第12話 獅子との共闘
ソラウスに連れられ近くのカフェに移動したユーリたち5人。
例の3人組はソラウスにティナが助けた子どもを家に送り届ける様に言われ車に乗っていった。
「根は真面目な奴らだ、命令されればきちんと送り届けるだろう。」
カフェでお茶をすすりながらそう言うソラウス。
三人掛けのテラス席にソラウス、ユーリ、ティナ。
少し離れた席にテリー、アドルファス、ドロシーので座っていた。
「やはりお茶はユースティア産の物が一番美味い。」
「ユースティア産を褒めて貰えるのは光栄だがゴードウィン大将殿、護衛も無しにユースティア軍人とお茶をしてよろしいので?」
ユーリもお茶をすすりながら疑問を呈す。
たしかに状況を考えれば謀反を疑われても仕方がない。
ちなみにティナは緊張でただただお茶を飲む機械のようになっていた。
問われたソラウスはフンと鼻を鳴らすと目線を町の角に移す。
「護衛ならすぐそこにもいるぞ。」
ソラウスが向いた方を見てみると人影がちらりと見えた、この分だと護衛は結構いそうだ。
「それに私がここにいるのはピピン王の勅命、己が利権を守るしか能のない者たちに何を言われようと何ともないわ。」
ガハハと豪快に笑いだすソラウスに少し押され気味のユーリを見ながらテリー達三人はソラウスの情報を携帯情報端末で可能な限り集めていた。
「ソラウス・ゴードウィン53歳、現ペンドラゴン軍部の大将」
「ペンドラゴン軍人の家系に生まれ初陣から今まで華々しい戦績を誇っているね。」
「大将になった今でもMTで前線に立って戦っているらしいぜ、付いたあだ名が【ペンドラゴンの獅子】だってよ。」
三人が分かったことをまとめていく、が肝心のユーリとの関係は分からない。
「お互い初対面といった感じだったけどね。」
「けど名前は知ってた訳だろ?何処かであった事があるってことじゃねぇのか?」
「………」
テリーとアドルファスが言い合っている間、ドロシーは静かにユーリ達の方を見ていた。
「こうやって君とお茶を飲む事が出来るとは、人生とは面白いものだ。」
「えっ!隊長はゴードウィン大将さんと面識があるのですか!」
「………」
ソラウスの言葉にティナが反応するがユーリは黙ったままお茶を口に含む。
「艦を待たせています、そろそろ要件に入ってもらってもよろしいでしょうか?」
「?隊長?」
普段の様子とも、MTに乗っている時とも違うユーリの様子が気になりだしたティナ。
一方でソラウスは苦笑をしている。
「私としてはもう少し話をしてみたかったが、仕方がない。」
そう言うと顔を引き締め軍人の顔になる。
「ここの近くに縄張りにしている盗賊団がここを襲撃しようとしている、諸君にはその撃退を手伝って貰いたい。」
「何故我々も?盗賊団ぐらいペンドラゴンだけでも。」
ユーリの言葉にソラウスはため息をつく。
「分かってて言っているな。」
「………。」
「ペンドラゴン軍の主力はカムラン基地にいる、今ここに居るのは私の部下のごく一部のみだ。」
サラッと重要情報を聞かされた気がするがユーリは気にしない。
どのみちヴィヴィアンに行くためにはカムランを通らなければいけないのだから。
混乱している様子のティナを置き去りに話は進む
「それに知っての通りこのバドニクスとその周辺の一部は中立地帯、どちらの干渉も受けない場所に目を付けた奴らがここを襲ってくるつもりだ。」
「でも!バドニクスにも部隊は…!」
ティナの疑問に首を横に振ることで否定する。
「バドニクスの部隊は数が少ない、大群で迫られては持たないだろう。」
そこまで言うと残っていたお茶を一息に飲み干す。
「ここの長はペンドラゴンにもユースティアにも軍事的な行動を依頼することはできん、中立である意味がなくなるからな。」
「だが両方一緒なら面目が立つ…と?」
コクンと今度は首を縦に振るソラウス。
「その盗賊団は双方の軍事施設にも攻撃を仕掛けてきている、それを潰すのは君たちにとっても良いことであろう。」
そう言うとソラウスは席を立つ。
「無論上に確認が必要だろうが、我々は君たちが来る前提で作戦を進める。明日のヒトハチマルマルに会おう。」
「…最後に一つよろしいでしょうか?」
会計を済ませ立ち去ろうとするソラウスにユーリが声を掛ける。
「なぜそこまで我々を買ってくれるのですか?」
それを聞くとソラウスはこちらを振り向きユーリを見て少し笑いこう言った。
「あの日見た君の部隊なら信じられる、そう思っただけだ。」
結果としてユースティアとペンドラゴンの一時的な共闘は成立する事になった。
その後6人はエーデルワイスに戻り報告した(予定時刻を大幅に遅れた事と喧嘩未遂によりノアとジャックにこってり絞られた事も含め)のちペンドラゴン攻略の司令官に連絡を取った。
司令官も追い詰めるたびに中立地帯に逃げる今回の盗賊団には頭を悩ませており以外にも申し入れはすんなり通った。
ただし援軍は送れないのでこちらで対処するようにとのことではあったが。
そのような経緯で指定された時間まで格納庫の機体内で待機をしていたユーリに同じく待機しているテリーから通信が入る。
「隊長少しよろしいですか?」
