第11話 砂と騎士の国ペンドラゴン
ペンドラゴン王国ー
ユースティアと長きに渡って戦っているこの国は、周りが砂漠であるため貧しかったが屈強なMT乗りがいることで周辺諸国から恐れられていた。
厳しい軍律による統一の取れた行軍はさながら中世の騎士のようであったという。
故にいつか人々はペンドラゴン王国のことを【砂と騎士の国】と呼ぶようになった。
ユースティアの前国王、ユースティアを建国した一世や国を富ませ大国に押し上げた二世と並び、国土を大きく広げ大きく評価されていたアリアドス・ユースティア三世が侵略しようとし唯一落とし切れなかった国でもある。
その三世の子、現国王となる四世はその様な経緯からペンドラゴンの力を削ぐことに力を入れていた。
ペンドラゴンに友好的な諸国への根回しから始まり、つい最近ではペンドラゴンの重要なポストにいた人物を寝返らせることに成功。
これによりペンドラゴンの国力は全盛期の六割にまで減少した。
更に失敗に終わったがクーデターが起こり、国民や兵たちの間では不安が渦巻いていた。
これをよしとしたユースティア四世は遂に本格的なペンドラゴン侵攻を決行、これがユーリが戻る1年前である。
その勢いは留まることを知らず、残るペンドラゴンの重要箇所は二カ所となっていた。
カムラン基地と王都ヴィヴィアンである。
この二つの拠点を攻め落とす増援の一部としてユーリたちはペンドラゴンに向かっていた。
ーユースティア国境付近 エーデルワイス内
「が~~っ!また、負けた!」
エーデルワイス内のシュミレーションルーム、かつてユーリが使った同型のシュミレーターより小型化されたものが2つほど並んでおり、その中の一つから大きな声が聞こえた。
「彼これで何敗目だっけ?」
「…7」
シュミレーターの外で順番待ちをしているテリーとドロシーはそんな会話をしながら順番待ちしていた。
シュミレーター同士を同期させることにより架空ではなく実際の相手とのMTによる戦闘が行える【リンクシステム】。
一部の者からは「ゲームのようだ。」と言われていたが、多くのMT乗りからおおむね好評であった。
そしてそのシステムはこのシュミレーターにも搭載されており、現在はユーリと独房から出てきて日にちがたったアドルファスであった。
「何かいろいろとあったようだけど元気なようで何よりだよ。」
「どうでもいい。」
しばらくは艦内の皆とギクシャクしていたアドルファスではあったが、しばらくすればそれもなくなり、ユーリともそれなりにやっていた。
少なくとも一方的に敵視することはなくなっている。
今回のリンクシステムによる対戦も自分から名乗りでたのである。
結果としてはボロボロのようであるが。
アドルファスの話題に対して興味が無さそうであったのでテリーは次の話題を出す。
「所で、トーマス・タネルの件…聞いた?」
「…」
トーマス・タネルはユーリたちが護送した数日後、基地内の獄中内にて服毒自殺を行ったと伝えられた。
「その件実は自殺じゃないという噂もあるのも知っているかな?」
何も喋っていないが、知っていることを前提にテリーはドロシーに語るのを止めない。
「諜報部、つまり僕たちの上が不都合な事をもみ消すために暗殺した…という噂があるんだけど。」
「何が言いたいの。」
ようやくドロシーの口が開く、興味を引いたからか早く話題を切り上げたいからかはテリーには判別がつかなかったが。
「いやもし噂が本当だったとしたら隊長は知っていたと思うか、それだけだよ。」
真剣な目でドロシーを見るテリーに対し彼女は、
「どうでもいい。」
その一言を返した。
何か言おうとするテリーであったがそれよりも早くドロシーは続きをいう。
「そんなことどうでもいい、テロの首謀者が自殺しようが殺されようが上の判断には従う。私たちは上を選ぶことは出来ない、だからせめて上がやっていることが正しいことを信じて私は戦う。だから少尉のことは信じるし、その噂が本当だろうと関係ないしどうでもいい。」
