第10話 信頼
「皆、初戦闘お疲れ様。」
ユーリは格納庫内で小隊メンバーに労いの言葉を掛けていた。
「流石にシュミレーションと実戦では違いますね。」
そう言いながら、テリーは爽やかに汗を拭う、
他のメンバーも汗を掻いていたり、息を整えていたりする。
元気の塊のようなティナも流石に言葉に少し元気が無い。
一方でユーリは汗を掻いてこそいたが微量で、息も乱れてはいなかった。
(やっぱ場数だよな、こればっかりは。)
緊張感が全くないのも問題ではあるが無駄な緊張は動きを固くさせてしまう。
実際ユーリも初めてMTに乗った時は身震いが止まらなかった。
彼の場合ブッツケ本番で乗らされたのが大きな理由ではあるが。
とにかく実戦を繰り返し、無駄な緊張を取り除かないといけないとユーリが考えた時アドルファスがつかつかと近寄ってくる。
「?どうした、コックス曹長。」
場が微妙な雰囲気に包まれる。
皆が思い出すのはユーリとアドルファスの初対面で起こった揉め事。
またあのような事が起こるのではと皆が危惧した時であった。
「すんませんでした!」
そう言うと深々とユーリに対し頭を下げたのである。
「えぇ~!!」
驚きの声を上げたのはティナ、疲れていたとは思えない程の大きな声で周りのメカニックたちがこちらに振り向く。
テリーとドロシーも声には出さないものの驚いているようだ。
「えーっと、何に対しての謝罪か分からないだけど。」
ユーリは若干困惑しながらアドルファスに問う。
アドルファスは頭を上げずに答える。
「戦場で危ない所を助けて貰ったことっす!」
「あぁ~。」
ユーリの中で話がかみ合う、確かにカーミラの機体が近づいてくるのが見えたがアドルファスが気づいていなかった、通信では間に合わないと思ったので蹴って助けたのだ。
「完全に自分の責でピンチになって助けられておいて、詫びを入れないのは主義に反しやす!」
わざわざ皆の前で言わなくてもいいと思うが、と思いながら頭を掻きながらユーリは答える。
「気にしなくていいぞ、同じ仲間なんだしフォローできる時はするさ。」
「だけど!初対面で失礼な事言っといて!」
「思った事を正直に言っただけだ軍人としてはアウトかもしれんが俺は気にせんし、ましてピンチの味方を助けない程薄情じゃない、分かったらいい加減頭上げろ周りの目が痛い、いや上げてください。」
なぜ最後に懇願になるのかは疑問だったがそういわれては上げない訳にはいかない頭を上げたアドルファスの目に入ったのは半笑いのユーリであった。
「思ったより生真面目だなコックス曹長。」
そう揶揄われるように言われてもアドルファスは小さく頷くだけで反応を示さない。
さっきとは別の意味で雰囲気が悪くなり、ユーリを含めた全員がどうしようかと思っていると。
「はなせ!!俺を誰だと思っている!!」
怒号が聞こえてきた、全員がその方向に振り向くと捕らえられたトーマスが連行されている所であった。
白兵隊が乗る装甲車なども格納庫にあるのでその為にここを通るのであろう。
ユーリはつかつかと騒いで抵抗しているトーマスの方に歩いていく。
小隊メンバーもユーリを追いかける。
「随分と久しぶりですね、トーマス・タネル。」
ユーリが気軽な雰囲気でトーマスに話かける、トーマスはユーリの方をじろりと見ると。
「誰だ貴様は!!この俺にパイロット風情が話しかけるな!!!」
どうやらユーリの事は全く覚えていないらしい。
トーマスの言葉に小隊メンバー全員がムッとするが、ユーリは予想内だったらしく
「相変わらずですね、その自分至上主義。」
と笑っていた。
「覚えて無いでしょうが、昔あなたが率いていた少年兵の生き残りですよ。」
そう言うとトーマスは目を見開き。
「何!だったら俺を助けろ!俺の完璧な指揮お陰でお前はここにいられるんだ!!」
自分勝手な物言いにユーリではなくアドルファスの顔が険しくなるが、それに気づいたのはテリーのみであった。