「…ペンドラゴンの獅子との関係のことか?」
「はい、どうしても気になりまして…機密に関わることや隊長が言いたくないのであれば無理にお聞きはしませんが。」
そこまで聞くとユーリはため息を大きくつく。
「いいよ別に隠すような事じゃないからな、他の聞きたいやつにも通信開くように言っとけ。」
それを聞くとテリーは一旦通信を切る。
《よろしいのですか少尉。》
「いいって、一々説明する方が面倒だ。」
そうアイギスと会話していると全員から通信が入る。
「珍しいな、ワグナー二等軍曹がこういった会話に加わるなんて。」
「…ハミルトン軍曹にどうしてもと言われて。」
ハァ、とため息をつくドロシーに笑みがこぼれたがスゥと深呼吸をするとユーリはどこか懐かしむような顔になった。
「あれはカサンドラの防衛をする少し前ぐらいだったかな、ペンドラゴンから撤退する友軍を助ける為に一度だけこの国に来たことがあるんだ。」
《その時期のペンドラゴンでの作戦をデータで見ますと【フラゲルム・デイ作戦】でしょうか。》
「あ~、たしかそんな名前だったかも。」
フラゲルム・デイ作戦はペンドラゴンの重要施設を奇襲する作戦であったが、情報が敵にもれ失敗に終わったペンドラゴン攻略におけるユースティア三世の最後の作戦である。
「そうか!そこでゴードウィンさんと戦ったわけですね!」
ティナの言葉に微妙な顔をするユーリに疑問が出てきたのかドロシーが問いかける。
「それで戦ってどうなったのですか?」
「…それはもう見事に負けたよ。」
「「「「!!」」」」
ユーリの発言に全員が驚愕をした。
自分たちが全く敵わなかったユーリが負けたというのが想像ができない。
《そのようなデータは記録されておりませんが。》
「たぶんどっかの誰かが不都合だから消したんじゃないか?」
たしかに英雄と呼ばれるようになったのに敗北の記録は都合が悪いだろう。
こんなことをしそうな現少将の顔がユーリの頭に思い浮かぶが、今はどうでもいい。
「とにかく、散々打ち負かされていたところに援軍が来て何とか助かった。それだけの話だよ、向こうがどうして俺を知っていたかは知らん。」
話は終わりと言わんばかりのユーリであったが話は広がっていく。
「人に歴史あり、というやつですね。」
「しかし、隊長を負かすとかあのおっさんどんだけ強いんだよ。」
「けど、それも5年前以上の話…。」
「今戦えば分からない、よね!」
《検証データがありませんので断言は出来ませんが可能性はあるかと。》
「あ~もう!通信で好き勝手言うな!」
結局、時間がこの騒ぎは続いたのである。
「よく来てくれたアカバ少尉。」
バドニクスから少し離れた所でユーリ達とソラウスは合流した。
ソラウスの後ろには屈強そうな兵士たちが10名並んでいた、が。
「…どうにも歓迎されてないようですね。」
「そりゃそうだろ、ホントは敵同士だぞ。」
テリーの言葉ににアドルファスが突っ込む。
たしかに本来なら今この場で戦闘が起こってもなんらおかしくはないのだから。
それに気づきながらもユーリとソラウスは会話を進める。
一々気にしても険悪になるだけで話が進まないのは目に見えている。
「そちらはそれで全員か?」
「うむ、私を含め11名で全員だ。無論精鋭ではあるがな。」
そう言うと並んでた一人を呼び横に並ばせる。
「こやつは私の息子、クラレントだ。」
「…よろしく頼む。」
歳は二十台前半だろうか、如何にも嫌々ですという雰囲気を隠しもしない言われてみればどこかソラウスに似た青年だった。
「ハハハ、すまんな愛想がなくて。」
「いえ、気にしていません。」
そうソラウスとの会話のなかでもクラレントはユーリを睨む。
「そうか、では本題に入ろう。敵はニイヨンマルマルにおよそ80~90機ほどでひたすらに平押ししてくるつもりのようだ、我々はそれを迎撃する。簡単だろう。」
簡単な作戦とも言えないものではあるがその方がいいだろう、この連合では複雑な作戦は取れそうにもない。
「わかりました、では作戦にて。」
ユーリはそれだけ聞いて去る。
小隊のメンバーもそれに続き、ペンドラゴンの兵士も準備のため各機体の方に動いた為そこに残ったのはゴードウィン親子のみとなった。
「さてクラレント、何か言いたげだがどうした?」
「何故奴に固執するんだ。」
「アカバ少尉のことか?」
その名前を聞くと同時に溜まっていたものを吐き出すようにクラレントは言う。
「そうだ!昔から親父はあの男に固執していた!なぜあの男に執着をするのかいい加減教えてくれ!」
ソラウスは空を仰ぎ一呼吸する、一番星が見えそろそろ暗くなりそうだ。
「執着してたつもりは無いが、確かに気にはしていたことは認めよう。だが今のお前にその理由を話す気はない。」
「親父!!」
「早く準備をしろ、夜は冷えるぞ。」
それだけ言うとソラウスは自分の機体の元に歩いていった。
「ユーリ・アカバァ!!」
そう静かに吠えるクライアントの口からは強く噛みしめすぎて血が出ていた。
こうした暗雲が立ち込める中ユースティアとペンドラゴンの共闘が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます