ盗賊が来る理由の一つとなってしまったのだ、居づらいどころの話ではない。

 「けど少し生活に慣れてきた、そんな時にガスアがカサンドラに攻めて来ました。」

 聞き覚えのある都市の名前が出てきてユーリのコーヒーを飲む手が止まる。

 「神様はどれだけ私の事が嫌いなんだとその時は思いました。けど、結局カサンドラにほとんど被害は出ませんでした。理由は…言うまでもないですよね。」

 カサンドラの英雄、そういわれるようになった戦いの舞台にティナがいたことにユーリは不思議な縁を感じていた。

 「街を守ったのが少年兵だったというのは後から聞きました、その時私は決意しました。私と変わらない歳の子どもが戦っていて、私より不幸な人は沢山いる、だからそんな人たちを明るく笑顔で守りたい。そう思って軍人になりました。」

 「…そうか。」

 ユーリは感慨を覚えていた。

 ただひたすらに生き残ることのみを考えていただけだがそれに何かを感じ思ってくれた、それだけで充実感が出てくる。

 「今回の件はついその事を思い出してしまいました、もう二度とやりません。」

 「分かった、言いたいことは全部か?」

 「ことは以上です。けどことが一つあります。」

 「…なんだ?」

 いい加減寝たいと思ってまた明日と言いかけたがティナの真剣な目に押され続きを促すユーリ。

 少し言いづらい事なのか目線が定まらなかったティナであるが、意を決したのかユーリの目を見る。

 「隊長はペンドラゴンの獅子を、ゴードウィンさんを、撃つことが、できますか?」

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