「その割には死者がいっぱいでしたけどね。」
「ふん!少年兵になるしかなかつたようなゴミみたいな命を活用してやってるんだから寧ろ褒められるべきだ!それを!」
ユーリは呆れて途中までしか聞いていなかったが、話はここで終わった。
拳銃が発射される音が聞こえたからである。
ユーリが後ろを見てみるとアドルファスが拳銃でトーマスを狙ったのをテリーが防いだらしい。
アドルファスの拳銃をテリーが押さえている。
弾は床にめり込んでいる。
トーマスは自分が狙われたのに気付いたのか腰を抜かしていた。
「…トーマス・タネルを連行してくれ」
ユーリは白兵隊にそう命令すると腰を抜かしたトーマスを引きずりながら連行していった。
もうトーマスに興味がなくなったようにユーリはアドルファスの方向に向く。
そのころにはこの艦の保安部隊にとり押さえられていた。
「どのような理由があるかは知らないが無許可に、しかも捕虜に対し発砲したことは許されることではない。」
アドルファスは反応を示さない。
「取り合えず独房に入ってもらう、素直に従ってくれるな?曹長。」
そう問われてやっとコクンと頷くアドルファスを保安部隊が連れていく。
「大丈夫か、トンプソン曹長。」
アドルファスが連れていかれるのを見送ると手を摩っているテリーに声を掛ける。
「ええ、咄嗟の事でしたので銃の軌道を変えるしかなくてすいません。」
そう爽やかに応えるテリーに笑みを返し後、真面目な顔になるユーリ。
「しかし、何故。」
「えぇ、なぜアドルファス曹長が…。」
勝利したのに暗雲が立ち込めるドラクル小隊だった。
ちなみにティナな撃ったのがアドルファスなのを確認してからずっと固まっており、そんなティナをドロシーはずっと突いていた。
エーデルワイス独房内ー
ガチャンと音と同時に独房内にユーリが入るとアドルファスはベットに横になり天井を見上げてていた。
そんなアドルファスを見ながらユーリは黙っている。
「…何も聞かないんすか?隊長。」
「何も答えないつもりなのか、曹長。」
そう話したのち再び沈黙が包む、しばらくしてもこの状態が続いたがアドルファスが語りだす。
「双子の兄弟がいたんすよ、俺。」
ユーリは黙って聞いてる。
「仲はそれほどいいってわけじゃなかったすけどね、そんなあいつが何を思ったか10歳のころ兵隊になりたいって言い始めて。」
アドルファスの顔に少し笑みがうかぶ。
「当然親も俺も反対したんすけどね、家を飛び出したんすよあいつ。」
そこでユーリも喋りだす。
「そして少年兵になって戦死した…そんなところか?」
コクンと頷くアドルファス。
「アンタに突っかかたのも本気で嫌ってわけじゃなくてあいつが死んでるのになんでアンタは生きているって思っちまって。」
そう言うと泣き出すアドルファス。
「分かってるんすよ、あんたを憎んだりあのクソ野郎を撃ってもこの心は晴れないってことは、けどあの野郎の話を聞いてたら我慢できなくて。」
そう言い切ると独房内にアドルファスのすすり泣く声のみがしばらく響く。
「さっきも言ったが曹長がやったことは許されることではない、艦長や副長、そしてオーウェン少将にも意見を聞く、覚悟はしておけ。」
そう言うとユーリは独房を離れていった。
アドルファスはあえて何も言わないユーリに感謝した。
「独房に一週間…ですか?」
『そうだ。』
艦長と副長を一緒にスコットに通信をしてスコットが決定したアドルファスの処遇がそれであった。
「余りにも短すぎるのではありませんか?厳正に処分とはいかずとも期間を延ばした方が…」
ジャックがそう疑問を呈す、口には出さないがノアも同じ意見のようだ。
その様子を黙ってユーリは見ていた。
『いや、敵首謀者であるトーマス・タネルの言動にコックス曹長が義憤に駆られても仕方ない、よって今回はこの程度とする。』
スコットの確固たる意見にいうこともないのか黙るジャック。
『ではアカバ少尉と話があるので少しノア大佐とサンダース中佐は外してくれ、アリックス今度飲みにでもいこう。』
「お前のおごりならな。」
といいアリックスはジャックを連れ通信室から出る。
『アカバ少尉、初勝利おめで「知ってたろ、アドルファス曹長の過去」…なんのことだ』
少尉が将軍の話に割って入る通常の指揮系統ならありえないだろうがこの二人の関係は通常には収まらなかった。
「例え話をしようか、例えばあるテロ首謀者に関わりのある一人の兵士がいるとする。」
ユーリの話を黙って聞くスコット。
「その首謀者は過去に軍にいて何か軍に不都合な情報を握っている、公に殺せば流失する可能性があるそこである兵士に目をつける、その兵士はその首謀者に兄弟が殺されたも同然という恨みを抱いている。」
『続けて』
話を促すスコット。
「その兵士を首謀者に近づけば何かしらのアクションを起こすはず、場合によってはその首謀者は死亡して秘密は守られる、雑な例えだがどうだ上手い例え話だったか?」
『あぁ、上手い例え話だったよユーリ。』
スコットはユーリに対して笑顔で話している、対するユーリは顔をしかめている。
『それで君はその例え話で何を伝えたいのかな?』
「別になにも。」
ここにきてスコットは驚く、てっきり何かしら要求してくると思ったからだ。
「あんたがこの手の策略を好んでないのは知ってるし、いろいろと俺の知らないところで戦ってるのもわかってるつもりだ、だが。」
そこでユーリは一呼吸おいてから
「出来るだけ俺に…いや俺たちにこんな手を使うな、でないとあんたを信じられなくなる。」
『……それは困るな。』
ユーリの真剣な様子に笑顔でいたスコットも真剣になる。
『わかった、約束しようできるだけ君たちに今回のような事をしないし頼まない。』
「了解、でタネルを近くの基地に送ったその後は何すればいい。」
真剣なスコットの言葉を信用したのか話を切り替えるユーリ。
その切り替えの早さに思わず笑みがでるスコットであった。
『うむ、次に向かってもらうのは【ペンドラゴン王国】だ。』
「ペンドラゴン…」
「ついにあの国に王手を掛けた、残す重要拠点はあと一つ君たちにはその応援に向かって貰う。」
何かを思っているユーリにスコットは宣言する。
『攻め落とすのだあの騎士の国を。』
一方その頃のトマス
催し物があったわけでなく至って普通の一日であったが普段は賑わいのない通り道がざわついていた。
それも殆どが男であった。
理由は簡単見知らぬ美人が歩いていたのである。
たったそれだけの理由であったが男たちはその女性に目を奪われていた。
彼女がいるものも妻がいるものも誰彼構わず魅了していた。
彼女は笑いながら歩いていた、通常なら引かれるか通報されるかのどっちかだろうが彼女の蠱惑的な雰囲気がそれを許さなかった。
「やっと、やっと会えた!!」
彼女は自分が周りを魅了しているとは知らず歩いていた。
いや、例え知っていたとしてもかまわなかっただろう。
普段ならうっとうしく感じる視線も今の彼女にはどうでもいいことだそれほどまでに彼女、カーミラ・エッツオは機嫌が良かった。
ユーリの追撃を逃れた後、近くの森に機体を隠し単身でトマスにやって来たのである。
(とにかく、体を休めてローズの修理をしてくれる所を探したら情報を集めなくちゃね。)
彼のことを思い出しただけで笑みがやめられなくなる。
これ程までに胸が躍るのは初めてだ、まるで初恋のようにとウキウキするのが止まらない。
(だから次会う時まで死なないでね、私の
カーミラ・エッツオ27歳、彼女の気持ちはユーリ一色になっていた。
彼女がユーリたちの物語にどのような影響を与えるか、それはまだ不明である。
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