そこまで一息に言うとやっとテリーの顔を見るドロシー、その顔は決意に満ちていた。
「間違ってる?」
そう言われたテリーは両手を挙げ降参の意思を示す他なかった。
「くそ~、やっぱ勝てね~。」
そう言ってアドルファスが出てきたのは10敗目を記録した時であった。
「コックス曹長は近接戦闘の無駄が多すぎるんだよ。」
そう言ってユーリも出てくる、かなり長い時間シュミレーションをしているはずだがその顔にはまだ余裕がありそうだ。
「そうはいっても俺はスナイパーで、」
「敵がその理屈を聞いてくれるといいね。」
ウっ、と言葉を詰まらせるアドルファスを置いといてユーリはテリーとドロシーに顔を向ける。
「で、次はどっち?」
「もうやるんですか?もう少し休まれた方が、もう21戦しているというのに。」
テリーが横目で見つめる先には、シュミレーション中に運悪く頭を打ち目を回しているティナがいた。
ユーリとしては負けても負けても勝負を挑むティナに精神的に疲れていたため多少助かっていたが。
「大丈夫大丈夫、そんなに疲れてないしそれに。」
そこまで言うと真剣な目で言う。
「敵にそんな言い訳するわけにはいかないからな。」
「…そこまで言うなら、お願いします。」
元々ドロシーと打ち合わせしていたのでテリーが先に挑む。
二人がシュミレーションを開始ししばらくしてからアドルファスがドロシーに話かける。
「っーか、なんでペンドラゴンと戦するんだ?」
そう聞くとドロシーは呆れた目をアドルファスに向けてくる。
「…学校で何学んでいたの。」
安易にバカ、と言われている気がするが知らないのは事実なので黙るアドルファスの様子を見てため息がでるドロシー。
どう説明しようかと頭をひねっていると。
「ガスアと密接な関係にあるからだよね!」
と気絶していたはずのティナが説明し始めた。
「ガスアとペンドラゴン、同盟関係ではないけど現ガスアの皇帝であるクシュナ―ル・ガインの遠縁はペンドラゴンの王、アーサー・ピピンの近親者なんだって!で、もしガスアと戦になった時ペンドラゴンがガスアに加勢するんじゃないかって三世様は思ったんだよ!ちょうど滅ぼした国の王族がペンドラゴンに逃げた事もあって戦いが起きたんだよ!」
ティナの怒涛のような説明にアドルファスとドロシーは口を挟めずにいた。
というより普段のティナからは想像できないような知識量にアドルファスはもちろんドロシーでさえも口を開けてポカンとしていたというのが正解であった。
「結局その時は負けちゃってガスアと戦争になってもペンドラゴンは動かなかったわけだけど、未だに動くんじゃないかっていう不安はあるから大国である前に倒しておこうってことだと思うよ!宣戦布告の理由としてはユースティアの犯罪者なんかがペンドラゴンに多くいるからそれを引き渡すように言ったけど向こうが突っぱねたから、だったよね!ドロシーさん!」
未だポカンとしている二人だったが、話を振られたドロシーは何とか声を絞りだす。
「そ、そうだけどなんで知ってるの?」
「えっ!だって学校で習ったし、ニュースとかでも言ってたよ!」
「そ、そうね。ちなみにだけどハミルトン?あ、あなた座学の成績は?」
「?オールAだけど!」
かつてない衝撃がアドルファスとドロシーを襲う。
一見してこの天真爛漫な、悪く言ってしまえばアホぽいティナが自分たちより(ドロシーは2つほどB+、アドルファスは言う必要性もない)頭がいいなんてと床に手をつけてうなだれる二人。
「え!?二人ともどうしたの!?ねぇてば!?」
自分の知性のせいで項垂れているとはつゆ知らず、どうすればいいのか分からないティナ。
結局テリーとユーリがシュミレーションを終え(ユーリの全勝)出てくるまでの時間この状態は続いたという。
ーペンドラゴン領土内、中立都市バドニクス
「というわけで、ここで補給をしてから最前線に向かう。」
とユーリが皆に言ってから数時間、たまたま合流したテリーとアドルファスそしてドロシーを連れ都市を歩いているユーリ。
「にしても案外賑わいがあるなここ。」
アドルファスの目線の先には露店が並んでおり、たくさんの人で賑わっていた。
「…ここは早い段階から中立を宣言していて多くのユースティア側の人間もいるしそもそも戦争に反対のペンドラゴンの人も多く居るから。」
「なるほどな、ここの領主も戦争反対な訳だ。」
「それは違うよアドルファス曹長。」
ドロシーの説明に納得していたアドルファスであったがテリーが否定を入れる。
「ここの領主は元々ペンドラゴンとユースティアのハーフなんだよ、どちらについても半端に弾かれるから中立を保ったのが偶々上手くいったのさ。」
「…なんか裏切られた気分だ。」
そんなことを言いながら都市の中心部に来ていた。
「それよりもハミルトン軍曹はどこ行ったんだ?そろそろ時間なんだが。」
ユーリがボヤキながらキョロキョロと探す。
「もう戻ってるのかも知れませんね、少尉一旦戻った方が…ん?」
テリーそう歩きながら提言していると急に立ち止まる。
「?どうしたトンプソン曹長。」
「いや、あそこにティナさんが見えた気が。」
全員がテリーが向いてる方向を見てみると人混みができていた。
「俺は見えんが、コックス曹長何か見えるか?」
「いや、人込みでみえねぇ。」
「…近づいてみます。」
そう言ってドロシーは人込みに近づいていく。
それを追って三人も人込みに近づいていく。
近づくにつれティナの声が響いているので居るのは間違いないようだが。
「揉めてる?」
どうやらドロシーの言う通り揉めてるらしい、更に近づいてみると。
「っ!ペンドラゴン軍人!」
アドルファスの言う通り、揉めている相手はペンドラゴンの軍人3人らしいがティナの後ろには子どもがいて庇っているようにも見える。
「おかしいですね、ペンドラゴン軍はこの地域からはほぼ撤退しているはずですが。」
バドニクスは確かにペンドラゴン領土内ではあるが、主戦場となるカムランとは離れており中立といってもほぼユースティア領土内といっていいほどだ。
故にペンドラゴンはほとんどここを放棄している、なのにペンドラゴンの軍人が堂々と歩いていることに矛盾を感じるテリー。
「考えても仕方ない、三人とも行くぞ。」
こうしている間にもどうやらヒートアップしているようでいつ乱闘騒ぎになってもおかしくなさそうだ。
ユーリは覚悟を決めティナに近寄っていく。
「!!アカバ少尉!、皆!」
ティナもこちらに近づいてきたユーリ達に気づき笑顔を見せる。
それに合わせペンドラゴンの軍人もこちらを睨んでくる。
「失礼、ユースティア大国第三特務部隊【ドラゴニス】指揮官ユーリ・アカバ少尉です。何かありましたでしょうか?」
ユーリにしては珍しく丁寧に自己紹介をする。
少しでも相手の敵外心を少なくしたい一心であったが、相手の怒りも相当のものらしい興奮した様子で。
「ふん、どうしたも何もこいつが軍曹の分際で我々に言いがかりを付けてくるのだ!」
相手の言葉に激高した様子のティナも言い返す。
「言いがかりじゃないんです!この人達がこの子を引きかけたんです!!」
どうやら庇っているように見えたのは間違いないらしい、ティナの服装をよく見てみれば確かに砂で汚れている。
「我々は知らんと言っているだろう!しつこいぞ!」
だが向こうは向こうで言い返す、本当に見えて無かったかも知れないがとにかく状況が悪い、野次馬もドンドン集まってくる。
(隊長ここは穏便に)
(コクン)
テリーの耳打ちに頷くユーリはともかく相手を落ち着かせる事にする。
「真偽は兎も角一旦落ち着きましょう。」
しかしその言葉を弱気の発言と取ったか相手は逆に言葉を強めてくる。
「フン!そう言って逃げるつもりだろ!ユースティアの卑怯者はそういった手は得意だろうからな!」
(まあ確かにペンドラゴンからすればユースティアは正々堂々と戦わなかった卑怯者に見えるかも知れないが…)
「なんだと、やんのかコラ!」
火に油を注ぐ言葉にティナより先に火が付いたのはアドルファスであった。
いかにも喧嘩慣れしていそうなアドルファスに少しビクつく軍人3人であったが虚勢か否か強気の態度を崩さない。
「言葉で言い負かせないから次は暴力か!ユースティアは野蛮人の集まりだな!」
「………殺す。」
次に切れたのはドロシーだった。
冷静なようで案外沸点は低いのかもしれない。
「ユースティアの女は下品だな!国の品がうかがえるぞ!」
「隊長すいません。我慢が出来そうにありません!」
最後にテリーが切れた、何処に彼が切れる要素があったかは知らないが兎に角まずい、止める人間がユーリ以外いなくなった。
もうすでに周りからは野次馬がとばっちりを受けまいと逃げ出している。
今すぐにでも喧嘩が、最悪の場合武器を抜いての殺し合いに発展するかもしれない。
「っ!いい加減に」
「いい加減にせんか莫迦者ども!!!」
ユーリの声をかき消す大声が場に響く。
全員がその方向を向くと2mは超えてそうなペンドラゴンの軍服を着た大男がいた。
歳は50歳台だろうが、鍛え上げられた体が老いを感じさせなかった。
ズンズンとこちらに近づいてくるその大男を見て段々顔色が悪くなる3人組。
そばにやって来た大男は、
「大変申し訳なかった。」
と頭を下げ言った。
混乱しているユーリたちをよそに3人組が慌てふためく。
「し、将軍。ユースティアに頭を下げるなど!」
「黙れ!!」
将軍と呼ばれた大男は一喝する。
「相手に礼を失したのならば、それを謝るは道理!そこにペンドラゴンもユースティアも関係などない!!」
そう上官に言われては何も言えないのであろう3人組は黙ったまま俯いた。
大男は再びこちらに向き直した。
「謝罪を受け取ってもらえるかな?」
「い、いえ部下も大分熱くなっていたようで、本当に申し訳ありません。」
「「「「申し訳ありませんでした!」」」」
ユーリはこちらも謝罪すると同時にアイコンタクトを送る。
全員がそれに気づき頭を下げ謝罪する。
それに対して大男は朗らかな笑みを浮かべる。
「フフ、気にすることは無い。特に彼女。」
とティナを見つめる大男。
「見知らぬ土地で見知らぬ子どもを助けさらに間違った事に反論する姿、真に立派だった。」
「え、あ、はいありがとうございます?」
突然の賛否に思わず疑問形になってしまったティナを見て笑みが深くなる大男。
「それに君。」
と今度はユーリに視線を向ける。
「あの状況下でよく冷静に場を落ち着けさせようとした。」
「い、いえ、あの場は必死でしたので、普段の自分はミジンコ以下なのではい。」
「?とにかく、立派だった良ければ名前を教えてはもらえないだろうか?」
後半は聞こえなかったのか不思議そうな顔をしていたがユーリを気に入り名前を聞いてくる大男。
「はい、ユーリ・アカバ。階級は少尉となります。」
「!!」
ユーリが名前を言うと大男は驚いていた。
「そうか、君が…。」
何やら感慨深そうにしているがユーリはこんな大男とあった覚えはない。
不思議そうに見上げていると視線に気が付いた大男は笑みを返す。
「ああいや失礼した、自分の紹介もしなくてはな。私はペンドラゴンの大将ソラウス、ソラウス・ゴードウィンだ」
「「「「「!!」」」」」
全員が驚愕した。
ただし四人は相手が大将であることに、ユーリは聞き覚えのある名前に驚いていた。
「…そう…ですか、あなたが。」
ユーリはそう言ったのち黙り込んでしまう。
ソラウスもそんなユーリを黙ってみている。
状況が分からずどうすればいいか分からないティナ達と三人組が目に入ったのかソラウスが喋りだす。
「こうして立っていても仕方ない、何処か座れる場所に行こう。それに、」
そういうとソラウスがユーリの肩にポンと手を置く。
ビクッとユーリが反応をするのを確認し語る。
「折り入って頼みがある。」
「頼み?」
声を出したのはティナであったが内容は全員が思った事である。
敵国の、それも大将がなにを頼むというのか。
「君たちが真に民を思っているのならこの頼み、引き受けてくれる筈だ。」
ソラウスの目は何処までも真剣であった。
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